錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

幹部戦半蔵4

 声は、男のものだった。

 そして、泣いていた。それもただの泣き声ではない。地獄の底から響いてくるような、怨嗟の声。あまりの怒りに言葉にならず、掠れた声は人語とも思えない。

 悔恨かいこん。増悪。邪念。黒い炎が男の心を焦がしながら、男はなんとか声を振り絞る。

『俺、は……』

 それほどの怒りを覚えながら、男は何を叫ぶのか。

『俺は……!』

 男を支配する怒りと憎しみの感情。魂魄こんぱくに刻まれたあり日しの――それは、魂の慟哭どうこくだった。

『俺は、力が欲しい!』

(――――)

 そして、半蔵はんぞうの暗器は間合いを突き破り魔来名まきなに達した。全方位を囲み、回避も防御も取れない単純ながらも絶対の戦術。さながら網のように。半蔵はんぞうは確信する。

「馬鹿な……」

 だが、現実は彼を裏切った。目の前で起きた不可解な現象。

 小規模な竜巻が全ての暗器を叩き落とし、フルオートの銃撃音のような爆音を打ち鳴らし、現象が収まった時、そこには魔来名まきなが健在していた。

「どうやった!?」

 己の想像を超えた出来事に半蔵はんぞうは思わず声が荒れる。今しがた起きた現象。不可解ながらも半蔵はんぞうは見ていた。

 迫る同時多元攻撃。魔来名まきなに動きは見られなかった。そこまでは確かに視認していた。

 だが、そこから突如分からなくなる。気が付いた時には暗器は全て地に伏し、天黒魔あくまを抜き放った魔来名まきなが立っていたのだ。

 そのため半蔵はんぞうは問う。確かに見えていたはずなのに、突如として何故理解出来なくなったのか。

 その時、何をしたのかを。全方位から放たれた同時攻撃を生き残った理由を問う。

「そうか、なるほどな」

 そこへ返ってきた答えは、半蔵はんぞうではなく己へ言い聞かせる言葉だった。

「絶対に当たるという特性上、この能力は攻性向きだと思っていたが、逆だった。これはむしろ防衛に適している。絶対に当たる迎撃というのは有能だ」

魔来名まきな、貴様ッ!」

 魔来名まきなの呟きに即座に半蔵はんぞうは反応する。魔来名まきなが口にした言葉。『絶対に当たる』という意味を、半蔵はんぞうは知っているからだ。

「まさか、エルターの必中を!?」

 撃てば百発百中。あらゆる過程を省き結果を確定する因果の逆転。必中のことわり魔卿まきょう騎士団幹部エルター・セイミスが生涯を費やし体得した神の業、その一端である。

 それを、今や魔来名まきなは体得していた。エルターの魂を己が物とし、魂に刻まれていた情報を手にした。そこには、必然として絶対命中の魔術も記録されていた。

 半蔵はんぞうもそれで納得する。しかし、だがしかし。半蔵はんぞうとて魔卿まきょう騎士団幹部の男。己の技には意地と誇りがある。

「はあああ!」

 魔来名まきなに必中の法則があるのを承知で投擲する。暗器は放たれ、再び全方位を囲む。

 それを何度も続けて行うことで魔来名まきなを波状攻撃が襲った。

 幾重にも渡り襲い掛かる暗器は嵐のようで、実際に雨滴うてきの如く膨大な数で降り注ぐ。

 それを、魔来名まきなの剣風が迎撃する。幾多の暗器を悉く粉砕、淘汰する。

 正面から飛来する暗器は当然のこと。死角から迫る暗器も振り返ることなく天黒魔あくまで打ち落とす。

 もし速度が足りねば途端に百倍以上の加速を見せ、それでも足りねば空間が歪曲し刃が空間転移して命中させる。同時に迫る暗器も天黒魔あくまの刃が鞭のようにしなり一度で迎撃した。

 そのあまりの滅茶苦茶。不可能や限界を突破する。しかしそれも必然。何故なら決まっているから。全てを命中させると結果が確定している以上、打ち損じはあり得ない。

 不可能を何度も超えて暗器を地に落とす。

 絶対命中による完全迎撃。魔来名まきなはそれを実現していた。

 数えきれぬほどの攻防。そこで、半蔵はんぞうの攻撃が終わった。

 無言の空気が辺りを包む。両者の周りには平行世界から呼び寄せた万を超える暗器が落ちている。大地は抉られ、まるでクラスター爆弾でも落とされたように広範囲に渡り荒れていた。

「満足したか?」

「……ああ、納得した」

 魔来名まきなからの問いに半蔵はんぞうが答える。どれだけの攻撃を仕掛けてもすでに手遅れ。今の魔来名まきなは倒せない。

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