自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体はいつのまにか最強になっていたようです〜

ねっとり

第22話:人間は前を向いて生きる生き物だ。だから前を向かなきゃいけない。

「あああああああああああ!!!」

 なんだ!?何が起きた!?

 急にリムが叫んだと思えば、リムの体から光が溢れ出した。

 しかも尋常じゃない量。尋常じゃない断末魔のような……。

 全員が動きを止めてリムを見ている。

 ザブラですら止まっていた。

 その光はいつの間にか現れていた上空の暗雲に突き刺さっている。


「くそっ!コアは破壊した筈だ!!」


 魔王が悪態をつき後ろを振り返ると、すぐにリムに向かって突進し始めた。

 どう言う意味だ?リムが弱々くしなったのはコアのせい?

 いや、考えるだけ無駄だ。

 あれはリムにまた攻撃しようとしている。

 俺もすぐに地面を蹴り、魔王へと突進した。


「まてっ!」

「邪魔だぁ!」


 右側から俺は魔王に一撃をかまそうとした。

 しかし魔王の右手が俺に飛んで来て、最悪なカウンターを貰ってしまった。


「ぐおっ」


 吹き飛ばされ、真っ直ぐに壁へ衝突した。

 背中に痛みが駆け抜ける。


「ぐっ……くそっ」


 なんとか前を見るが、もう魔王とリムの間に誰もいない。

 そのまま魔王が叫びながら右手をリムに振り下ろした。


 バチン!
「グハッ!」


 だが魔王の拳は何かに弾かれ、魔王ごと吹き飛ばされた。

 俺の近くの壁に勢いよくぶつかる。

 へへっ。ざまぁみやがれ。



 いやだが何が起きてるんだ?

 リムから発せられていた光はいつの間にかリムに降り注いでいる。

 なんだよ、何が起きてるんだよ。

 俺の思考が絡まっている時、さらに声が聞こえて来た。


『人間にしてはよくやった』


 この声は……ゼイトス!?


『我々の悲願』


 こっちからも……ファルフェイか?


『ようやく晴らせる』


 これはルスト……か?

 なんだよこれ、何が起きてるんだよ。

 気付くとリムが空中に浮かび上がっていた。

 しかも大人……戦闘態勢だ。

 だが、身につけていた装飾や防具は見る影もない。

 その周りに光が8つ、リムと一緒に空中に現れた。

 この光景は……。

 そうだ、この塔の地下で見たあの壁画……。


「『英雄は全ての力を持つ魔を封印した。願わくば、この封印が解かれぬ事を祈る』」


 リムがあの時に読み上げた言葉だ。

 全ての力を持つ魔を封印……確かにじーさん達は封印されていた。

 待てよ、まさか封印してた魔って……リムか?

 嘘だろ、そんなはず……ない!

 嘘だ。リムは優しい子だ!絶対にありえない!!



