能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.81 魔術師は作り変える

そこから数時間後、クルシュは少し疲れたような表情で地下図書館の椅子へと腰を下ろした。その脇には樹切剣アルトを携えて。

クルシュが聖剣を抜いた数分後に、異例の事態だと駆けつけた連合国騎士団に一時拘束されそうになった。だが、クルシュのとある魔術によってそれは回避される事で集結を迎える。まず、記憶改竄。2年前、村の女性達がオークに攫われた時もこの魔術で自分の存在と誘拐の出来事を忘れさせた。同様にして、このことを知った連合国の民全てに向けて魔術を発動させる。

そうして、記憶改竄と共に発動させたのは、『星宝魔術』によって一瞬で作り上げた二度と無い最初で最後の魔術、『改変魔術』。その効果は、歴史に刻まれている事象を自由自在に変更することが出来る、というもの。これにより、過去数億年続いてきた樹切剣アルトの聖剣への成り上がりの経緯を、のだ。

この魔術は発動させれば存在すらもかき消せるものなので、二度と使わないようにと術式自体を破壊した。作り上げた魔術と二度と同じ魔術は作ることが出来ないためだ。

この2つによって聖剣を抜いたから国王に目をつけられる、というテンプレ展開を回避したクルシュだが、今回は二重発動ダブルキャストのため消費魔力が桁違いに多い。更に、瞬間的に作り上げた不安定な魔術の制御に集中力も削られ、その工程までに使われた数々の魔術にも魔力が割かれ、結果的に疲労が蓄積することになってしまった。ただの観光の予定だったというのに迷惑な話である。


「お疲れね?クルシュ君」
「全くだ。やれやれ」


肩を竦めながらゆるりと背もたれに体重を預けた。そこにエリルが苦笑しながら割って入る。


「しかしまぁ、よく面倒事回避にそこまでやるね」
「当然だ。俺はゆっくりと平穏に過ごしたいだけだからな」
「君らしいっちゃ君らしいんだけどさ」


まぁ、せっかく見つけたものだ。いつまでもあんな所に置いておく事もしのびない。利用させてもらうとしよう。

デーブルへと立てかけてあった樹切剣アルトを手に取ってとある魔術を発動させる。魔法陣にくぐらせた樹切剣アルトをアリスが見つめる。


「何してるの?」
「この剣は聖剣と呼ばれているが特に何の権能を携えている訳でもないからな。作り変えるんだ」
「つ、作り変えるんですの!?」


ガタッ!と椅子を倒して勢いそのままにフィオーネが驚愕しながら立ち上がる。アリス、リア、ミナの3人は「いつもの事か」と言わんばかりに剣を見つめ、内容を知っているルイとエリルはどんなものを作るのかと面白げに剣を見る。この場で驚いているのはフィオーネのみだ。


「そうだが、どうした?」
「い、いえ。そうですわね、私の常識がおかしいんですわよね.........」


周りで驚いているのが自分だけということに気づいたフィオーネは自重して黙る。その間に聖剣はただの剣へと。上空から落ちてきた剣を取った俺はアリスへ向き直る。


「さて、アリス。どんな剣が好きだ?」
「ど、どんなってどういうこと........?」
「レイピア、サーベル、刀、ナイフ、色々あるだろう?」
「レイピア.........かな?」


ふむ、なるほど。こちらとしても作りやすくて助かる。

 『製造魔術』を発動して大まかな形状を作成、細かな所まで手直しした後に『付与魔術』を発動させる。『超硬質化』、『重力消失』、『魔壊』、『超鋭利化』、こんなものでいいだろう。


「よし、出来たな」
「ちょ、ちょっと見せて貰えますか.......?」


恐る恐る聞いてくるフィオーネに解析魔術を載せた鏡面魔術で作成した鏡を手渡した。


「あ、ああ.........もう何も言いませんわ..........」
「大丈夫ですよ、直ぐに慣れてきますから」


謎に自爆したフィオーネをミナが慰めるという形で収束するという変な光景を無視して、クルシュは鞘に納めたレイピアをアリスに投げ渡す。


「うわっ!.......ちょ、クルシュ君!」
「すまないな。でも重さは感じないだろう?」
「あ、そう言えば..........」


気づいたように柄を持って抜刀すると、地下図書館の明かりにって照らされた銀の両刃が姿を現す。アリスは何度かそれを振るうが、重さに体が持って行かれるようなことは無かった。


「『重力消失』の付与魔術の効果だな。アリスのその指輪の『重力魔法』の応用みたいなものだ」
「それはいいけど、なんで私に試し振りを?」
「ん?当然、アリスの物になったからだが?」
「えっ?」


拍子抜けた声を出すアリスに俺はなお続ける。


「俺は魔法の方が戦いやすいし、ルイには2つの魔剣、エリルにも神剣と鉄剣がある。リアとミナは魔法、フィオーネもそうだ。となると、2年間、俺がずっと剣を教えていたアリスの物になるのは必然的だろう?」
「そ、そうかな.........?」


数秒下を向いたアリスは、嬉しそうにこちらを向いて、笑った。


「ありがとう!大切にするわっ!」
「ああ」


まぁ実を言うと有り合わせの言い訳でしかないんだがな。変に中途半端な聖剣を所持しておくならいっその事作り変えた方がまだ使用用途がある。要は邪魔だから受け渡したかっただけだ。

アリスとクルシュのやり取りを約1名、不満そうに見ている者がいたが、そんな事、当の本人は全く以て気づいていないため、さらに不機嫌になるのだった。


「さて、やるか」
「.......え?やるって何を?」
「もちろん、実践でも戦えるように鍛える」
「鍛えるってまさか............」


何かを察したのか、アリスの顔がどんどんと青白くなって行った。


「もちろん、そのレイピア。そうだな、斬細剣フレスロアとでも名付けようか。それを、な?」


アリス曰く、その少年の笑みは、とても加虐的なものだったと言う。




聖剣と言っても正式じゃないんですけどね。

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