錬成七剣神(セブンスソード)
第5章 あなたは一人じゃない
窓から差し込む木漏れ日に室内は照らされ、陽気と温かさに満たされている。静かな空間では小鳥のさえずりがよく響いた。
木目の床の部屋には緩やかな時間が流れ、外の林は静穏だ。
だが、一点だけ穏やかな雰囲気にそぐわない異物があった。室内にはいくつものベッドが置かれているが、その一つで、ベッドに両足を掛けながら片手で腕立て伏せをしている男性がいたのだ。
歳は若く青年といったところ。男が腕を曲げる度熱い息が口から零れる。
青年は上下ともシミ一つない純白の服を着ており、腕立て伏せに使っている腕とは反対側の左腕は、肩からなくなっていた。
また頭部も火傷をしているらしく、包帯を巻かれ右目が隠れている。髪はなく、体には傷が目立つ。そんな重体に鞭打つように、青年は一心不乱に残った右腕を動かし続ける。
「なにしているんですか!?」
そこへ若い女性の声が響いた。扉を開けて入室してきたのは看護婦で、青年より年若い少女であった。怒鳴られてもなお腕立て伏せを続ける青年に慌てて駆け寄る。
「止めてください! 何度も言っているじゃないですか、傷が悪化するって!」
男の体を掴み無理やりに止めさせる。男は強硬な姿勢でいたが、少女に掴まれ諦める。さすがに腕が一つの状態では無理からぬことだ。男は諦めると素直にベッドに横になる。
だが、表情は不機嫌そうに、悪戯がばれた子供のように看護婦から視線を逸らしていた。
そんな彼を看護婦の少女は嘆息しながら言い付ける。
「もう、どうして決まりを守ってくれないんですか。早く治らないですよ?」
声には怒りと心配が半分ずつ。両手を腰に置き、言い付けをきかない困った患者を見下ろしている。少女からの質問に青年は反抗的な態度で答えた。
「……傷が治った時、すぐに戦えるようにするためだ」
「もう……」
青年からの答えに少女は呆れたように息を吐く。もう十回以上も聞かされる理由に辟易(へきえき)とした気分だ。だが、その度に少女は決まって小さく微笑んだ。
「どうしてそんなに戦おうとするんです?」
この質問も何度もしている。そして、返ってくる答えは決まって同じ。
「あいつを守る。約束があるからだ」
その言葉を聞くたび、思う度、少女はどうしても笑みが浮かんでしまう。本当は優しい、この男性のことを知っているから。
無理なんてして欲しくない。戦ってなんて欲しくない。
けれど、目の前の彼が何故戦おうとするのか、その動機を知っているがために温かい気持ちを覚えてしまうのだ。
「だったら、今はちゃんと休んで傷を治さないといけないでしょう。そんなことしているといつまでも良くなりませんからね」
少女は青年に言い聞かせるが、このやり取りも幾度としてきたことだ。
どうせ目を離した隙に言い付けを破って体を鍛えるんだろう。少女は諦観の念を抱きつつも声をかける。このやり取りは決して終わらないだろう。
これからもこの患者は迷惑を起こすに違いない。それが分かっているのに、少女はなおも微笑んでいた。
木目の床の部屋には緩やかな時間が流れ、外の林は静穏だ。
だが、一点だけ穏やかな雰囲気にそぐわない異物があった。室内にはいくつものベッドが置かれているが、その一つで、ベッドに両足を掛けながら片手で腕立て伏せをしている男性がいたのだ。
歳は若く青年といったところ。男が腕を曲げる度熱い息が口から零れる。
青年は上下ともシミ一つない純白の服を着ており、腕立て伏せに使っている腕とは反対側の左腕は、肩からなくなっていた。
また頭部も火傷をしているらしく、包帯を巻かれ右目が隠れている。髪はなく、体には傷が目立つ。そんな重体に鞭打つように、青年は一心不乱に残った右腕を動かし続ける。
「なにしているんですか!?」
そこへ若い女性の声が響いた。扉を開けて入室してきたのは看護婦で、青年より年若い少女であった。怒鳴られてもなお腕立て伏せを続ける青年に慌てて駆け寄る。
「止めてください! 何度も言っているじゃないですか、傷が悪化するって!」
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だが、表情は不機嫌そうに、悪戯がばれた子供のように看護婦から視線を逸らしていた。
そんな彼を看護婦の少女は嘆息しながら言い付ける。
「もう、どうして決まりを守ってくれないんですか。早く治らないですよ?」
声には怒りと心配が半分ずつ。両手を腰に置き、言い付けをきかない困った患者を見下ろしている。少女からの質問に青年は反抗的な態度で答えた。
「……傷が治った時、すぐに戦えるようにするためだ」
「もう……」
青年からの答えに少女は呆れたように息を吐く。もう十回以上も聞かされる理由に辟易(へきえき)とした気分だ。だが、その度に少女は決まって小さく微笑んだ。
「どうしてそんなに戦おうとするんです?」
この質問も何度もしている。そして、返ってくる答えは決まって同じ。
「あいつを守る。約束があるからだ」
その言葉を聞くたび、思う度、少女はどうしても笑みが浮かんでしまう。本当は優しい、この男性のことを知っているから。
無理なんてして欲しくない。戦ってなんて欲しくない。
けれど、目の前の彼が何故戦おうとするのか、その動機を知っているがために温かい気持ちを覚えてしまうのだ。
「だったら、今はちゃんと休んで傷を治さないといけないでしょう。そんなことしているといつまでも良くなりませんからね」
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どうせ目を離した隙に言い付けを破って体を鍛えるんだろう。少女は諦観の念を抱きつつも声をかける。このやり取りは決して終わらないだろう。
これからもこの患者は迷惑を起こすに違いない。それが分かっているのに、少女はなおも微笑んでいた。
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