観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
覚醒1
学校が終わり、私は久遠から教えてもらった駅に来ていた。白のタイル模様の地面を歩き出入り口付近に近づいていく。
帰宅ラッシュにはまだ早い時間帯なので利用客は学生やスーツ姿の人が疎らにいる程度。決して大きな駅ではないけれど、出入り口前は広場のようになっていて、若い人たちがダンスやパフォーマンス用の自転車の練習をしていた。
他にはチラシを配っている人の姿も見える。静かだけれど、それなりに賑やかな場所。
そんな中、駅の影の下。人気のない隅にそれはあった。組み立て式の屋根と机と椅子二つ。立てかけられた看板には、夢占いの文字が浮かぶ。
珍しい。普通屋台の占いなんて、手相だと思うのに。でもそんなことはどうでも良かった。
近づいていた私は一端足を止め、緊張した胸から重い息を吐く。うん、大丈夫。緊張はしているけれど、それは恐れじゃなくて期待からだ。
夢について自分なりに調べたことはある。けれど、結局答えは分からなかった。けれども専門家なら分かるかもしれない。
胸には期待が渦巻き、念のため財布の中身を確認しておく。うん、ちゃんとある。利用料の五百円。
私は財布をしまい歩き出した。期待が歩みを早くする。
「あの、すみません。今だいじょうぶでしょうか?」
私は屋台に近づき、机の対面にいる紫色のローブを被った女性に声をかけてみた。頭から全身を覆う姿に表情しか分からないけれど、顔から女性だと分かる。
「はい、どうぞ。こちらにお座りください」
落ち着いた、占い師のイメージ通りの厳かな声で席に勧められる。私は座るとカバンを膝の上に置き、さっそく話を切り出してみた。
「あの、夢占いということなんですけれど。私、実は気になる夢があって。信じられないかもしれないですけれど、いつも同じ夢を見るんです」
「いつもと同じ夢。分かりました。それは、どのような夢でしょうか」
私は意を決めてから夢のことを話した。多くのことを語るほど複雑な夢ではないけれど、詳細を、仔細に。私は全部を話した。
占い師の人は一言も挟むことなく静かに聞いていた。私が言い終えた後、占い師は一回、静かな動作で頷く。落ち着いた姿勢で座ったまま。何を言うのだろうか。私はじっと言葉を待った。
「あなたの夢のお話は聞かせていただきました。それで、いくつか質問をさせていただきます」
「はい」
緊張した動作で、私は頷く。
「あなたが毎晩見られるという黒い世界。あなたは思い当たることはありませんか? 昔、部屋や箱に閉じ込められたことがある、など」
「いえ……」
「では、黒い世界。そこから何を連想されますか? 何をあなたは思いますか?」
「えっと」
質問に私は考える。そういえばもう何年も見ている夢なのに、こうして考えるのは初めてのことだと気付かされる。それで思ったことを、私は拙いながらも並べていった。
「なんだろう。その、寂しいとか、悲しいとか。なんというか、孤独、ていうのをすごく感じます。一人っきりで。それが、ものすごく悲しいんです。だから、助けを呼ぶ少女のことも、すごく辛そうで、助けてあげたいって、とても強く思うんです」
私は膝の上にある自分の両手を見つめながら、決意を改めるように言う。言っていて、気持ちが強くなっているのを自覚していた。
あの子を助けたい。今でも、そう思うから。
「分かりました。では、その少女のことについて。その少女は声だけ聞こえるそうですが、年齢はどれくらいだと思われますか?」
「たぶん、小学生くらいだと思います」
「分かりました。あなたは小学生くらいの少女の声を探し、いくつもの扉を開けていく。扉とは別の場所への入口です。ここではない、どこかをあなたは探していると言えます。では、導き出される答えとして」
「はい」
私の緊張が一層高まる。強張った表情で、占い師の答えを待った。
帰宅ラッシュにはまだ早い時間帯なので利用客は学生やスーツ姿の人が疎らにいる程度。決して大きな駅ではないけれど、出入り口前は広場のようになっていて、若い人たちがダンスやパフォーマンス用の自転車の練習をしていた。
他にはチラシを配っている人の姿も見える。静かだけれど、それなりに賑やかな場所。
そんな中、駅の影の下。人気のない隅にそれはあった。組み立て式の屋根と机と椅子二つ。立てかけられた看板には、夢占いの文字が浮かぶ。
珍しい。普通屋台の占いなんて、手相だと思うのに。でもそんなことはどうでも良かった。
近づいていた私は一端足を止め、緊張した胸から重い息を吐く。うん、大丈夫。緊張はしているけれど、それは恐れじゃなくて期待からだ。
夢について自分なりに調べたことはある。けれど、結局答えは分からなかった。けれども専門家なら分かるかもしれない。
胸には期待が渦巻き、念のため財布の中身を確認しておく。うん、ちゃんとある。利用料の五百円。
私は財布をしまい歩き出した。期待が歩みを早くする。
「あの、すみません。今だいじょうぶでしょうか?」
私は屋台に近づき、机の対面にいる紫色のローブを被った女性に声をかけてみた。頭から全身を覆う姿に表情しか分からないけれど、顔から女性だと分かる。
「はい、どうぞ。こちらにお座りください」
落ち着いた、占い師のイメージ通りの厳かな声で席に勧められる。私は座るとカバンを膝の上に置き、さっそく話を切り出してみた。
「あの、夢占いということなんですけれど。私、実は気になる夢があって。信じられないかもしれないですけれど、いつも同じ夢を見るんです」
「いつもと同じ夢。分かりました。それは、どのような夢でしょうか」
私は意を決めてから夢のことを話した。多くのことを語るほど複雑な夢ではないけれど、詳細を、仔細に。私は全部を話した。
占い師の人は一言も挟むことなく静かに聞いていた。私が言い終えた後、占い師は一回、静かな動作で頷く。落ち着いた姿勢で座ったまま。何を言うのだろうか。私はじっと言葉を待った。
「あなたの夢のお話は聞かせていただきました。それで、いくつか質問をさせていただきます」
「はい」
緊張した動作で、私は頷く。
「あなたが毎晩見られるという黒い世界。あなたは思い当たることはありませんか? 昔、部屋や箱に閉じ込められたことがある、など」
「いえ……」
「では、黒い世界。そこから何を連想されますか? 何をあなたは思いますか?」
「えっと」
質問に私は考える。そういえばもう何年も見ている夢なのに、こうして考えるのは初めてのことだと気付かされる。それで思ったことを、私は拙いながらも並べていった。
「なんだろう。その、寂しいとか、悲しいとか。なんというか、孤独、ていうのをすごく感じます。一人っきりで。それが、ものすごく悲しいんです。だから、助けを呼ぶ少女のことも、すごく辛そうで、助けてあげたいって、とても強く思うんです」
私は膝の上にある自分の両手を見つめながら、決意を改めるように言う。言っていて、気持ちが強くなっているのを自覚していた。
あの子を助けたい。今でも、そう思うから。
「分かりました。では、その少女のことについて。その少女は声だけ聞こえるそうですが、年齢はどれくらいだと思われますか?」
「たぶん、小学生くらいだと思います」
「分かりました。あなたは小学生くらいの少女の声を探し、いくつもの扉を開けていく。扉とは別の場所への入口です。ここではない、どこかをあなたは探していると言えます。では、導き出される答えとして」
「はい」
私の緊張が一層高まる。強張った表情で、占い師の答えを待った。
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