全財産百兆円の男

星河☆

全財産百兆円の男

 この日本に日本で初めて世界長者番付一位を取った男がいる。
 その名も甲斐亨。
 亨は株で成功し、大金持ちとなった。








 「会長、お時間です」
 そう言ったのは亨の専属秘書兼執事兼運転手だ。
 非常に有能で亨は全面的に信頼している。
 今日は亨の会社の出勤日だ。
 亨は株の売買を仲介する会社だ。


「うぃーっす」
「お急ぎください」
「分かってるよ。もう準備できた。行こう」
「かしこまりました」
 秘書の名前は西田守。
 仕事できるが少々亨に厳しい。








 会社に到着した。
 西田が車のドアを開け、亨が出てきた。






 「会長、おはようございます!」
 入り口を入るとすぐに男が一人二人を出迎えた。
 「おぉ、百合丘、おはよう」
 百合丘茂樹は亨の会社の社員だ。
 平社員なのだ。
 しかしただの平社員ではない。
 何故か亨に可愛がれている。


「今日はどうしたんだ?」
「会長がいらっしゃると聞いて来ました」
「はは、そうか。じゃあ荷物を持ってもらえるか?」
「はい!」
 百合丘は亨から荷物を受け取り、一緒に歩いていった。






 最上階の二十五階にある会長室に入った亨は自分の席に座った。
 「荷物はそこに置いておいてくれ」
 亨が百合丘にそう言うと百合丘は返事をして荷物を置いて出ていった。


「西田、今日の予定は?」
「はい。午前中は特にありませんが――」
「じゃあ午後からでも良かっただろ!」
「社内を見回って頂きます」
「何だよそれ……。分かったよ。で、午後は?」
「会議が二本、取材が二本入っています」
「分かった」
 亨はそう言うとパソコンを起動させた。










 「そろそろ会社内見に行くか」
 亨が立ち上がり、西田に言った。


「かしこまりました」
「まず社長室だ」
「連絡しておきますか?」
「しなくていい。抜き打ちで行った方がいい」
「分かりました」
 そう言って二人は会長室を出た。
 社長室は三階の奥にある。




 二人は三階まで降り、社長室まで歩いていった。


 コンコン――。
 「はーい、開いてますよ」
 亨と西田が中に入ると白石学社長は勢いよく立ち上がった。
 白石はタバコを吸っていた。


「か、会長! どうなさったんですか?」
「抜き打ち調査」
「は、はぁ――」
「それよりタバコ一本くれない?」
「はっ、どうぞ」
 亨はセブンスターを貰い、火を付けてもらって吸い始めた。
 「どうぞお座りください」
 白石は来賓用椅子に亨を座らせた。


 「セッターは旨いなー」
 亨は独り言でそう言うと西田に一本どうだと誘った。


「自分は吸いませんから」
「連れねぇな」
「そうだ、白石さん、今月の収支どうなってる?」
 亨がそう言うと白石は急いでパソコンを開いた。
 「今月は六千万の黒字です」
 白石がそう言うと亨はうんうんと頷いてタバコの火を消した。




「じゃあ俺は他の部署に行くから。お疲れ様」
「お疲れ様です」
 亨と西田は社長室を出てまずは二階にある広報部に向かった。








 「お疲れ様~」
 亨がそう言って部署に入ると全員が立ち上がり、挨拶をした。
 「お疲れ様です!」
 一同礼し、亨を出迎えた。




 すると広報部長の西村英樹が亨の前にやって来た。
 「会長、どうなさいました?」
 亨はいや、と言って続けた。


「今日は午前中会社を見て回ろうかなと思ってね」
「そうでしたか。何かありましたらすぐにお申し付け下さい」
「うん。ありがとう」
「では失礼します」
 西村は頭を下げて下がっていった。












 午前中の仕事が終わり、会長室に戻ってきた亨はタバコを吸っていた。
 「なぁ西田~」
 突如亨が西田を呼んだ。


「何でしょう」
「昼飯いつもの所だから車回しておいてね」
「かしこまりました」
 亨の言ういつもの所とは中華料理屋の来々軒だ。
 来々軒は亨が貧乏だった時代から通っている店だ。






 「いらっしゃいま――。おぉ、亨かー。よくもまぁ毎日飽きずに来れるなぁ」
 来々軒に入ると店主の中澤喜一が嫌味に似た挨拶をした。


「おっちゃん、いつものね」
「あいよ」
 中澤はそう言ってチャーハンを作り始めた。
 西田は駐車場の車の中で待っている。






 「はいおまち」
 中澤がチャーハンを持ってやって来た。


「最近仕事どうなのよ」
「どうもこうもないよ。会社は利益出てるけど株は最近株安が続いててね」
「なるほどな~。あのさ、相談があるんだけどさ」
「何?」
「ちょっと投資をしてみたくなってさ」
「マジで!? おっちゃんが?」
「何だよ悪いかよ」
「いやいや、そんな事ないよ。ちょっと待ってね」
 亨はそう言うとスマホを出して電話し始めた。
 「誰に電話したの?」
 中澤が聞くと亨は西田だよと言って少し待っててねと言った。