 光がじーさん達へと変化した。

 だがその表情は今まで見た明るい表情ではない。

 むしろ、いびつな歪んだ笑みを浮かべている。

 俺は確信した。

 あの壁画の魔とは……リムなんだ。


「なんだよ……どういう事だよ!じーさん!」


 俺の心からの叫びはじーさん達に届いていないらしい。

 こちらを一瞥すらしない。

 そこに少し離れた場所の瓦礫から魔王が出て来た。

 上空にいるリムを見て、それから俺を見る。

 俺の心を見透かしたように魔王が話しかけて来た。


「人間よ、貴様本当に何も知らなかったのか?」

「……何がだよ」


 いや、魔王に八つ当たりしたって意味はない。

 俺は何も知らなかったのか……。

 何も知らずここまできて……。


「心が折れたか。だが貴様もわかっただろう?あれは悪魔だ」

「嘘だ!そんなはずはない!」


 そうだ。嘘なんだ。おかしいんだこんなの。

 俺とリムはずっと一緒に過ごしてきた。

 危ない場所にも行った。危ない魔物も倒してきた。

 毎日ほぼ一緒に寝た。俺にくっついて寝るのが好きだった。

 可愛い寝顔だった。娘のように俺も想ってた。

 だから……これはありえない。

 リムは何かをされてるんだ。


「現実を見ろ。魔王が復活したんだ」

「魔王……?魔王はお前だろう」

「ふっ。魔王が1人だと誰が決めた」


 その瞬間魔王が両手を前に突き出し、魔法を一撃放った。

 紫色の雷のような魔法。

 だがそれはじーさん達に当たる前にかき消えた。


「クソ、やはり儀式が終わるまで干渉は不可能か」


 魔王が悪態をつく。

 どうやら本当にリムは魔王らしい。

 俺はザブラ達の方へ目線を向けた。

 ザブラの元にはいつの間にかイコルもフレイも近寄っていた。

 俺も立ち上がらなきゃ行けない。

 だが……体が、心が動かない。動かせない。


「ふん。脆弱で利用されるだけの人間か。そこで世界が終わるのを見続けるのか?」


 わかってる。リムを止めなきゃ行けない。

 じーさん達は俺を利用し、リムを魔王として復活させた。

 ……だが俺にリムを殴れるのか?

 俺にリムを……殺すことが……。



『時はきた』


 またじーさん達の声が響いてきた。

 八柱の前にはリムが浮かんだまま。

 そしてじーさん達がこっちを見下ろしている。


『罪深きこの世界に終焉を』

『世界の破滅を願う』

『我々による粛清を』


 頭に直接響くような声。

 俺はこいつら全員を知っている。

 だからこそ、誰よりも悔しさと苦しさがある。


『我は傲慢のゼイトス』


 ゼイトスが名乗ると右手を差し出してリムに何か力を送り始めた。

『我は強欲のギア』

『我は嫉妬のエファゾフ』

『我は憤怒のウート』

『我は肉欲のルスト』

『我は暴食のグーゼット』

『我は怠惰のファルフェイ』

『そして……我が過力ウバシャス』


 全員が力をリムに向けて込めている。

 リムの表情は見えない。

 あの壁画と……全く同じ構図だ。


「あらゆる生物の罪……か。それを破壊してまた平和を取り戻してやろう」


 魔王が構えを取り魔力を練り始めている。

 俺でもわかるほど強大な魔力だ。

 リム……いや、じーさん達を敵として見ているのか。



 俺は……俺はどうすればいい?

 世界の破滅?終焉?

 なんでこんなことになった?

 俺はどこで間違えたんだ?


『ほう、かの英雄がいるのか』

『みろ、英雄の末裔までいるではないか』

『これは好都合。今すぐ消してやろう』


 じーさん達が魔王とザブラを見ながら何か話している。

 英雄の末裔?なんだそれ。ザブラ達は元々選ばれた人間だったのか?

 元々俺はここにいるべき人間じゃなかったのか?



 ダメだ。

 今の俺じゃ悪いことしか考えられない。

 こんなんじゃないんだ俺は。

 こんなんじゃないだろ俺!

 前を見ろ。

 現実を受け止めろ。

 俺が今までしてきたこと。

 俺が……俺が…………。



『グオオオォォォォォ!!』


 俺の思考回路は獣のような咆哮に中断された。

 その声の主は……リムだ。

 八柱の儀式が終わったらしい。


 リムは全身を黒いオーラで包み込み、人間としての姿は残しているが、人間ではないと直感が告げている。

 まるで全てを解き放たれた獣のように咆哮を上げ続けていた。

 もう……リムじゃないのか。

 あの優しく可愛いリムではないのか……。


『リムよ。ここにいる全てを殺せ』

『グオオオォォォォ!』


 ……いや、何かおかしい。

 リムは苦しんでいるのではないか?

 何か命令されたとしてもその場を動こうとはしていない。

 むしろ何かに抵抗しているような……。


『貴様の根源を憎め!殺すんだ!』


 ウバシャスが何か力を込めるとリムが一瞬大人しくなった。

 そして、俺たちを見る。

 その目は黄色く、黒目の部分はない。

 理性を失った獣のような目。


『そうだ!憎め!殺せ!破壊せよ!!』

『ケイ……グオオォォォ』


 今なんと?今なんて言った?

