全財産百兆円の男
権藤修の資産
季節は秋、十月を迎えて辺りは肌寒くなってきた。
亨は会社の第二会議室にいた。
「会長、会長が以前ご紹介頂いた権藤様ですが、資産がかなりありましてどこから手を付ければ良いか全く分からない状況なんです」
顧客情報整理部長の小田原幸助が亨に言った。
「そうか――。だが資産があるのは有効に使わなければならない。俺を信用して預けてくれたんだからな」
「はい――。しかし資産が二十五億円もありこれ以上増やすとなればリスクが増します」
「そんなにあるのか。だがここで怖気づいてしまっては託してくれた権藤様にメンツが立たない。何とかしてくれ」
「そう――ですよね。分かりました。何とかしてみます」
「無理はするなよ」
「はい。分かりました。ありがとうございます。失礼致します」
会議が終わり、亨はタバコを吸い始めた。
「会長、ここは禁煙ですよ」
そう言いながら入ってきたのは白石だ。
「まぁ良いじゃないですか。今さっきちょっと面倒な会議が終わったばかりで――。ところで何か御用ですか?」
「えぇ、権藤様の事なんですが、親しい友人に聞いたんですが、少し変わっている方のようで、自分の財産を預けると言って何かあるとすぐに苦情を言ってくるそうなんです。友人は裁判まで起こされたようで」
「マジっすか……。あの人がそんな事を――。どうします?」
「どうしますと言われましても――。会長がお決めになって下さい。会長のお客様なんですから」
「ですよねぇ――。俺はあの人を信じます」
「そうですか。では私も信じます。失礼します」
「ご苦労様です」
亨は白石を見送り、携帯灰皿にタバコを捨てた。
仕事が終わった亨は西田運転のもと、自宅に帰った。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
橋本達が頭を下げて出迎えた。
「真奈美は帰ってるか?」
「はい。お部屋でお待ちです」
「分かった」
亨は自室に行き、真奈美に挨拶をした。
「ただいま」
「おかえりー。ロイの散歩はしておいたよ」
「お、ありがとう」
「いえいえー。」
亨は真奈美にそう言うとタバコを吸い始めた。
「もー、タバコ辞めたら?」
真奈美が亨にそう言うと亨は首を振った。
「これが楽しみなんだから」
亨がそう言うと真奈美はやれやれと首を振った。
亨がタバコを吸い終えると立ち上がった。
「ご飯行こうか」
「うん」
二人で部屋を出てリビングに下りていった。
二人はリビングに下りると椅子に座り、亨は橋本を呼んだ。
「御夕食で宜しいですか?」
「あぁ。頼む」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
橋本は頭を下げて下がっていった。
暫くすると夕飯が運ばれてきた。
「いただきます」
亨と真奈美は声を合わせてそう言うと、食事を始めた。
「最近仕事どうなの?」
亨が真奈美に聞いた。
「うん。最近は何事もなく進んでるかな。取材も上手くいってるし」
真奈美がそう言うと亨は笑顔になった。
「亨はどうなの?」
「俺? 俺は課題山積ってところかな」
「ありゃりゃ。頑張ってね」
「ありがと」
二人は同時に食べ終え、ごちそうさまと言って自分たちの部屋に戻った。
翌日、亨は朝早くに目が覚め、目覚めの一服をした。
約五分でタバコを吸い終えた亨はロイの散歩をしようと、リードを持ってロイの方へ行こうとした時真奈美が目を覚ました。
「おはよう」
「おはよー。散歩?」
「そうだよ。真奈美は昨日行ってくれたから今日は俺が行くね」
「うん。ありがとう」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
亨はロイと一緒に家を出た。
荒川水系の道路を歩いていると権藤に会った。
「権藤様、おはようございます」
「プライベートの時は様はよしてくれ」
「はい。すみません」
「じゃあ行くのぅ」
「はい。ではまた」
亨は何やら違和感を感じていた。
しかし後は追いかけずに散歩を続けた。
「ただいまー」
亨は散歩を終え、家に帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おぅ。真奈美はもう行ったか?」
「はい。仕事に出掛けられました」
「そうか。朝飯の準備しておいてくれ」
「かしこまりました」
優が頭を下げて返事をした。
自分の部屋にロイをおいて亨は朝ご飯を食べにリビングに下りた。
「お待たせ致しました。本日の朝食です」
西岡が朝食を持ってきた。
「そうだ西岡、新しい家はどうだ?」
「はい。住み心地バッチリです。本当にありがとうございます」
「そうかそうか。なら良かった。いただきます」