 「会長、遅くなりました。こちらがパンフレットです」
 西田が店に入り、会社の投資パンフレットを亨に渡した。


「おっちゃん、これがパンフレットだよ」
「おぉ、ありがとさん」
 中澤がパンフレットを見ていると西田が亨に言った。
 「会長、そろそろお時間です。取材が入っています」
 西田がそう言うと亨は分かったといって中澤に話しかけた。


「俺時間ないからもう行くね。また来るからその時に色々聞かせてよ」
「あいよ」
 亨は会計を済ませ、来々軒を出た。
 それから西田が運転する車の後部座席に乗り、会社へ戻った。








 「会長、週刊文秋がお見えです」
 西田が言うと亨は通してと言ってネクタイを締めた。




 「失礼します。私週刊文秋の記者、佐藤真奈美と申します。こちらがカメラマンの信仁賢です。よろしお願いします」
 二人は頭を下げて名刺を出してきた。


 「はじめまして。株式会社KTの代表取締役会長の甲斐亨です。よろしくお願いします」
 亨も名刺を出して挨拶をした。


「失礼ですが信さんは中国人ですか?」
「いえ、私は中国系日本人三世です」
「そうでしたか。失礼しました」
「いえいえ、とんでもないです」
 信と亨が話していると佐藤が咳ばらいをして話し始めた。


「そろそろ取材をスタートして良いですかね?」
「あぁ、すみません。始めましょう」
「ありがとうございます」
 佐藤はそう言うと録音機を置き、メモ帳も出して準備を始めた。






 「準備出来ました」
 こうして取材は始まった。




「まずお聞きしたいのですが、日本人で初めて世界長者番付で一位を取りましたがその時はどんなお気持ちでしたか?」
「うーん――。子供の頃は貧しくて生活保護も受けていたんですが今ではこうしていわゆる大金持ちになりました。それは全て両親のおかげだと思っています。それに西田という最高の人物に出逢えた事が大きいです。世界長者番付で一位を取った時に全ての関係者にありがとうと言いました」
「そうですか。生活保護を受けていたのは何歳までですか?」
「確か――十歳頃から十五歳頃までですかね」
「甲斐さんは中卒で就職したとお伺いしましたが、最初は何をしていたんですか?」
「最初は塗装業をしていました」
「なるほど。株に興味を持ち始めたのは何歳位からですか?」
「幼い頃から株には興味を持っていました。ニュースの株価とかも見ていましたし株の入門書を買ったりして勉強していました」
 取材は順調に進んでいた。
 暫くして取材は終盤になり、佐藤も色々聞いていた。




「そろそろお時間なので大事な事をお伺いしたいのですが、これからの日本の経済についてどう考えますか?」
「日本は自動車産業で世界を相手に戦っています。しかしこのままいくとTPPの波に飲まれて自動車産業も廃れてしまうでしょう。ですが日経平均株価は上昇し続けています。それに日本の中小企業は非常に優秀で、例えばスマートフォンの部品の六十パーセントが日本製なのです。それに宇宙産業も日本の技術は侮れません。だからと言ってこのまま国債を発行し続け借金を増やし続けてしまうと国内総生産も下がっていく一方ですし何より将来の子供たちの負担が大きくなってしまいます。それを回避するには私個人の考えですが、消費税を思い切って二十五パーセントに引き上げ、医療費の無償化、高校までの完全無償化等を考えていくべきだと思います。以上です」
 亨はそう言うと頭を下げた。


「ありがとうございました。この取材は来月の四月二週号に載りますのでその時にお持ち致しますね」
「分かりました。ありがとうございます」
「では失礼します」
「はい。お疲れ様でした」
 佐藤と信は頭を下げて出ていった。




「ふぅー。疲れた」
「お疲れ様でした」
 西田が労を労うと亨はタバコに火を付けて吸い始めた。


「次の取材は何時?」
「次は三十分後です」
「分かった」
 すると亨はネクタイを緩めて深呼吸した。


「次ってどんな取材なの?」
「月刊上がり三ハロンで会長の趣味の競馬についてお伺いしたいそうです」
「何じゃそりゃ」
 亨は笑いながらもまんざらじゃなさそうだ。








 三十分後、ドアがノックされ、記者が入ってきた。
 「失礼します。月刊上がり三ハロンの記者今田康太と申します。この度は私共の取材を受けて下さり誠にありがとうございます」
 今田はそう言うと名刺を出して挨拶した。
 亨も名刺を出して挨拶した。


「早速ですが甲斐さんは競馬場にはよく行かれるんですか?」
「いやぁ、最近は仕事が忙しいので競馬場には行けてないですね。テレビやパソコンで見てますよ」
「そうなんですか。ちなみに今注目している馬は何ですか?」
「今ですか? うーん。二歳の牝馬でアビリガネっていう馬ですかね」
「アビリガネですかー。中々渋い所突いてきますね」
「そうですか?」
 亨は笑いながらそう言い、会長室に飾ってあるサラブレッドの写真を今田に見せた。


 「こんなにあるんですか」
 今田は感心してある一枚の写真の前に亨を立たせて写真を一枚撮った。








 「では取材は以上になります。この取材は再来月の号に載りますのでその時にお持ちしますね」
 今田は笑顔でそう言って頭を下げた。


 「ありがとうございました」
 今田は会長室をご機嫌で出ていった。

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