錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

対決1

「ごめん、待たせた。日向ひなたは?」

「今は寝ている。どうやら疲れていたみたいだ」

 夕日が傾き地平線に隠れ始めた頃、此方こなたは買い物から帰ってきた。荷物を机に置き、日向ひなたの隣に座った。

「昨日ね、この子全然寝れなかったのよ。布団の中でずっと震えてた」

「そうだったのか……」

「今はよく眠ってる。良かったわ」

此方こなたは? 此方こなたも寝れていないんじゃないのか?」

「ううん、私は大丈夫。ありがと」

 此方こなたは軽く返事をしつつも、目線は常に日向ひなたに向けられており頭を優しく撫でている。その目つきは慈しむような、大切な妹を思う姉の愛が感じられた。

(本当に大事にしているんだな)

 そんな二人を聖治は静かに見守っていた。

 だが、此方こなた日向ひなたの頭を撫でている手を止めた。

「ん?」

 その後瞳を閉じた。思い悩んでいるようで表情が苦しそうに歪む。激しい頭痛に苛まれているような、頭が割れそうな顔だった。

此方こなた、どうした?」

 此方こなたの様子がおかしい。それで聖治は聞くが、此方こなたは瞼を開けると再び慈愛の眼差しで日向ひなたを見つめていた。

「ねえ、聖治。話があるの……」

「あ、ああ」

 此方こなたは聖治を見ない。なにをそんなに思い詰めているのか聖治には分からず、とりあえず頷くしかなかった。

 日向ひなたがいる部屋では駄目だということで聖治たちは外にいる。外はすでに日が沈み人工的な光で照らされている。

 聖治と此方こなたはビジネスホテルの裏、人気のない道に立っていた。ここには街灯も疎らしかなく、テナント募集の看板を掲げるビルが並んでいた。

「それで此方こなた、俺に話ってなんだ?」

 隣で立つ少女に視線を下ろす。此方こなたは声が聞こえていないように前方をぼうと見つめている。聖治は不安に思いもう一度声を掛けようとした時だった。

「うん……」

 それだけを、ぽつりと呟いた。

「?」

 よく分からないが聖治は急かすことはせず、此方こなたが話し出すのを待つことにした。

日向ひなたは、まだ寝てるよね……?」

「おそらくな」

 此方こなたはなかなか本題へと移らず、時間を稼ぐように話の内容を出さない。

 その代わり、此方こなたは今もホテルで寝ている日向ひなたを話題に出した。

日向ひなた、やっぱり無理してたんだよね。日向ひなたも昨日のあれ、見てたし。精神的に辛かったはずだし。あの子、前から弱虫なところあったから」

「そうだな。でも、その分優しい子だ」

「うん、優しい子だから。あの子にだけは生き残って欲しい。そう思ってる」

 此方こなたは目を瞑り片手を胸においた。それは祈りを捧げるような、そんな仕草だった。

「あの子は私を救ってくれた。辛いだけの人生に光をくれた。感謝してる。だから、私は日向ひなたを守ると誓った。私を救ってくれた日向ひなたを今度は私が救おうって。一度救ってくれた命なら、日向ひなたを守るために使ってもいい。日向ひなたを守るために生きて、そして死んでいけばいいって、そう思ってる」

此方こなた、まさか日向ひなたと二人だけになったら……」

「うん。その時は、……私が死ぬ。それで、日向ひなたが生き残るなら、それでいい」 

 声調は静かで澄んでいても、祈りのように真摯でも、その発言は過激だった。

 自分が死んでもいい。そう言った後なのに、此方こなたは静かに話し続ける。

「自分が生き残りたいなんて思わない。日向ひなたが生き残れるために私は戦う。だから……」

 此方こなたは胸に当てていた手を下ろしそっと瞼を開いた。表情はまっすぐとしており、覚悟を決めたようだった。

「買い物に行っている最中、考えていた。日向ひなたは戦えない。その場にいることもあの子には負担が大き過ぎる。だから、私か聖治が魔来名まきなを倒さないといけない。でも、それでもきっとあいつには勝てない。なら」

 此方こなたは体を聖治に向けた。鋭い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

「スパーダをまとめて、力を上げるしかない。それでしか、あいつを倒せない!」

此方こなた……なぜ!?」

「こうするしか、ないから……」

 そう言って此方こなたは手を虚空に翳した。いつの間にか、道には二人だけになっていた。

「来い、魔皇まこう剣カリギュラ」

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