亨は笑顔で朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終えた亨は仕事に行く準備をする為スーツに着替えていた。
コンコン――。
「はーい」
「西田でございます。失礼します」
「どうした?」
「はい。先程会社から電話があり権藤様の資産に異常ありとの事でした」
「異常?」
「はい。何やらあったようですが社員ではない私には詳しい事は教えて頂けませんでした」
「そうか。お前の社員化も考えないとな。面倒だし」
「出来ればお願い致します。私で処理できる事は処理したいので」
「分かった。今日会社行ったら白石さんに言ってみるよ」
「ありがとうございます。では駐車場でお待ちしております」
「あぁ」
話している間にもスーツに着替えていた亨は荷物を持って部屋を出た。
「直接会社で宜しいですか?」
「あぁ」
「かしこまりました」
西田が運転する車は発進し、会社に向かった。
車の中で亨はパソコンを開き、何かを調べている。
すると――
「おい嘘だろ――」
亨の顔が真っ青になっていた。
「どうかなさいましたか?」
「さっきの話だが権藤様の資産が半分以下になってる」
「減価ですか?」
「そんなんじゃない。減価だったらすぐ見て分かるがこれはそんなんじゃない。誰かが意図的に操作してる」
「まさか身内ですか?」
「それしか考えられないだろうな」
「間もなく会社に着きます。すぐに白石社長の所に行きましょう」
「あぁ」
その後二分程で会社に着いた。
いつもは西田に開けてもらうドアだが今日は亨自身が開けて走って会社の中に入っていった。
「白石さん!」
亨が社長室に向かおうとしていた時に廊下で会った。
「会長、大変です!」
「分かってます。会社に向かう車内で見ました。とりあえず俺の部屋に来てください」
「分かりました」
白石と亨と西田は走って会長室に向かった。
「話をまとめますと、権藤様の資産が何者かに不正に引き出されているという事ですよね?」
会長室に入った白石が亨に聞いた。
「はい。その通りです。身内をあまり疑いたくないですが、それしか考えられません」
「誰がこんな事を――」
「今は犯人捜しより権藤様に報告に行かないと」
「そうですね。俺が行ってきます」
「私も行きます。一応社長ですから」
「分かりました。この件は冨賀山に任せましょう」
「そうですね。社内調査をしましょう」
「西田、権藤様にお詫びに行くから和菓子買ってきてくれ」
「かしこまりました」
「白石さん、西田が帰ってきたら連絡入れます」
「分かりました。では失礼します」
白石と西田は部屋を出ていった。
亨は自分の席に座り、頭を抱えた。
こんな事件は初めてだった。
亨は内線で社内調査部に電話し、冨賀山を呼び出した。
冨賀山は社内調査部の部長だ。
五分程して会長室のドアがノックされた。
「はい」
入ってきたのは冨賀山だった。
「お呼びでしょうか会長」
「あぁ。大変な事になった。顧客の資産が何者かに盗まれた」
「社内の人間だという事ですか?」
「恐らくな。だから至急調査してくれ」
「調査に必要な権限は与える」
「分かりました。すぐに取り掛かります」
「くれぐれも内密にな」
「かしこまりました」
「逐一報告するように」
「はい。失礼します」
冨賀山が出ていき、亨は深いため息をついた。
三十分程で西田が戻ってきた。
亨は白石に連絡し、西田が運転する車で権藤宅に向かった。
権藤の家に着き、亨はインターホンを鳴らした。
すぐに玄関から権藤が顔を出した。
「おぉ、亨くん――と誰かのぅ?」
「株式会社KSの取締役社長の白石学と申します」
「そうかそうか。何か用かね?」
「はい。少々お話があり、参りました」
「そうか。入っておくれ」
「失礼します」
西田は車で待つ事になり、二人で権藤の家に入った。
「で、話って何かね?」
「権藤様の資産に関しましてこちらの不手際で権藤様がお預かりした資産が半分以下になってしまいました。誠に申し訳ありません」
亨と白石は土下座をして謝罪した。
「まぁまぁ顔を上げなさい。何があったんだい?」
「はい。社内の者が不正に権藤様の資産を引き出したようでして――」
「そうかぁ……」
「勿論保障はさせて頂きます」
「うん。それはしてもらうとして、犯人は分かっているのかい?」
「現在誠意調査中です」
「そうかぁ。まぁお宅らに任せたのが間違いだったって事かのぅ」
「大変申し訳ありませんでした」
再び二人は土下座した。
「保障してもらった後はお主らにはもう任せないからのぅ」
「仰る通りです。誠に申し訳ございませんでした」
二人は土下座したまま謝罪し、顧客を一人失う事になった。
