錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

記憶1

「ん……」

 暖かな日差しに瞼を開き、暗闇だった視界が晴れ渡る。魔来名まきなは微睡みから意識を取り戻し静かに覚醒した。

 目を覚ました場所は廃棄ビル一階の中であり、内装も扉もなくコンクリートの床と柱しかない。地面にも凹凸が目立ち雑草まで生えていた。そんな場所の壁際に座り、今まで眠っていた。

 魔来名まきなは片手を額に当てる。

「夢……」

 先ほどまで見ていた夢の内容を振り返える。自分が作られて夢を見るなどということは今回が初めてだ。

 その初回、己が作り出す幻想は何かと思えば、まるで意味不明なものだった。何故、よりにもよってあんなものを? 

 そしてその内容。何故自分があんなものを。見たこともない景色。縁もゆかりもない状況。自分には先ほどのような夢を見る経験がない。

 魔来名の表情が歪む。

「……ふん」

 魔来名まきな逡巡しゅんじゅんを切り捨てることにして立ち上がった。変な夢を見た気分を変えるためにも顔でも洗おうと、洗面台のある部屋へ向かう。

 ここは廃墟ビルだが電気も水道も通っている。魔卿まきょう騎士団から魔来名まきなへの配慮だ、ここを拠点に戦えということらしい。

 それで魔来名まきなは荒れ果てた地面を歩き、おもむろに脱衣室の扉を開けた。

 だが、そこには先客がいたのだ。

「え、正一まさかずさん!?」

 中には佐城さじょうがいた。それを見て思い出す。

 昨夜はけっきょく殺せなかったこと。理由は分からないがその気になりきれなかった。

 その後こうして二人で休んだわけだが、それより問題は――

「きゃああああ!」

 彼女が、裸だったということだ。

 佐城さじょうは慌ててバスルームへと逃げ込み扉を閉めた。そして扉越しに怒鳴り散らしてくる。

「どうしてノックしないの!? マナー違反よ! 最低よ! 正一まさかずさんがそんな人とは思わなかった!」

 扉越しのため多少くぐもった声が聞こえてくる。

 そんな声を聞きながら、魔来名まきなは強めに扉を閉めた。

「くだらん」

 その後、着替えた佐城さじょうが脱衣所から出てきた。顔はムスッとしており明らかにご機嫌ナナメだ。

 そのまま魔来名まきなの隣に座り込む。しかし魔来名まきなも反省する気はなく仏頂面で壁に背を預けていた。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 沈黙が痛々しい。我慢できず魔来名まきなが先に言った。

「俺は悪くないからな」

「なんのことかな」

 佐城さじょうは余裕の表情という感じで聞き返してくる。それが嫌で魔来名まきなは舌打ちした。

 佐城さじょうは不機嫌そうだったが、そんな魔来名まきなを見て表情を元に戻した。どこか楽しそうに微笑んでいる。

 それからしばらく無言の時間が過ぎた。魔来名まきなから話し掛けることなど無論なく、佐城さじょうはこの時を喜んでいるようだった。

 不機嫌そうな魔来名まきなとは対照的に、佐城さじょうは安らかそうに微笑んでいる。

 それが、魔来名まきなには不快だった。

「よく笑っていられるな」

 苛立ちに促され、魔来名まきなの口から皮肉が零れる。それでも佐城さじょうの笑みに陰が差し込むことはなく、微笑んだままだった。

「懐かしいなと思って。あなたは思わない?」

「懐かしむほどの記憶などない。それはお前も同じだろう」

 魔来名まきなを含めてスパーダが作られたのはここ最近。最初に作られた魔来名まきなとて数年しか経っていない。

 彼らにはそれだけの時間しかなく、生まれたばかり。魔来名まきなの言う通り懐かしむほどの記憶はない。

「そんなことないよ。現世の記憶がなくたって、私たちには前世の記憶があるじゃない」

 そんな魔来名まきな佐城さじょうはゆっくりと反論する。それを聞いた途端、魔来名まきなはまたかとため息を吐いた。

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