全財産百兆円の男

星河☆

ストライキ

 亨は今日休みで家でくつろいでいた。


 自室でパソコンで株価を見ているとスマホにレインが届いた。
 亨の父親の重信だ。
 『最近元気か? 彼女が出来たらしいが一度紹介してくれ。いつでも来てくれ』
 重信と亨の母親、友は亨が養っている。
 四年程前にマンションを買ってやり、二人はそこに住んでいる。




 亨は佐藤に電話をかけた。


「もしもし? 俺だけど、明日時間ある?」
『うん。明日は休みだし予定入ってないから空いてるよ』
「真奈美を親父とおふくろに紹介しようと思うんだけどさ」
『本当に? 嬉しい。じゃあ迎えに来てくれる?』
「勿論。明日の午前十一時位に迎えに行くからね」
『うん分かった。じゃあまたね』
「うん。ばいばい」
 電話を切った亨は西田をレインで呼んだ。




 すぐにドアがノックされた。
 亨が返事をすると西田が入ってきた。


「お呼びでしょうか」
「あぁ、明日真奈美を連れて実家に行くから斉藤に実家の場所教えておいてくれ」
「かしこまりました」
 西田は頭を下げて部屋を出ていった。


 亨はスマホを取り出し、レインで重信に『明日彼女と家に行くから』とメールを送った。
 すぐに重信から返信があった。
 『了解。楽しみに待ってる』
 亨はスマホをズボンのポケットにしまい、テレビを付けた。




 お昼の情報番組でペルシャ絨毯の事がやっていた。
 それを見た亨は絨毯が欲しくなり、すぐに外着に着替えて部屋を出た。




 「西田ー」
 一階に下り、執事室の前で西田の名を呼ぶとすぐに西田が出てきた。


「どうされました?」
「ちょっとペルシャ絨毯が欲しくなってさ。今から神戸に行こうと思うんだけど」
「今からですか? どなたかお知り合いでもいらっしゃるんですか?」
「あぁ。日本に流通するペルシャ絨毯の半分を占めてる中内峰子さんって人がいる」
「かしこまりました。すぐに準備いたします。飛行機で行きますか?」
「あぁ」
「ではすぐに準備いたします」
「準備できたら声かけてくれリビングにいるから」
「かしこまりました」
 亨はリビングに行った。


 「西岡! いるか?」
 亨は西岡を呼んだ。


「はい。ご主人様、どうなさいましたか?」
「玉子焼きすぐに作ってくれないか? 少なめで良いから」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
「頼むよ」
 亨は椅子に座り、玉子焼きを待った。




 それから五分程で西岡が出てきた。
 「お待たせ致しました」
 玉子焼きを持って亨の前に置いた。
 「サンキュー」
 卵料理は亨の大好物だ。
 嬉しそうに玉子焼きを食べて腹ごしらえすると丁度西田が現れた。
 「準備が整いました。向かいましょう。本日斉藤は休みなので私が駅まで運転致します」
 亨はその言葉に頷き、西田と共に家を出た。












 三十分程で羽田空港に着いた二人はJELのラウンジに行き、亨は会員ステータスがダイヤモンドなので最上級のもてなしを受ける事が出来る。
 まぁしかしステータスを除いても亨はJELの株主なので顔パスで入れる。


 「西田、神戸行は何時だ?」
 亨がラウンジに着き、ワインを飲んでいると西田に聞いた。


「三十分後の十三時五十四分です」
「じゃあチェックインの時間が来たら教えてくれ」
「かしこまりました」
 亨は無類のワイン好きであるが、逆流性食道炎のせいで多くは飲めない。












「会長、お時間です」
「了解」
 亨と西田はラウンジからチェックインして飛行機に乗った。
 勿論二人ともファーストクラスだ。






 「甲斐様、シャンパンはいかがですか?」
 CAが亨に尋ねた。
 ファーストクラスの乗客の名前は全員把握しているらしい。


「じゃあグラスで」
「かしこまりました」
 CAは頭を下げるとグラスにシャンパンを注いだ。
 「ありがとう」
 亨はお礼を言うとCAはニコッと笑い、頭を下げて下がっていった。












 一時間二十分程で神戸空港に着いた。
 到着ロビーに着いた二人は出口に向かっていた。


 「甲斐さん!」
 声の主は女性だった。


「おぉ、中内さん。来てくださったんですか。西田、こちらは中内峰子さん。中内さん、こいつは俺の秘書の西田です」
「西田です。よろしくお願いします」
「中内です。どうぞよろしくお願いします」
「中内さんどうして空港に?」
「それは甲斐さんが買い付けに来て下さると聞いたのでお迎えにやってきたんですよ」
「わざわざすみません」
「とんでもないです。では店に向かいましょうか」
「そうしましょう」
 空港を出た一行は中内が運転する車で神戸市内に向かった。








