全財産百兆円の男

星河☆

大暴落の要因

 今日は佐藤が以前亨を取材した雑誌が届く日だ。


 亨は部屋でパソコンを操作しながらタバコを吸っている。
 株価をチェックし、今後投機にしようとしているブットコインの値段も確認している。




 すると亨の部屋のドアがノックされた。


「はい」
「西田です。速達で会長宛に荷物が届きましたので持って参りました」
「あいよ」
 亨は椅子から立ち上がり、ドアの方へ行き、西田から荷物を受け取った。
 「失礼します」
 西田は頭を下げて下がっていった。


 「何だろう」
 亨はそう言いながら茶封筒風の物を開けた。
 それは週刊文秋だった。
 それに加え、佐藤の直筆の手紙入りだった。
 『甲斐さんへ。この度は取材を受けて下さり誠にありがとうございました。堅苦しい話は無しにしてまたデート出来る日を楽しみに待ってます♡ 佐藤真奈美』
 その手紙を見た亨はふふと苦笑いしてしまった。






 「早速見てみるか」
 週刊文秋の表紙には大きく『世界一の投資家、甲斐亨氏にインタビュー』と書かれている。


 見開きにも亨に関する情報が書かれていた。
 書かれているのは亨の資産情報、生年月日、好きな食べ物、好きな女性のタイプだ。
 好きな女性のタイプには『優しくて朗らかな人』と書かれている。
 「間違っちゃいないけどな~」
 苦笑しながら見続けた。


 ページを進めていくと亨の取材内容が書かれていた。
 亨は見進めていくと段々と気持ち良くなってきた。
 良い事しか書いていなかったからである。












 雑誌を読み終わり、一息ついていると部屋のドアがノックされた。


「はい」
「西田です。失礼します」
 西田が慌てた様子で部屋に入ってきた。


「どうしたんだよ」
「この様子では株価確認していないんですね?」
「二時間くらい前に確認したけど?」
「今すぐ確認してください。日経平均株価が大暴落してます」
「何!?」
 亨はすぐにベッドから起き上がり、テーブルに行って椅子に座り、パソコンで株価を調べた。
 日経平均株価は午前の終値が前日終値比千二百円下がって一万九千四百二十五円となっていた。


 「何だよこれ――。マジかよ……」
 亨は唖然としていた。
 すぐに自分の持ち株を確認し始めた。


 「これも下がってる――。これも――。これも――」
 持ち株ほとんど株価が下がっていた。


「会長、どうなさいますか?」
「経済チャンネルをすぐに付けろ」
「はい」
 亨は西田に指示し、経済専門チャンネルを付けさせた。


 『現在日経平均株価が大暴落しています。要因と致しましてはアメリカの株安を受けてのもので投資家の間で不安が広がっています』
 テレビの解説員が説明していると、亨は安堵したような表情を浮かべた。


「これなら安心ですね」
「そうだな。これだったら一時的なものだろう」
 この株安がもし戦争や国の破綻だとしたら株安が長引いてしまうが一時的なアメリカの株安だとしたら安心が出来るというものだ。


 亨と西田が話していると亨のスマホが鳴った。
 白石だった。


「もしもし? どうしました?」
『株価大暴落のニュースはご覧になりましたでしょうか?』
「あぁ、見ましたよ。多分一時的なものでしょう」
『そうですか。それなら良かったです。では失礼します』
「はい」
 電話を切り、亨はタバコを吸い始めた。
 亨がタバコを吸っていると西田が話し始めた。
 「会長、少々お話があるのですが――」
 西田がかしこまった顔で言った。


「何だ?」
「お願いがあるのですが……」
「何だよ。言ってみろ」
「三日程お休みを頂けないでしょうか? 勿論三日間の後任は探してあります」
「どうかしたのか?」
「実は父が倒れたと聞きまして、お見舞いに実家に帰ろうかなと思いまして」
「それを早く言えよ! 早く行け!」
「ありがとうございます。三日間ですが後任はすぐに来るように言います」
「あぁ、頼むぞ。行って来い」
「はい。ありがとうございます」
 西田はそう言うと頭を深々と下げた。


 「そうだ」
 亨が思い出したようにそう言うと茶封筒にお金を入れて西田に渡した。


「これお見舞金。お礼はいらないからな」
「そんな! 会長から頂く訳には参りません」
「お前は俺の家族だろ? その家族は俺の家族だ」
「会長――。ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます」
「じゃあ行ってこい」
「はい。失礼します」
 西田は部屋を出た。








 それから暫くしてドアがノックされた。


「橋本でございます。西田さんの一時的な後任の方がお見えになりました」
「入れ」
「失礼します」
 メイド長の橋本と、もう一人男が入ってきた。


 「私、執事養成学校で西田先輩に可愛がって頂いておりました。斉藤一でございます。よろしくお願いします」
 斉藤が言うと橋本がたしなめた。


「斉藤くん、よろしくお願い致しますでしょ」
「あ、そうでした。三日という短い間ですがよろしくお願い致します!」
「何か元気だな」
 亨は苦笑しながら斉藤と握手した。


