錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

対決5

 日向ひなたの頬を一粒の涙が落ちていく。

 そして、

「待つんだ!」

 聖治の叫びを無視して、日向ひなたは自分の胸を突き刺した。

「――――」

 瞬間、聖治の手からエンデュラスが落ちた。

日向ひなたぁあああああ!」

 此方こなたが駆け寄る。

「どうして、ねえどうして!?」

 此方こなたは倒れた日向ひなたを抱きかかえる。赤く染まった日向ひなたの体が、此方こなたの両腕に収まった。

 日向ひなたは安らかに瞳を閉じている。だが此方こなたに抱き上げられたことによりそっと開け、ゆっくりと視線を向けた。

「……、……」

 日向ひなたは言葉を吐こうと唇を動かすが、声は出てこなかった。けれど、日向ひなたが言おうとしたことは分かった。

『ごめん、ね』

 それだけを言い残して、日向ひなたは動かなくなった。

「うそだろ、日向ひなた……」

日向ひなたぁああああ!」

 妹の名を呼ぶ。此方こなたは動かなくなった日向ひなたを力強く抱き締め、押し付けるように顔を密着させていた。

 だが、それも不可能になる。日向ひなたの肉体は消滅し光の球に変わったのだ。それは此方こなたの胸を通って浸透し、此方こなたの一部となった。

「…………」

 この世からも目の前からもいなくなり、此方こなたはその場に手をついた。

「そんな……!」

 涙が地面に落ちる。ぽたぽたと地面にいくつものしみを作っていった。

「私は、守れなかった……!」

 後悔に此方こなたは拳を地面に叩き付けている。アスファルトの地面を殴ったことで鈍い音がしたが、痛みを気にしている様子はない。

「私は、誓ったのに……!」

 それよりも大きな激痛に、此方は苛まれている。

「果たせなかった……」

 しかし、激烈とした感情が此方こなたから消え失せていた。怒りが引いている。見れば、此方こなたはカリギュラの刀身を見つめていた。

「止めろぉおお!」

 聖治は足元にあるエンデュラスを拾う間もなく駆け出した。焦燥感が激しく自分を急かし、体を動かす。

「カリギュラ……!」

 だが、発動されたカリギュラに足がもたれ躓いてしまう。すぐに起き上がろうとするが腕に力が入らない。それでもなんとか顔だけを動かし、此方こなたを見つめた。

 此方こなたはカリギュラを両手に持ち、そして、剣先を自分に向けていた。

「止めろぉ……!」

 聖治は叫ぶが思うように声が出せない。体にも力が入らない。

 このままでは此方こなた日向ひなたと同じことをする。それを止めるためにはどうすればいいか、必死に考える。

 そこで聖治は一縷の希望を託し、ありったけの力を振り絞って叫んだ。

「出ろ、ゼウシス……!」

 右手が掴む己のスパーダ。未だに能力は分からないがその分可能性はある。この状況を打破出来る、此方こなたを救う起死回生の何かが。

 聖治はゼウシスを握り締め、全霊を込めて念じた。

「応えるんだ、ゼウシスゥウウ!」

 黄金の光を纏う神剣しんけん。神秘の具現とも言える至高のつるぎ。不可能すら覆す力を秘めていると聖治には分かる!

 だが、どれだけ念じようとも、ゼウシスは応えてはくれなかった。

「なんで……なぜだ!?」

 叫ぶ、何度でも。

「応えろよ! 救ってくれよ! 頼む、なんとかしてくれ、なんでもする! だから!」

 黄金色に輝くものの、変化がない。

「ふざ、けるなよぉおお……!」

 あまりの愚鈍さに、涙が出てくる。

 仲間が死にそうだった。今度こそは守ると誓った仲間が。助けたい絆が。

 なのに――

「今まで、ありがと……。ごめん、迷惑かけた……」

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