能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.111 獅子の好敵手

先に導入を全部済ませようと思います。






クルシュ達が戦闘に入った頃、塔内へ侵入したエリカとユリアは透明な階段を響きのいい音を奏でながら歩いていた。


「..............さっきから敵が1匹たりとも出ねぇじゃねぇか!!」


エリカの怒声がやけに明瞭に塔内で反射したかと思うと、スパーン!と擬音が見えそうな歯切れのいい音を立てて、エリカの頭をユリアが自身の耳を片手で抑えつつもう片方の手刀で殴った。


「痛ってぇな!!?」
「急に大きな声を出さないでください。..........あいたた、耳が」


敵地のど真ん中だと言うのにある意味いつも通りな2人はやはりその場数による慣れ故か、はたまた敵が見えない状況による油断故か。だが彼女達はいつも通りながらも最速で武器を取り出せる構えを敷いている。故に前者であろう。


「........それにしても殺風景ですね」
「さっきから階段登るだけだからな。つまんねぇの」
「文句を言っていても仕方ありません。..........ですが、ここまでくると妙に不気味です」
「おかしいよな。外にあれだけ雑魚配置しときながら中に1匹も配置しねぇなんてことは無いはずだ」
「となると、或いは..........」


カチッ

ユリアが踏んだ透明な階段が音を立てた。

刹那、おびただしいほどの魔法陣がだんだんと見えてきていた天井付近に現れ、その中から様々な種類の魔獣が出現する。


「こういうことですね」
「やっぱりそうか。見え見えだよなぁ」
「さっきまで喚いてたのはどこの誰ですか」
「さぁ?誰だろうなぁ?。少なくともあたしじゃねーさ」


互いに冗談を言いながら、獲物を取り出し構える。エリカはヴェルディンを戦斧モードに、ユリアは刀を1本抜いて、その表情は笑っていた。


「「さぁ、遊ぼうぜ?(遊びましょう?)」」


直後、階段を粉砕するほどの威力を持って2人は空中へ飛び出すと、そのまま魔獣の大群へ真っ向から突貫していく。数秒後、豪快に薙ぎ払われるヴェルディンと鋭く舞う刀。エリカの一撃により敵の半数が一瞬で命を散らし、ユリアの刀が仕留め損ねた巨大な魔獣などを細切れにする。

故に彼女達に死角はない。互いが互いをカバーする故に彼女達の体には傷一つ付かず、一方的に敵が散っていく。


「おらおらどうした!もっとこいよ!」


カシュン!と戦鎚に変形したヴェルディンを空中にてフルスイング。その一撃に当たる魔獣は瞬間威力何トンという暴力に体を爆散させ、当たらずとも周りにいた魔獣は余波に吹き飛ばされ壁にぶつかった衝撃で肉塊に還る。


「エリカっ!どきなさい!」
「っ.......!?おいおいマジかよ!」


ユリアの声が響く。エリカがユリアの方向を見た途端にその顔を青ざめさせ、急降下で階段に着地した。それを確認したユリアが走っていた壁を蹴り大群の中心に躍り出る。


「抜刀『天地雷鳴』!」


刹那、納刀していた刀に稲妻が迸り抜き放たれる。上下逆さになった視界で剣閃が走ると、重力に従って着地したユリアがチン、と歯切れのいい音を響かせて納刀した瞬間、その空間に存在した全ての魔獣が血飛沫を撒き散らし絶命した。

抜刀『天地雷鳴』。自身を纏雷で強化し、雷が落ちたように一瞬で敵を切り刻む技である。纏雷はクルシュの改造魔術である『雷閃魔術』と同じように金色の刻印で生成可能な雷を使用する。だがクルシュのように全身に纏うのではなく腕に纏うため髪が逆立つようなことは無い。

そんなユリアにゆっくりと歩いて近づいてきたエリカは少しつまらなさそうな顔をしている。


「あっという間に終わらせやがって.........」
「敵がこれだけとは限りません。余計な消耗は避けるべきですから」
「あたしがこんぐらいじゃ疲れねぇの知ってるだろ?」
「それでもです」
「チッ...........つまんねーの!」


ヴェルディンを短棒に戻したエリカは両手を頭の後ろに回し歩き始め、その後に苦笑しながらユリアが続く。

数分後、景色が変わらない塔内の天井入口に到達した2人は、ゆっくりとその扉を開く。瞬間、先程までは全く感じることすら無かった殺気が、彼女達に流れ込んできた。必然的に表情が引き締まる。2人はそのまま部屋内部、中心に立っている男に向けて鋭い視線を送った。


「奴らが来ると思っていたが、ふむ。これまた面白い」
「何者です?敵ですか」
「然り。私はこの場を守るように命じられた神。セリギウス」
「.......なるほど、あなたがクルシュが言っていた"神"という存在ですか」
「然り、私は神だ。この世界の人間は大して動揺しないようだな」


そんなわけはない。実際に彼女達の第六感が訃げる、「今まで戦ってきたどの敵よりも強い」と。ただそれを外に表さないだけだ。流石は王国最強を冠す者、という事だろうか。

声音は震えない。しかし実際に神というものを目の当たりにして筋肉が少しだけ硬直しているのは自覚している。だがそんな中でもエリカは

――嗤っていた。

釣り上げた目に狂気が走り、犬歯を剥き出しにして口を釣り上げ嗤っている。心底楽しそうに、対等以上の好敵手に出会ったと心底嬉しそうに。元々エリカは好戦的である。喧嘩があれば止めるどころか割って入るし総合的に勝るユリアに何度も何度も戦闘を挑む。自分が負けようともお構い無しにまた再戦を挑み、勝ったとしても奢らずに次の相手を探す。思えばユリアは彼女が絶望に打ちひしがれる姿を見た事がない。おそらく彼女は絶望という言葉を知らないのだろう。勝てないと諦めるのではなく、戦えると喜ぶのだろう。

