錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

再会3

 そこへ、二人とは別の声が掛けられた。

「その女は斬らんのか、魔来名まきな?」

 突如として掛けられた声に魔来名まきなと佐城が振り返る。佐城さじょうが走ってきた道とは反対側、道の中央に黒の外套姿が立っていた。

魔卿まきょう騎士団!?」

 フードを目深に被った出で立ちに佐城さじょうが真っ先に反応する。そこにはセブンスソードの管理者であり処刑人でもある魔卿まきょう騎士団が立っていた。

 だが、魔来名まきなは動じない。佐城さじょうに向けた剣先はそのままに、外套の人物を見咎める。

「執行猶予中だ。くな」

「そうか。だが、こちらとしても時間を掛けたくはない。いつ聖法教会が駆け付けて来るか分からんからな。あれで鼻が利く連中だ。そういうことだ、形式ばかりにこだわってもいられん。セブンスソードの完成を優先する」

 そう言うと外套の男の手元が視界から消える。それほどの高速移動であり、佐城さじょうには手品のように何が起こったのか分からなかった。

「きゃあ!」

 次の瞬間、鳴り響く金属音と火花に佐城さじょうが身構える。瞼を強く閉じ、その後ゆっくりと開けてみる。
 そこには腕を伸ばした外套の男と、刀を振るったままの体勢で止まっている魔来名まきながいた。

「……何故庇う?」

「貴様こそ、俺の獲物に手を出すな。セブンスソードの達成は俺の力で成し遂げる」

 二人の戦意がぶつかり合う。佐城さじょうは二人を見つめるが、魔来名まきなの足元に月光を受けて輝く光沢に気が付いた。それは手投げナイフであり、外套の男が投げた正体だった。

 魔来名まきなは放たれた敵の暗器を天黒魔あくまで弾き返したのだ。それは佐城さじょうの身を守ったということだ。そのことに、佐城さじょうは少しの感動を覚えていた。

 今目の前にいる男の背中が、かつてのように頼もしく感じてしまう。

「……解せんな」

 そこで外套の男がフードに手を掛けた。そのまま捲り素顔を晒す。

 頭髪は全て剃られており魔来名まきなと同じく精悍せいかんとした表情をしていた。年は若く十代後半に見えるが、相手は魔卿まきょう騎士団幹部。見た目通りの年齢ではないだろう。

 青年の頭部には全体に黒の刺青が掘られており、額にまで伸びていた。

「そう言うならば何故早々に手にかけん。私には、むしろ躊躇っているように見える」

「俺が躊躇うだと? 寝言も休み休みに言うんだな」

「事実だ。普段のお前なら、会話が始まる前から斬っている。自身でもそう思わんか?」

「…………」

 男からの指摘に魔来名まきなが黙る。自覚はしていた。何故天黒魔あくまに伸ばそうとした手が動かなかったのか。

 敵意がなかったから? 傷を治してもらったから? 理由を探せば見つかるが、どちらも納得には及ばない。

 そもそも、それで殺害することを止める男でもなかったはずだ。魔来名まきなは放棄していた疑問を洗ってみるが、答えは出なかった。

「なるほど。無意識に前世の恋人を意識しているのか」

「なに?」

 そこへ答えを送り出したのは、意外にも魔卿まきょう騎士団の男だった。

「だが、それではいかん。魔来名まきな、お前はセブンスソードで勝ち残らねばならん。己以外の全てを淘汰とうたし完全体となれ。時間がない、お前に出来んとなれば、誰かがやらねばならん!」

 男の手元が再び消える。それも今度は両手。空気を切り裂き二つの暗器が佐城さじょうを急襲する。

 だが、またしても魔来名まきなによって迎撃される。二つ分の振動が夜に響く。

「何度も言わせるな。完全体へと成るのは俺の力によってのみだ。施しはいらん。その道を汚すというのなら、貴様も殺す」

 天黒魔あくまの刃先が男を捉える。向けられた男も一切動じることなく刀身の先を直視する。
「……やむを得ん。敵対する気はなかったが、その女はやらせてもらう」

「貴様、名は?」

「……半蔵はんぞう

「そうか。お前の魂も奪うとしよう」

 魔来名まきなの言葉に半蔵はんぞうの視線が動く。地面に横たわるエルターの亡骸を見つけ、幾秒置いてから魔来名まきなに向き直った。

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