亨は会社の第二会議室にいた。
「会長、会長が以前ご紹介頂いた権藤様ですが、資産がかなりありましてどこから手を付ければ良いか全く分からない状況なんです」
顧客情報整理部長の小田原幸助が亨に言った。
「そうか――。だが資産があるのは有効に使わなければならない。俺を信用して預けてくれたんだからな」
「はい――。しかし資産が二十五億円もありこれ以上増やすとなればリスクが増します」
「そんなにあるのか。だがここで怖気づいてしまっては託してくれた権藤様にメンツが立たない。何とかしてくれ」
「そう――ですよね。分かりました。何とかしてみます」
「無理はするなよ」
「はい。分かりました。ありがとうございます。失礼致します」
会議が終わり、亨はタバコを吸い始めた。
「会長、ここは禁煙ですよ」
そう言いながら入ってきたのは白石だ。
「まぁ良いじゃないですか。今さっきちょっと面倒な会議が終わったばかりで――。ところで何か御用ですか?」
「えぇ、権藤様の事なんですが、親しい友人に聞いたんですが、少し変わっている方のようで、自分の財産を預けると言って何かあるとすぐに苦情を言ってくるそうなんです。友人は裁判まで起こされたようで」
「マジっすか……。あの人がそんな事を――。どうします?」
「どうしますと言われましても――。会長がお決めになって下さい。会長のお客様なんですから」
「ですよねぇ――。俺はあの人を信じます」
「そうですか。では私も信じます。失礼します」
「ご苦労様です」
亨は白石を見送り、携帯灰皿にタバコを捨てた。
仕事が終わった亨は西田運転のもと、自宅に帰った。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
橋本達が頭を下げて出迎えた。
「真奈美は帰ってるか?」
「はい。お部屋でお待ちです」
「分かった」
亨は自室に行き、真奈美に挨拶をした。
「ただいま」
「おかえりー。ロイの散歩はしておいたよ」
「お、ありがとう」
「いえいえー。」
亨は真奈美にそう言うとタバコを吸い始めた。
「もー、タバコ辞めたら?」
真奈美が亨にそう言うと亨は首を振った。
「これが楽しみなんだから」
亨がそう言うと真奈美はやれやれと首を振った。
亨がタバコを吸い終えると立ち上がった。
「ご飯行こうか」
「うん」
二人で部屋を出てリビングに下りていった。
二人はリビングに下りると椅子に座り、亨は橋本を呼んだ。
「御夕食で宜しいですか?」
「あぁ。頼む」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
橋本は頭を下げて下がっていった。
暫くすると夕飯が運ばれてきた。
「いただきます」
亨と真奈美は声を合わせてそう言うと、食事を始めた。
「最近仕事どうなの?」
亨が真奈美に聞いた。
「うん。最近は何事もなく進んでるかな。取材も上手くいってるし」
真奈美がそう言うと亨は笑顔になった。
「亨はどうなの?」
「俺? 俺は課題山積ってところかな」
「ありゃりゃ。頑張ってね」
「ありがと」
二人は同時に食べ終え、ごちそうさまと言って自分たちの部屋に戻った。
翌日、亨は朝早くに目が覚め、目覚めの一服をした。
約五分でタバコを吸い終えた亨はロイの散歩をしようと、リードを持ってロイの方へ行こうとした時真奈美が目を覚ました。
「おはよう」
「おはよー。散歩?」
「そうだよ。真奈美は昨日行ってくれたから今日は俺が行くね」
「うん。ありがとう」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
亨はロイと一緒に家を出た。
荒川水系の道路を歩いていると権藤に会った。
「権藤様、おはようございます」
「プライベートの時は様はよしてくれ」
「はい。すみません」
「じゃあ行くのぅ」
「はい。ではまた」
亨は何やら違和感を感じていた。
しかし後は追いかけずに散歩を続けた。
「ただいまー」
亨は散歩を終え、家に帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おぅ。真奈美はもう行ったか?」
「はい。仕事に出掛けられました」
「そうか。朝飯の準備しておいてくれ」
「かしこまりました」
優が頭を下げて返事をした。
自分の部屋にロイをおいて亨は朝ご飯を食べにリビングに下りた。
「お待たせ致しました。本日の朝食です」
西岡が朝食を持ってきた。
「そうだ西岡、新しい家はどうだ?」
「はい。住み心地バッチリです。本当にありがとうございます」
「そうかそうか。なら良かった。いただきます」