強い敵を貪欲に探すその姿、それは戦場におく戦闘狂である。実際、現に圧倒的力を目の前にして冷や汗ひとつ流すことなく獲物に手を伸ばす。いつでも飛び出せるようにその体勢は低く、会話はユリアに任せている。つまり、「この敵はあたしがやる」と、無言でユリアに語っているのだ。その姿に再度感心しながら、ユリアはゆっくりと視線をセリギウスに向けた。


「邪魔をするのであれば倒します」
「ほう?」
「私達の目的はこの帝国の陥落、戦争に勝利することです。その障害になるのであれば、交戦する他ありません」
「ふむ、なるほど。私は詳細を知らされていないが、ここを守るように命じられた身。ならば戦う他あるまいな」


セリギウスが臨戦態勢を取った。


「........質問ですが、あなたは誰から命じられたのです?。神である以上あなたは全種族の頂点に君臨する存在。あなたの上に更に位の高い神がいるというのですか?」
「然り、と言おう。しかしそう簡単に名前は明かさん」
「そうですか。ですがあなたの上がいるとわかっただけでもこちらとしては収穫です」
「何の意味を成すのかは知らないが、御託はもういいだろう。始めようか」


セリギウスの雰囲気が一気に変わる。息が詰まるように重い、見えない重圧が2人の体にのしかかった。


「............ユリア」
「ええ、分かっていますよ」


刹那、ついにエリカが動き出した。床を蹴り上げ、亀裂を刻みながらセリギウス向かってカシュン!と音を立てて戦斧に変形したヴェルディンを叩きつけた。が、それをセリギウスは両腕をクロスさせて受け止める。


「ユリア!!」
「あとは頼みましたよ!!」


引き付けていたエリカが叫ぶ2秒後には既にユリアは背後の階段に消えていた。セリギウスは呆れたように口を開いた。


「まさか神相手に並の人間が一人で挑むとはな」
「うっせ。あたしの一撃を平然と両腕で受け止めやがって。普通そのままぶった斬られてんぞ」
「当然だ。貴公らと我らでは体の作りが違う」
「ハハっ..........そうかよ。................安心したぜ。つまりは多少荒くても簡単には死なねぇってことだよなぁ?」
「っ!?」


直後、受け止めていた戦斧が横から迫り、そのままセリギウスを壁まで吹き飛ばした。壁に亀裂が走り激しくその神体が背中を打ち付けるが、何事も無かったような顔で床に着地した。


「ひっさびさに楽しめそうだからさ....................簡単に死ぬんじゃねぇぞ?」
「ふむ、神に対して見上げた度量よ。それはこちらのセリフではあるんだがな?」


そう言って睨み付けたセリギウスに視線を合わせるエリカの目は飢えたケモノののように獰猛で、ギラついている。まさに形容するならば、一頭の獅子であった。







一方、ユリアは背後のエリカを信じて一方通行の階段を駆け上がっていた。

おそらく彼女ならば大丈夫だろう、あそこまで獰猛な彼女は久しぶりに見た。必ず勝ってくれるだろう、と。彼女を信じて、余計な懸念を消し去って。


「ふーん、俺の相手はお前か」


駆け上がった階段の先は、先ほどと同じような開けた空間で、妙に軽い声が頭上から降りかかった。見ると、男が空中に浮遊していた。そして酷くつまらなさそうな表情をしていた。


「ちっ、あの化け物みたいな魔王に復讐してやろうと意気揚々に待ち構えてたんだがなぁ」
「魔王...........ジークと戦ったことがあると?」
「ああ。まぁ結果はお察しの通りボロ負けだがよ。...............はぁ、相手が大して骨のない女か」
「あらあら、女だからといって甘く見ていると足下掬いますよ?」
「はっ、神相手にそんなことできるか?そんな大口叩いて負けたヤツを知ってるぜ?」


刹那、男の足下の空間が。同時に浮遊性を無くしたために男が地面に降り立った。


「...........へぇ?」
「今のはほんの挨拶程度です。あなたの足元を文字通り掬いました、切るという形で」


抜刀した瞬間は男には見えなかった。つまりはそれほどの速度で一瞬のうちに刀を振るったと、そういう事だ。その事実に、男の表情が変化した。


「面白い芸当をすんじゃねぇか、女」
「女という名前ではありません。ユリア・ルーゲルダです」
「ああ、あれか。王国最強とか呼ばれてるやつの1人か。これは失礼したなぁ。俺は鏡映神エルモラだ。お前が下から登ってきたなら俺の前にもう一柱いたはずだが、セリギウスはどうした?」
「現在私の仲間が交戦中です」
「ということは地上から侵入してきた2人のうちのもう1人か.........」
「まさか見ていたのですか?」
「塔に入るところまではな。俺に届くのはそこまでだ」


「まぁそんなことは置いといて」とエルモラは一間置く。


「当然だが俺を倒さねぇとこの先には行かせねぇぜ?」
「承知しています。だからこそ切りますよ」
「上等だ。あの魔王をぶっ殺す前にてめぇで準備運動してやるよ!」


抜刀したユリアとエルモラ、同時に床を蹴った。





ついに全ての戦いの幕が上がった。


どうも作者さんです。お気に入り600人ありがとうございます。これからも精進して参りますので、ご愛読の程、よろしくお願い致しますね。

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