能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.82 魔術師は成果を見る
冒頭から失礼します。お気に入り250人&いいね900ありがとうございます!
その翌日、この日は剣術実技が行われた。内容は2人1組による真剣での打ち合い。組み合わせはクルシュとフィオーネ、エリルとアリス、ルイとリア。ミナはレオと組むことになった。
そしてこちらはクルシュとフィオーネ。現在、闘技場の上で互いを見つめ合っている。
「始めッ!!」
レオの開始の合図でフィオーネが身体強化魔法を発動し、クルシュはだらりと剣を構えた。
「余裕ばかり見せていると足元を掬いますわよ!」
上位身体強化魔法『疾風の身衣』で、一気に空いていた距離を詰めたフィオーネが剣を下段から振り上げる。恐らくはクルシュの刀身を狙った一撃、短期決戦で早急にけんを剣を取り上げようとしたんだろう。しかし、その一撃は空を切る結果となった。
「さすがは序列1位だ。でも遊びだよな?でないと、こんなに避けやすいものは無いぞ?」
「ッ...........!!」
後方から聞こえた声に対して反射的に剣を振り向きざまにふるう。しかしそれも虚空に終わり、少し先にクルシュが見えた。彼は嘲笑でも煽りでもなく、純粋な疑問として自分に言葉を投げかけていた。そうだ、忘れていた。彼は、クルシュ・ヴォルフォードは、『能無し』という皮を被った超人だと。自身の常識など、一切通用しない人外じみた人間だと。どこか、勝てる気がして、完全に油断していた。だからこそ――
「本気で行きますわよっ!」
持てる限りの全てを尽くして、倒す。勝つために、自身の限界をも越す勢いで身体強化魔法を自身へと付与する。
一閃、フィオーネの剣が鋭く走った。だがしかし、その、常人では避けることも無く剣を取り上げられていたであろう一撃を、またしても彼は簡単に避けた。一閃、また一閃、何度も、何度も何度も彼を狙った剣閃が空を切る。
「ふむ、悪くないな。だが、残念だ」
その言葉を馬鹿にされたと取ったフィオーネは、そのまま初めてクルシュに肉薄した。そして互いの剣がけたたましい金属音を響かせながら打ち合う。
「何が残念だと言うんですかっ!いくら自分が強いからと言って、おごるのはどうかと...........」
「いやな、もし対戦相手がルイならばもっとお前は力を出せたんじゃないかと思ってな」
「えっ.......?」
自分は馬鹿にされていたわけではなかったようだ。しかし、それよりもルイの名前が出てきたことで彼女の思考は少しの間停止した。そして脳裏にはあの日、心を許した日の記憶が過ぎる。
「っ〜〜〜!!」
「スキがありすぎだな。それ」
ハッとした頃にはもう遅く、後ろに回り込んでいたクルシュによって剣を取り上げられてしまった。カランと床へ落ちた剣を呆然と見ながら、先程自分に起きたことを処理、理解した頃には決着だった。
「ちゃんとケジメはつけるべきだぞ?」
「う、ううううるさいですわ!し、失礼しますっ!」
そのまま行ってしまったフィオーネに首を傾げるクルシュの少し離れたところで、エリルはやれやれと肩をすくめた。
そしてその数分後、今度はエリルとアリスの剣術実技が行われることとなった。互いに舞台へ上がり、構える。アリスが握るのは細い刀身がのびるレイピア、斬細剣フレスロア。伝承から成り上がった聖剣を魔術によって作り変えた剣である。それに対しエリルは翡翠の刀身が輝く、彼のみに扱える神剣、風王剣グラディース。先程のクルシュとフィオーネの戦いでは学園側からの支給の剣であったが、事前申請により持ち込み可能の剣で2人は戦う。
「さて、クルシュに鍛えてもらった成果、見せてもらうよ」
「やるからには勝つ気で行くわよ!」
既に開始の合図は終わっている。互いが地を蹴り、それぞれの獲物を抜刀した瞬間に金属音が鳴り響く。もちろん身体的な接触及び殺傷行為は禁じられているため狙うのは互いに互いの剣であるのだが、2人はそれを忘れていそうな勢いで剣をふるう。
「はぁっ!」
「ふっ.....!」
気迫がぶつかり合い、いつの間にか声が漏れていた。アリスに至っては魔法師としての雰囲気はどこにもなく、武人としての彼女がそこにいた。
「やるねアリスさん!」
「まだまだっ!」
打ち合う剣が、互いに速度を増していく。軽量化されているレイピアが刀身をしならせ打ち合うのに対して、エリルはそれを適切にいなして隙を伺っている。
「そこよッ!」
弾き上げられたフレスロアの隙を見てエリルが踏み込んだ。しかし、アリスはそれを待っていたと言わんばかりに飛来するグラディースよりも早い速度で斬細剣フレスロアをふるう。
カキィィィィン!