 今俺の名前を……呼んだのか?


 だが次の瞬間リムは視界から消えた。

 現れた場所はザブラの前だ。

 目の前に現れた現実にイコルもフレイも驚いている。


『オマエ……ケイド……コロス……』

「くっ……そが!」


 ケイドが持っている剣を振り下ろす。

 だがリムに当たっても傷一つ付いていない。

 魔王が遠くから「避けろ!」と叫んでいる。


『コロス……コロス……グオォォ!』


 リムの手が拳を作り、ザブラの腹へとヒットする。

 思いっきり吹き飛ばされたところにリムが飛びつき、追撃のように拳の雨を降らせ始めた。


『シネ……シネ……シネ……』

 まるで感情がないかのようにひたすら拳を振り下ろし続ける。

 ふとその場からどくと、ボコボコにされたザブラを引きずり上げた。

 腕や足はもう使い物にならないだろう。

 かろうじて意識があるのか、口だけは動いている。


「や、やめ……もう……よして……」

『………オオォォォ!』


 さらに持っていたザブラを地面に叩きつけ始めた。

 何度も、何度も地面に叩きつけている。

 もうザブラは……助からないだろう。


「ひぃぃ」
「いやっ……いやぁ……!」

 リムの手にはザブラだった肉塊が握られている。

 もう人の形はほとんどしていない。

 それを残ったふたりの前に投げ出した。

 ドチャ……と血と臓物と肉が地面に落ちる音がする。

 イコルもフレイも座り込み、股の部分はすでに漏らしていた。



「お願い……やめて……」
「殺さないで……」


 2人は涙を流しながら、肉塊とリムを交互に見ている。

 ダメだリム。もう人殺しなんて……。


『ケイド……コロソウトシタ……コロス』

「違うのよ!あれはザブラが!ザブラが悪いの!」

「そ、そうよ!全部させられてたの!だからお願い!殺さないで……」


 その瞬間、リムの元へ駆け寄ってきた人物がいる。

 魔王だ。

 先程練っていた魔力を全身に使い、砲弾のようにリムへと体当たりをした。


 リムが吹き飛ばされ壁に衝突する。

 魔王が叫ぶように言葉を発した。


「逃げろ!終焉の魔王が復活したんだ!世界で力を合わせなければ勝てな……ぐふっ」


 リムは確かに吹き飛ばされた筈だ。

 だが今魔王の真後ろにリムが戻ってきていた。

 後ろから魔王の腹に腕が突き刺さっている。


「ガァァ!!」


 魔王が腕を振るいリムに攻撃する。

 だがそれは空を切り、リムはその場から離脱していた。


『ジャマ……スルナ……』


 腕に付いた血をリムが舐めている。

 魔王はその場で膝をつき苦しそうな表情だ。

 フレイが残った魔力で魔王を回復している。


「すまん……な。君達だけでも逃げるがいい」

「そんな!あなたは……」

「出来るだけ食い止めよう。その間に国に終焉の魔王の話をしてくれ。この化け物は……強い」


 魔王の傷が塞がると立ち上がった。

 フレイとイコルはなんとか立ち上がろうとするが、力が入っていない。

 俺は……全く動けない。


『ほう。少しは楽しめるといいのぉ』

『無駄だ。さっさと殺すがいい』


 八柱がまた何かを話している。

 俺も……覚悟を決めないといけないか。

 ザブラは死んだ。魔王も危ない。

 俺も……俺もリムを……。

 本当に、予知眼ビジョンアイと同じ未来が待っているのか。

コメント

  • 黒猫No.

    最高です!早く続きを!早く!

    2
  • ノベルバユーザー262395

    なんじゃこりゃ

    3
  • ノベルバユーザー263405

    こういう物語は、結構好きなので面白かったです。あと、高慢っていう文字間違ってます。傲慢のことですよね。

    2
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