観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
ホワイト1
暖かい。柔らかい感触が私を包んでいる。ここはどこ。私は、どこにいるんだろう。
ゆっくりと意識が戻ってくる。白い光の中から起き上がるように私は瞼をあけた。
「……私の部屋だ」
見慣れた天井。白い布団にいつものベッド。周囲を見渡してもここは私の部屋だ。机においてある目覚まし時計を見れば時刻は十二時三十分。五時間ほど眠ってしまったらしい。
瞬間だった。ハッと思い出し、私は体を両腕で抱きしめる。背筋が凍り、震えそうになる私の身体。
記憶。忘れられるはずもない黒い世界の記憶。まだ、恐怖が体に残っている。余韻だけでも身動きを封じるほどの恐怖が。
あれはなに? どういうこと? 分からない。
そこで私は思い出す。
「そうだ、あの男」
黒い世界にいた白い男。ここに運んでくれたのは彼だろうか。どうして私の部屋を知っているのか、どうして名前を知っていたのか。
そして彼、ホワイトと名乗る彼は何故黒い怪物のことを知っていたのか。まだまだ聞きたいことはいくらでもある。今すぐにでも。
それで私は改めて周囲を見渡してみた。しかし、当然そこには誰もいない。
「そんな……!」
焦る。こんな訳の分からないことが起きて、なのに置き去りなんて嫌。
「誰かいないの!?」
一人きりの寂しさが胸を締め付ける。孤独だと感じるだけで、また怖くなってしまう。私はベッドから降りて再び叫ぼうと――
「なんだ、うるさいぞ」
と、したところで制されてしまった。
いた。声がしたのは洗面台。ここからでは死角になって見えない場所から、白衣の彼が現れた。その手には今絞ったばかりの塗れたタオルが握られている。もしかして、私のため?
「あ、あの」
「とりあえず座れ、混乱しているだろう」
まるで私の心を透かしているようにホワイトは言う。事実その通りなので、私は素直にベッドに腰掛けた。
「いるか?」と手渡されたタオルを軽く顔に押し当てて、上がっている心を冷まさせる。そして顔からタオルを離してから息を吐く。これだけで大分落ち着いてくれた。
ホワイトは対面にある勉強机の椅子に腰かけている。コートの端が床につき、初めて出会った時と同じ、何を考えているのか分からない表情をしている。
冷たいというか、孤高のような。慣れ合うのを好まない態度。
彼は腰掛けたまま足を組む。すらっとした長い足。銀髪と白い肌、青い瞳。彼の容姿を、今更私はこの部屋では浮いているなと思った。
それだけに、彼は美しかった。こんな美形、外国人モデルでもそうそういないのではないだろうか。落ち着いた気品と洗練された雰囲気は、まるで本当の貴族か王子様のよう。
「ありがとうございます、その、ホワイトさん」
私は借りてきた猫のようにお礼を言った。命を助けてくれたのだから、ちゃんと言わないと。私は感謝を込めて、彼に躊躇いがちに言う。
「まったくだ」
「…………」
が、彼は無愛想にもそれだけ。私の感謝はどうでもいいように言い捨てられてしまった。まあ、たしかに迷惑をかけたのは事実だけど、でもそんな風に言わなくてもいいのに……。
「それでその、聞かせてください。さっきの、黒い怪物のこと。あなたのことも。私、なんにも知らなくて。あれは全部、現実……?」
言っていて私は不安になってきた。だって、全部おかしいもの。現実にあんなこと起こるわけがない。
あれは全部夢や幻だと言ってくれれば、相手が医者でなくてもそうだと信じてしまいそう。いや、むしろそうなのだと思いたいのかもしれない。
「いや、あれは幻覚ではない。全て、お前の身に起こった事実だ」
けれど、彼は否定する。私の甘い期待を慈悲のない冷たさで摘み取る。
ゆっくりと意識が戻ってくる。白い光の中から起き上がるように私は瞼をあけた。
「……私の部屋だ」
見慣れた天井。白い布団にいつものベッド。周囲を見渡してもここは私の部屋だ。机においてある目覚まし時計を見れば時刻は十二時三十分。五時間ほど眠ってしまったらしい。
瞬間だった。ハッと思い出し、私は体を両腕で抱きしめる。背筋が凍り、震えそうになる私の身体。
記憶。忘れられるはずもない黒い世界の記憶。まだ、恐怖が体に残っている。余韻だけでも身動きを封じるほどの恐怖が。
あれはなに? どういうこと? 分からない。
そこで私は思い出す。
「そうだ、あの男」
黒い世界にいた白い男。ここに運んでくれたのは彼だろうか。どうして私の部屋を知っているのか、どうして名前を知っていたのか。
そして彼、ホワイトと名乗る彼は何故黒い怪物のことを知っていたのか。まだまだ聞きたいことはいくらでもある。今すぐにでも。
それで私は改めて周囲を見渡してみた。しかし、当然そこには誰もいない。
「そんな……!」
焦る。こんな訳の分からないことが起きて、なのに置き去りなんて嫌。
「誰かいないの!?」
一人きりの寂しさが胸を締め付ける。孤独だと感じるだけで、また怖くなってしまう。私はベッドから降りて再び叫ぼうと――
「なんだ、うるさいぞ」
と、したところで制されてしまった。
いた。声がしたのは洗面台。ここからでは死角になって見えない場所から、白衣の彼が現れた。その手には今絞ったばかりの塗れたタオルが握られている。もしかして、私のため?
「あ、あの」
「とりあえず座れ、混乱しているだろう」
まるで私の心を透かしているようにホワイトは言う。事実その通りなので、私は素直にベッドに腰掛けた。
「いるか?」と手渡されたタオルを軽く顔に押し当てて、上がっている心を冷まさせる。そして顔からタオルを離してから息を吐く。これだけで大分落ち着いてくれた。
ホワイトは対面にある勉強机の椅子に腰かけている。コートの端が床につき、初めて出会った時と同じ、何を考えているのか分からない表情をしている。
冷たいというか、孤高のような。慣れ合うのを好まない態度。
彼は腰掛けたまま足を組む。すらっとした長い足。銀髪と白い肌、青い瞳。彼の容姿を、今更私はこの部屋では浮いているなと思った。
それだけに、彼は美しかった。こんな美形、外国人モデルでもそうそういないのではないだろうか。落ち着いた気品と洗練された雰囲気は、まるで本当の貴族か王子様のよう。
「ありがとうございます、その、ホワイトさん」
私は借りてきた猫のようにお礼を言った。命を助けてくれたのだから、ちゃんと言わないと。私は感謝を込めて、彼に躊躇いがちに言う。
「まったくだ」
「…………」
が、彼は無愛想にもそれだけ。私の感謝はどうでもいいように言い捨てられてしまった。まあ、たしかに迷惑をかけたのは事実だけど、でもそんな風に言わなくてもいいのに……。
「それでその、聞かせてください。さっきの、黒い怪物のこと。あなたのことも。私、なんにも知らなくて。あれは全部、現実……?」
言っていて私は不安になってきた。だって、全部おかしいもの。現実にあんなこと起こるわけがない。
あれは全部夢や幻だと言ってくれれば、相手が医者でなくてもそうだと信じてしまいそう。いや、むしろそうなのだと思いたいのかもしれない。
「いや、あれは幻覚ではない。全て、お前の身に起こった事実だ」
けれど、彼は否定する。私の甘い期待を慈悲のない冷たさで摘み取る。
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