能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.78 魔王は押し入る

あの対戦から数日、聖ニョルズ学園の席には1つの空席ができていた。それは学園序列第1位、フィオーネ・ラグ・ドーラのものだ。理由はその周辺の生徒も、果てには大人達も知りえない。故に、日に日に彼女の周りにいた女子生徒達は不安の色を濃くしている。しかし合同学習しているゼルノワール学園Sクラスはそれを気にすることも無く。それはクルシュ達も同じであった。


「どうしたんだろうね?あの人」
「フィオーネ・ラグ・ドーラの事か?珍しいな、お前が他人を心配するとは」
「まぁ気になるよ。てっきり僕達に因縁とかつけてくるかと思ったけど、あっさりあの日も帰っちゃったし」


対戦が行われたあの日の終了後、フィオーネ何を言う訳でも無く早々に帰ってしまった。その反応に、クルシュ達はもちろん、対戦相手の残りの9人も驚いている。そしてその日以来、フィオーネは学園に姿を現していないという訳だ。


「ルイはどう思うかな?」
「さぁな。俺に検討がつくと思うか?」
「直接対戦したのは君だし、何かわからないかな、って」
「ならば直接確かめに行くか?」
「えっ?」


その言葉にエリルは不意をつかれたように思わず聞き返してしまった。


「直接って..........」
「知りたいならば聞きに行けばいい。そうだろう?」
「君って結構行動派なんだね.........」
「行動しなくては何も始まらぬ。ただ佇流れに身を任せていては魔族の王など務まらぬのでな」


結局として、ルイ一人だけがフィオーネの住む屋敷へと赴くこととなった。クルシュ曰く、「さすがに大人数で行くのは向こうにも迷惑だろう」という事で、それでも1人というのはどうかと思うが、そこは妥協点だ。ちなみにどこにあるのかは、ルイが片っ端からフィオーネの住居を知っている者を探して半ば脅すように聞き出したため問題ない。

そうして今、聖ニョルズ学園にも劣らない豪勢な屋敷の前にルイは立っていた。公爵、ラグ・ドーラ家の住居となる屋敷だ。門についてある打ち金を鳴らすと、扉から背中にライトグリーンの3枚羽根を持ったメイドが出てきた。おそらく使用人は妖精なのだろう。


「ご要件は?」
「面会だ。フィオーネに会いたい」
「ご面会ですか?..........そうでしたか」


少し申し訳なさそうにメイドはルイを見た。


「すいませんが、お嬢様からは誰もいれるなと申し使っております」
「そうか.................なら」


ゆっくりと妖精のメイドに向かって片手を上げる。次の瞬間には常闇の刻印が輝き、彼の手の前に魔法陣が出現した。


「強硬手段を取らせてもらう」


そうしてその魔法陣が輝くと、妖精のメイドの目からハイライトが失われゆっくりと門が開いた。


「フィオーネのところに案内しろ」
「はい」


メイドは端的にそう告げるとルイを案内し始める。今さっき彼が使ったのは本来常闇の刻印が得意とする隠蔽や幻覚の部類に入る『催眠魔術』。しかし、必ず自分より弱い相手にしか効果が発揮できないということで、過去に最弱の名を着せられていた常闇の刻印持ちの人々は使うことがあまり無かった。故に知名度はかなり低いのだが、ここに居るのは魔族の王、最強の常闇の刻印使いである。もちろん『催眠魔術』を知らないわけがない。

ロビーから左右へ伸びる正面階段を登り、廊下を歩く。赤い絨毯に光魔法『灯火』で明かりは確保されており、暗くなる所などどこにもなかった。そしてそのまま廊下も通り過ぎ、突き当たりを左に曲がった先に一際豪華な扉が構えていた。


「こちらになります」
「中にいるんだな?」
「はい、では私はこれで。帰る時は自由にどうぞ」


そうしてメイドは仕事に戻るべく廊下を逆走していく。その姿を後ろ背に、マナーとしてノックを2回ほどした。


「誰です?」
「入るぞ」
「えっ?...........その声まさか!」


ルイの声を聞き、まさかと思い内側から押し返そうとしたフィオーネの抵抗虚しく、ルイに押し切られて明かりの灯らない薄暗い部屋へと彼は入室する。反動でベッドの床に倒れ込むフィオーネを、ゆっくりと閉まっていく扉を背にルイが見下ろした。


「な、なんであなたがここにいますの!?」
「何、顔を見に来たのだが?」
「面会は断っているはずです!それよりも、何故あなたがわたくしの家を知っているんですか!?」
「ここまではメイドに魔法をかけて案内させた。お前の家についてはそれを知ってるエルフから聞き出した」


そこで改めてルイは部屋を見渡した。全体的薄暗い部屋には、豪華そうなイスやテーブル、そして何より左右からレースのカーテンをひかれたダブルサイズのベッドがあった。


「さて、ではくだらない質問は終わりだ。今度は俺の質問に答えてもらうぞ」
「何がくだらない質問ですかっ!住居不法侵入罪ですわ!そして今わたくしが叫べば強姦未遂も付きましてよ!」
「残念だが俺はメイドに案内されて来た。なにも住居に無断で踏み入れて等いない。それにお前が叫ぶことを俺が見逃すと思うか?」
「それでもあなたが魔法でうちのメイドをどうにかした事は確定です!」
「残念だがもう記憶は消してある。なんなら帰りは『認識阻害』の魔法を使って帰るから問題ないぞ?」
「っ............」


完全に論破されたフィオーネは悔しく唇を噛むことしか出来なかった。..........しかし、数秒の後何かをあきらめたようにため息をつくと、ベッドに座った。


「もういいですわ、何をやっても無駄な気がしますし」
「随分と丸くなったな?明日は槍でも降るか?」
「私をなんだと思ってますのっ!?」


あまりの変わりように、ルイは本気でそんなことを心配する。そこに鋭いツッコミが入った。


「気高く、プライドも高かったお前がこうも変わるとは思わなくてな」
「それは................こうもなりますわ、あんなの見たら」


数日前を振り返るように、フィオーネは目を伏せる。その目には悔しさと、絶望が織り混じっていた。




変なところですがちょっと区切らせてもらいますね

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