 二十分程で店に着いた。
 「さぁ中へどうぞ」
 中内がそう言うと三人で店に入っていった。






「さて、甲斐さん、どんなのがお望みですか?」
「洋風の家なんですけど玄関前に縦八十センチ、横四十センチ位の物が一つと、自分の部屋に大きいのが欲しいですね。西田、そっちの部屋にはいるか?」
「大丈夫です」
「そっか。中内さん、これが部屋の写真なんですけどこれに合うペルシャ絨毯ないですかね」
「良い部屋ですね~」
 中内はそう言うと店の奥に行った。






 暫くすると中内が絨毯を数枚持って出てきた。
 「これがナイン産の絨毯です。これは割と安価で玄関前にお勧めです。そしてこれはエスファハン産のもので非常に高価です。これは甲斐さんのお部屋に置くのがお勧めです。お勧めの柄はこの六枚になりますがどうしますか?」
 中内が広い場所に絨毯を広げ、柄を亨に見せた。
 亨はじっくり絨毯を見て二つ決めた。


「これとこれお願いします」
「かしこまりました。ありがとうございます。合計で六百六十万円になりますが、キャッシュでお買い上げ頂きますと六百万円で良いですよ」
「本当に!? じゃあキャッシュで。というか元々キャッシュで買うつもりだったんですけどね」
 亨は苦笑し、西田が持っている黒のアタッシュケースを貰い、そこから六百万を取り出して中内に渡した。










「はい。確かに六百万円頂戴します。絨毯は一週間以内に自宅へお送り致しますね」
「よろしくお願いします。では失礼します」
「あ、空港までお送りしますよ」
「それはありがたい。よろしくお願いします」
 三人は店を出て神戸空港に向かった。






「ありがとうございました」
「こちらこそお買い上げありがとうございました。またお待ちしてますね」
「では失礼します」
 亨と西田は中内と別れ、ラウンジに行った。
 出発は二時間後だ。




 亨がラウンジでくつろいでいると西田が声をかけてきた。
 「会長、会社で何か起こったようです」
 すると亨が眉をひそめて言った。


「どういう事だ?」
「まだ詳しい事は分かっていませんが一部の社員がストライキを起こしているそうです」
「ストライキ? 何でだ」
「まだ分かりません。ここは会長が会社へ行き話をまとめる必要があります」
「分かった。二時間も待ってられないからすぐにジェット機をチャーターしてくれ」
「かしこまりました。すぐに手配致します」
 次に亨は白石に電話をかけた。


「もしもし白石さん、ストライキってどういう事ですか?」
『私も今日休みで把握してないんです。先程社員から連絡を受け、会社に向かっているところです』
「そうですか。俺は今神戸にいるんですがすぐに戻ります」
『会長の手を煩わせてしまって申し訳ありません』
「構いませんよ。では失礼します」
 電話を切った亨は百合丘に電話をかけた。


「もしもし、百合丘か? どうなってんだ?」
『もう耳に入ってしまいましたか。大変申し訳ございません。私が止められれば良かったのですが――。営業部の者たちが営業のノルマが厳しすぎると言っておりまして』
「そんなに厳しいノルマなのか?」
『一人につき、月に二百万というノルマがあります』
「それは厳しいな。分かった。営業部長の中井に電話する」
『分かりました。失礼します』
 大きなため息をついた亨は次に営業部長の中井大介に電話をかけた。


『会長、どうなさいましたか?』
「どうなさいましたかじゃねぇよ。ストライキが起きてるんだろ。しかもノルマが厳しすぎる。月に一人二百万なんて不可能に近いだろ。会社に貢献したいのは良く分かるが社員あっての会社だ。今すぐに社員に詫びてノルマを取り消せ。現実的なノルマにしろ。俺は今神戸だがすぐにそちらに戻る。俺も謝るから先に営業部の社員に誤っておけ」
『はい――。この度は誠に申し訳ありませんでした』
「全くだ。次はないからな」
『はい』
 電話を切った亨は頭を抱えた。
 すると西田が戻ってきた。


「超特急だったので倍の料金取られました」
「構わん。すぐ行くぞ」
「はい」
 ラウンジを出てチャーターした飛行機に乗り込んだ二人は席に着いた。












 一時間二十分程で羽田空港に着いた。


 車は駐車場に止めてあるので空港に着くと走って駐車場に向かった。
 「会社に直接向かいます」
 西田が運転席に座り、そう言うと車を発進させた。








 三十分程で会社に着いた。
 ロビーに行くと百合丘が待っていた。
 「こっちです」
 三人で営業部に向かった。








 営業部に着くと十三名の営業部員が待っていた。


「お疲れ様です会長。先程部長からは謝罪がありました」
「そうか。俺からも謝罪をさせてくれ。会長として監督不行届きだった。本当に申し訳ない」
 亨は頭を下げた。
 すると一人の社員がしゃべった。
 「もう良いですよ。ここはブラック企業ではありませんし本当に良い会社だと思っています。今回は厳しすぎるノルマがあっただけで私たちは会長からも謝罪を受けられましたしもう充分です。この度は勝手な事をして誠に申し訳ありませんでした!」
 すると十三名全ての社員が頭を下げた。










 こうして一騒動が終わった。

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