錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

幹部戦ロハネス1

 鞘を放り、両手で構える。全身は殺意で塗れ、刀身は伝播したかのように斬気を纏う。

 鬼神の如き気迫が魔来名まきなを一本の刀へと変えていく。相手を斬るためだけに。魔来名まきなは、斬鬼となってロハネスに答える。

「特にないな」

「っく! ははっ、アッハハハハハハ!」

 魔来名まきなからの答えにロハネスは剣先を向けられているにも関わらず片手を額に当て哄笑こうしょうした。大気すら揺らさんほどの笑い声が充満する。

「ハッー、まったく、笑わせてくれるぜ。嘘が下手ってレベルじゃねえぞ」

 ロハネスは息を落ち着かせるのに幾ばくかの時間を要してから体勢を整えた。

「まあいいさ、なんでも。お前の好きなようにすりゃいい。俺がやる理由に変わりはねえ……」

 途端、辺りにまき散らしていた殺気が収束されていく。それらは一点となり、先鋭化され槍のように魔来名まきなに突き刺さった。

「来い。お前の力見せてみな。団長の器に値するかどうか、俺が測ってやる」

 地底から沸き上がるような厳かな声と共に、獲物を見つけた猛禽類の瞳が魔来名まきなを見つめる。

「始めるぞぉお!」

 ロハネスは殺し合いの宣言を高々に行う。相貌そうぼうには笑みすら浮かべ、悦の混じった声が一帯を緊張から狂気に塗り潰す。

 ロハネスは後退しながら飛び跳ねた。周りに並ぶ三階建ての建物を優に超える跳躍を見せる。

 逃すものかと魔来名まきなも跳ぶため足に力を入れるが、ロハネスが機を制す。

 跳躍と共にロハネスの後方で空間が歪む。別の空間と融合しているのか混じり合うように歪むと、そこから一本の長槍が出現する。

 ロハネスは徐に掴み上げ、魔来名まきなに向かって投擲した。

 上空から迫る長槍に魔来名まきなは踏み止まり天黒魔あくまで撃ち落とす。迎撃は成功するが、槍の勢いと重さに魔来名まきなの眉が曲がる。

 普通の槍に見えて重量八十キロ以上はある。

 魔来名まきなの行動を封殺しロハネスは着地する。両者の間合いは離れ、二十メートルはひらけていた。

 互いに近接武器を扱う者同士離れ過ぎとも思えるが、そこは魔術戦。常識は破られ怪奇が異常でなくなる。

 ――武と魔、ここに交わる。繋がる地平を分断し組み立てる。連続する道よ、我が導き与えてやろう。汝が目指し突き進むべき出口は一つではないのだと。無限の空間に点在する扉は開かれ新たな道を示さん!

 ロハネスが両腕を広げ魔来名まきなを恐悦の笑みで迎える。彼の背後には百に届く空間の歪みが点在し、そこから矛先が魔来名まきなに向かって構えられていた。

「さぁあてぇ、お待ちかねの真剣勝負だ。加減はなしだ。どの道ここで俺一人殺せないくらいじゃ団長には遠く及ばねえんだしなあ!」

 それが発射の合図。ロハネスの号令一下、上空から雨のように槍が降り注ぐ。飛来するは全てが殺人の武器。

 これだけで百人殺しを成し遂げる魔業の技である。

 その死地を、魔来名まきなは駆ける。彼は瞬時に疾風となり大地を蹴った。魔来名まきなは己に魔術的補助を施し溜めも準備もなく高速で移動していた。

 半蔵はんぞうから得た加速魔術。意識するだけで発動可能なこの術で魔来名まきなは疾走する。

 だが、迎える百の群衆の脅威は変わらない。密集して迫る槍には通り抜ける隙間はなく壁に等しい。

 魔来名まきな天黒魔あくまを握る手に力を入れる。ならば槍の壁をこじ開けんと、己のスパーダ、力の権化で連撃する。

 迫り来る槍を打ち落とす。払い除ける。逸らし迎撃する。

 面となって攻撃してきた槍の矛先を捌き切り、魔来名まきなは槍の群衆を突破した。

 だが、第二波がすぐにも襲来する。今度は前方からだけでなく魔来名まきなの左右からも空間接合による槍の強襲が行われた。

 それだけに留まらず、背後からも攻撃がくる。前後左右による全方位攻撃。まるで処刑器具アイアンメイデンの腹の中のように、夥しい数の槍が魔来名まきなを襲う。

 だが、寸時の後、魔来名まきなの周囲で爆裂が発生した。直後あらゆる槍は切断され宙に散る。

 振るった刀の軌跡はロハネスにも正確には捉えられなかった。魔来名まきなの斬撃は確実に槍を切り裂き空振りは一つもない。死角からの刺突にも振り返ることなく命中させた。

 エルターの絶対命中。必中の加護を用いて魔来名まきなは全撃命中させ第二波を踏破する。

 そして魔来名まきなは到達した。斬り捨てるべき本丸。

 ソニックブームを纏い接近し、己の間合いへと踏み込んだ。

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