金属音ともにまたも相殺し合った2つの剣だが、フレスロアが滑る。グラディースの片刃に滑らされたアリスは前かがみに倒れ込むが、さすがは天才肌、前に足を投げ出して地面を踏み込むとそのままフレスロアを振り上げる。しかしエリルもそれを避けてバックステップで距離を取った。
「行くよッ!」
叫ぶと同時に床を蹴ったエリルが少し空いていた距離を一瞬のうちに縮め、グラディースを振り上げた。だがそれを読んでいたかのように避けたアリスがそのまま回転の勢いでフレスロアを薙ぎ払う。再び相殺した両剣はそのまま打ち合いへと移行していく。
一閃、また一閃と金属音が響いていくが今度は状況が違っていた。なんとエリルをアリスが押しているのだ。軽量のレイピアは威力こそ軽いものの手数でエリルを上回り、結果的に対応が追いついていないのだ。
「はぁぁッ!」
懐が空いたエリルのそこへと潜り、グラディースに向けてフレスロアを振り上げた。
「ッ!」
不意を突かれた様に対応が遅れるエリルの剣を、アリスのフレスロアが打ち上げた..........
――はずだった。
「えっ?」
手応えがないことにアリスは目を見開く。頭で理解した瞬間には、もうそこにエリルの姿はない。
「ッ!後ろ!」
「悪いけど僕の勝ちだ!」
振り返りざまにフレスロアを打ち込むアリスの攻撃を重心低く避けたエリルが一気に下方に待機させていたグラディースを振り上げた。今度こそ、下からの打ち上げ威力によってフレスロアが弾かれ、アリスの後方の床へと弧を描きながら突き刺さった。
「そこまで!」
レオがそこに割り込み、実技が終わる。
「あーあ、負けちゃった〜」
「お疲れ様。君の剣、とても良かったよ」
「ありがとう。でもクルシュ君に比べたらまだまだよ、こんなの」
肩を竦め、そう謙遜するアリスに「そんなことないよ」と爽やかな笑みを返しながらクルシュの元へと戻って行く。
(やれやれ、クルシュも中々のことをしてくれたね..........)
アリスの短期間の成長ぶりに内心、舌を巻きながらクルシュへと片手を上げた。
「お疲れだな」
「うん、疲れたよ。.........にしても本当にすごいね、彼女は」
「ああ。昔からアリスの天才肌は変わっていない。1度見ればそれっきりで全てを熟知できる、本当に羨ましい才能だ」
「君が羨望するなんて珍しいじゃないか」
「ああ。俺もあんな才能があればもう少し研究が進んだだろうにな」
「なんとも君らしい考えだね。........まぁいいや、彼女に労いの言葉でも掛けてあげなよ?ボクはミナさんのを見てくるからさ」
踵を返して、そう言いながら恋人の元へとエリルは向かう。
(ほんと、君達はお似合いだよ)
アリスとの戦闘中に感じた別の感情を汲み取ったエリルはそれを思い出しながら。
アリスの気持ちはいつ実るのでしょうね。
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コメント
神崎桜哉
冒頭の方ではルイとアリスって言う組み合わせだったのに、試合始まったらエリルとアリスになってる。