亨は笑顔で朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終えた亨は仕事に行く準備をする為スーツに着替えていた。
コンコン――。
「はーい」
「西田でございます。失礼します」
「どうした?」
「はい。先程会社から電話があり権藤様の資産に異常ありとの事でした」
「異常?」
「はい。何やらあったようですが社員ではない私には詳しい事は教えて頂けませんでした」
「そうか。お前の社員化も考えないとな。面倒だし」
「出来ればお願い致します。私で処理できる事は処理したいので」
「分かった。今日会社行ったら白石さんに言ってみるよ」
「ありがとうございます。では駐車場でお待ちしております」
「あぁ」
話している間にもスーツに着替えていた亨は荷物を持って部屋を出た。
「直接会社で宜しいですか?」
「あぁ」
「かしこまりました」
西田が運転する車は発進し、会社に向かった。
車の中で亨はパソコンを開き、何かを調べている。
すると――
「おい嘘だろ――」
亨の顔が真っ青になっていた。
「どうかなさいましたか?」
「さっきの話だが権藤様の資産が半分以下になってる」
「減価ですか?」
「そんなんじゃない。減価だったらすぐ見て分かるがこれはそんなんじゃない。誰かが意図的に操作してる」
「まさか身内ですか?」
「それしか考えられないだろうな」
「間もなく会社に着きます。すぐに白石社長の所に行きましょう」
「あぁ」
その後二分程で会社に着いた。
いつもは西田に開けてもらうドアだが今日は亨自身が開けて走って会社の中に入っていった。
「白石さん!」
亨が社長室に向かおうとしていた時に廊下で会った。
「会長、大変です!」
「分かってます。会社に向かう車内で見ました。とりあえず俺の部屋に来てください」
「分かりました」
白石と亨と西田は走って会長室に向かった。
「話をまとめますと、権藤様の資産が何者かに不正に引き出されているという事ですよね?」
会長室に入った白石が亨に聞いた。
「はい。その通りです。身内をあまり疑いたくないですが、それしか考えられません」
「誰がこんな事を――」
「今は犯人捜しより権藤様に報告に行かないと」
「そうですね。俺が行ってきます」
「私も行きます。一応社長ですから」
「分かりました。この件は冨賀山に任せましょう」
「そうですね。社内調査をしましょう」
「西田、権藤様にお詫びに行くから和菓子買ってきてくれ」
「かしこまりました」
「白石さん、西田が帰ってきたら連絡入れます」
「分かりました。では失礼します」
白石と西田は部屋を出ていった。
亨は自分の席に座り、頭を抱えた。
こんな事件は初めてだった。
亨は内線で社内調査部に電話し、冨賀山を呼び出した。
冨賀山は社内調査部の部長だ。
五分程して会長室のドアがノックされた。
「はい」
入ってきたのは冨賀山だった。
「お呼びでしょうか会長」
「あぁ。大変な事になった。顧客の資産が何者かに盗まれた」
「社内の人間だという事ですか?」
「恐らくな。だから至急調査してくれ」
「調査に必要な権限は与える」
「分かりました。すぐに取り掛かります」
「くれぐれも内密にな」
「かしこまりました」
「逐一報告するように」
「はい。失礼します」
冨賀山が出ていき、亨は深いため息をついた。
三十分程で西田が戻ってきた。
亨は白石に連絡し、西田が運転する車で権藤宅に向かった。
権藤の家に着き、亨はインターホンを鳴らした。
すぐに玄関から権藤が顔を出した。
「おぉ、亨くん――と誰かのぅ?」
「株式会社KSの取締役社長の白石学と申します」
「そうかそうか。何か用かね?」
「はい。少々お話があり、参りました」
「そうか。入っておくれ」
「失礼します」
西田は車で待つ事になり、二人で権藤の家に入った。
「で、話って何かね?」
「権藤様の資産に関しましてこちらの不手際で権藤様がお預かりした資産が半分以下になってしまいました。誠に申し訳ありません」
亨と白石は土下座をして謝罪した。
「まぁまぁ顔を上げなさい。何があったんだい?」
「はい。社内の者が不正に権藤様の資産を引き出したようでして――」
「そうかぁ……」
「勿論保障はさせて頂きます」
「うん。それはしてもらうとして、犯人は分かっているのかい?」
「現在誠意調査中です」
「そうかぁ。まぁお宅らに任せたのが間違いだったって事かのぅ」
「大変申し訳ありませんでした」
再び二人は土下座した。
「保障してもらった後はお主らにはもう任せないからのぅ」
「仰る通りです。誠に申し訳ございませんでした」
二人は土下座したまま謝罪し、顧客を一人失う事になった。
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