観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)

奏せいや

ホワイト2

「お前が戸惑うのも当然だ。そして気に掛けるのも至極真っ当なことだ。お前は困惑しているだろうが、安心しろ。それが正常だ」

 ホワイトは淡々と口にする。きっと私を気に掛けてくれたから、とかそんな優しさではないと思う。彼はただ、事実を言っているだけ。

「だが、俺が答えたところでお前の迷いがなくなるとは限らない。いや、むしろ深まることもある」

「それでもいいです。お願いします」

 私は意を決めて、彼に頷いた。物さ定めをするような彼の視線に負けないように、彼を見つめる瞳に力を入れて。

「ならば話そう。信じるかは勝手にしろ」

 そう言って彼は視線を私から窓へと移した。昼の日差しが部屋に充ちていく。温かな光を彼はじっと目にするが、何を考えているのかはやはり分からない。

「この世界には三つの世界が存在する。一人の意識に基づいてだ」

「一人の意識?」

「そうだ。そのために意識世界と言われるが、人の意識は三つに分けられる。表層意識。深層意識。無意識。そのため、意識世界にも三つの世界がある。それぞれ、表層世界。深層世界。無意識世界と呼ばれるものだ。俺たちがいるこの世界は表層世界という世界で、知識によってできている」

「知識……」

 覚悟はしていたつもりだった。どんなとんでもないことを言われても、あの黒い世界以上のことはないだろうと。けれど甘かった。

 彼の言っていることは予想外で、まさか人の意識だとか三つの世界とか言われるとは思わなかった。私は面食らいそうになるが顔には出さず、彼の話を最後まで聞くと決めた。

「たとえば、元となる人物の知識、その大半が花や植物だとすると、それらの知識は世界に反映され、この地上のほとんどは木々に覆われることだろう。逆に戦争や軍事に詳しく、関心を寄せれば実際に戦争が起こり火の海だ。まあ、この世界を見渡す限り、その人物はまともな知識の持ち主のようだがな」

 そう言ってホワイトは目を閉じた。まるで皮肉のような物言いで、なんだか私の目を避けているみたい。

「…………?」

 私はじっと続きを待っていると、彼は静かに瞼を開いた。

「次に深層世界だが、表層世界の下にある世界だ。その人物の深層意識、いわゆる心や感情、人格というものが元になっている。例の人物が怒れば火事が起こり、泣けば雨が降るし洪水も起こる。別名、ワンダーランドと呼ばれる世界だ」

 ワンダーランド。その言葉には聞き覚えがある。夢の中に出てくる白うさぎが言っていた。ワンダーランドへと行こうと。偶然、なのだろうか。

「最後に無意識世界と呼ばれる場所だが、その人物の無意識、本能が反映された世界だ。無意識というのは誰にも観測できない。故に、そこには何もない。不変で、無機質な世界だ。原初から変わらないもの」

 無意識世界。その場所を語る彼の仕草はどこか辟易としているように感じられた。

「これらが意識世界、その三つに分けられる世界だ。それで、その元となっている人物を観測者という。その者が世界を観測し、そこで得られる知識が表層世界に反映され、起こる心の動きが深層世界を動かし、無意識は不変のまま」

「その観測者っていうのが」

「そうだ」

 ホワイトが切っていた視線を私に向ける。鋭い目。否定できない事実を押し付けるような。
「お前のことだ。この世界はお前を元にして出来ている」

 そんな。この世界が私を元にしてできている? 私の知識が? 私の心が? 私の本能が? 信じられない、そんなこと。

「ちなみに今朝体験した黒い世界だが、あれは特別だ。メモリーがここへ現れたことにより、表層世界と深層世界の一部が交わった、表層世界でありながら深層世界でもある、またはどちらでもないイレギュラーな空間だ」

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