「橋本も斉藤と顔見知りなのか?」
「はい。メイドの勉強をしていた時に後輩で入ってきたんです」
「そうか。でも西田は五十歳で橋本はまだ三十代だろ?」
「はい。その時は西田さんは講師として来て頂いていたんです」
「そうなんだ。まぁ、斉藤にこの屋敷案内してあげて。その前に斉藤のロインのID教えてよ」
「かしこまりました」
 斉藤は返事をするとロインというスマホのアプリのIDを亨に教えた。




 「では私共は失礼します」
 橋本はそう言うと頭を下げてドアを閉めた。




 亨はパソコンで株価を確認している。 
 未だに株安は続いている。


 亨の部屋のドアがノックされた。


「橋本でございます。昼食の準備が出来ました」
「分かった。すぐ行く」
 亨は返事をしてパソコンを閉じて部屋を出た。








 リビングに行くとテーブルにはエッグベネティクトとフレンチトースト、目玉焼き、オレンジジュースが用意されていた。
 「橋本!」
 亨が食事を見て橋本を呼んだ。


「はい。お呼びでしょうか」
「西岡にアゴだし玉子焼きを作ってくれって言ってきて」
「かしこまりました」
 亨は橋本にそう言うと、いただきますと言って食事を始めた。
 亨は卵料理が大好きで特に玉子焼きが大好きなのだ。






 「お待たせ致しました。アゴだし玉子焼きでございます」
 西岡が直接出してきた。


「ありがとう」
「お味は大丈夫でしょうか?」
「うん。いつも通り美味いよ」
「ありがとうございます。では失礼します」
 西岡は頭を下げて下がっていった。
 亨は美味しい料理を食べて満足そうにごちそうさまでしたと言って薬を飲んだ。












 亨は斉藤を呼んだ。
 すると間もなく部屋のドアがノックされた。


「斉藤です。失礼します」
「今から東京証券取引所に行かなきゃいけないから運転頼むよ」
「かしこまりました。すぐに出発ですか?」
「あぁ、スーツを着たらすぐに出発するから車の準備を頼む」
「かしこまりました。準備いたします」
 斉藤は頭を下げて部屋を出た。
 東京証券取引所には所長に用があり、今から行くのだ。
 東京証券取引所の所長は亨に頭が上がらない。




 亨はスーツを着て外へ出た。
 「お待たせ」
 亨は斉藤にそう言うと後部座席に乗った。




「今の道路状況ですと十分で到着しますがいかがなさいますか?」
「そのまま向かってくれ」
「かしこまりました」
 斉藤は返事をして車を発進させた。








 十分程で東京証券取引所に到着した。
 斉藤が後部座席のドアを開け、亨が出てきた。


「斉藤は車で待ってろ」
「かしこまりました」
 亨は一人で中に入った。


 「失礼ですがどちら様でしょうか? ここは関係者以外立ち入り禁止となっております」
 守衛がそう言って遮った。


「俺は甲斐亨です。中山所長に会いに来ました。話を通してもらえれば分かると思います」
「分かりました。少々お待ち下さい」
 守衛は内線で誰かに電話し、暫くして亨のもとへ戻ってきた。


 「お待たせ致しました。中へどうぞ。中で所長がお待ちです」
 亨はお礼を言って中に入った。


 「甲斐さん! 今日はどうされたんですか?」
 亨が中に入るとすぐに東京証券取引所の中山ジュルが待ち構えていた。


「株価大暴落を受けて少し話をしたくてやってきました」
「そうでしたか――。しかし私が言うのも釈迦に説法でしょうがこれは一時的なものでしょうし――」
「そんな事は分かってます。俺が言いたいのはこれがいつまで続くかという事です」
「そうですか……。まぁ私の部屋でお話ししましょう」
「はい」
 二人は中山の部屋へ行き、話の途中を話し始めた。


「今のアメリカの経済状況はご存知ですよね?」
「長期金利を値下げするって話ですか?」
「えぇ。なので今のところ投資家が国債を買うのを嫌い、株価が下がっているんです。しかしこれはあくまで一時的なものです」
「それは分かりますが具体的にいつ頃まで続きますか?」
「それは――。約一か月程続くと思われます」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます。これでスッキリしました。では失礼します」
「あ、はい。ではまた」
 亨は部屋を出て建物を出て駐車場へ向かった。


 「おかえりなさい」
 斉藤が後部座席のドアを開けて待っていた。


「何か煮え切らないんだよなー」
「株価の事ですか?」
「あぁ。所長と話したけど何か言い包められた感じでさ」
「会長もそう思われる事あるんですね」
「俺を何だと思ってんだよ」
 亨は笑いながらそう言ってタバコに火を付けた。

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