能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.74 魔術師は敵情視察する

ウロボロスを近くに降ろしたルイ達が地面に降りると、呆れ顔で、しかし少し嬉しそうにレオがこちらへと向かってきた。


「.........やれやれ、やはり1番はお前達だと思っていたが。まだ数分だぞ?」
「俺の使い魔に運ばせた。あの程度の距離、散歩にもならぬ」


さすがにもう想定外のことに慣れすぎたせいか驚くこともせずにルイに向かってレオは苦笑いを向ける。


「まぁ、これがうちの自慢の生徒だ。無視は出来ないだろう?」
「ふむ、及第点だな」


レオの後ろから冷たい気配がした。直後、俺達の目の前に現れたのは耳がすこし尖っており、小麦色の肌に着重ねた鎧の上からでも分かるほど筋骨隆々のエルフであった。


「連合国騎士団長、グード・レイヴニルだ。せいぜい足掻けよ、猿共」
「口は悪いが腕は確かだ。まぁ私達に対する扱いはもう分かっているだろうから無視でいい」


フン、と鼻を鳴らしてグードは巨扉の先へと消えていった。と、リアがイラッとした様にジト目で睨んだ。


「何よアイツ。ほんと鼻につくわね」
「まぁ落ち着け。私達が見返すのは六日後だ」
「え?それってどういう........」
「さて、レオ。俺達は入るぞ」
「うむ、それが良いな」
「あっ.........ちょ、ま、待ちなさいよ!」


俺はレオから宿屋の場所の紙切れを受け取り、国内へと入国した。基本的にはリンドハイム王国と何ら変わりないが、1つ変わっているとすればやはり目の前にそびえる巨大な大樹と木造建築ばかり、という事だろう。


「皆エルフか妖精だね」
「当然だな。まぁ最も、魔族である俺は歓迎されていないらしいがな」


肩を竦めるルイ。そう、先程からずっと通行人やすれ違う人々が俺たちを凝視してくる。こんな所に人間が来るのも珍しいのだろうが、やはり魔族がこの国へと侵入しているのが国民は心配らしい。しかし勘違いしていはいけないが、ルイは魔王である。心配するのは当然なのだ。


「さて、宿屋はここらしい」


俺達が着いた所、そこは、やはりクラスが入りきれるようにと三階建てのようになっている。部屋を確保した俺達は、その後は各自自由行動となるのだが、俺は部屋で本を読んでいた。すると、ノックが鳴る。


「クルシュ、少し付き合え」
「ルイか。どうした?」
「何、暇なのでな」


そうしてルイの後ろをひたすら追うが数分、魔力の胎動が感じられた。


「どこへ行く気だ?」
「行ってからのお楽しみだ」


不敵に笑うルイを追うことまた数分、そこは闘技場であった。ここは聖ニョルズ学園、第2闘技場。観客席を見ると、撮影魔法などを起動している多数の学生ではないエルフと妖精達、そしてエルフと妖精の女子生徒達が中央で戦闘中の2人の生徒を観戦している。


「ぐわぁっ!?」


直後、妖精の男子生徒がエルフの女子生徒の魔法によって吹き飛ばされた。壁に激突してようやく勢いが止まったが、もう1人のエルフは髪を掻き上げながら妖精を見下す。


「しっかりしなさいな!この程度であの猿共と戦う気ですの!?」
「す、すいませんっ..........」


怒号とも取れる叱咤に、妖精がうつむき加減に謝る。その2人の反応に、周りは。


「きゃーー!!フィオーネお姉様カッコイイーーー!!」
「さすがお姉様ぁぁぁぁ!!」


など、黄色い声が集まっている。その声に、フィオーネと呼ばれたエルフは笑顔で軽く手を振りながら答えると、さらに歓声が湧き上がった。どうやら撮影魔法を起動しているのは国の記者らしい。


「あれは?」
「聖ニョルズ学園序列第1位。ラグ・ドーラ公爵家の次女、フィオーネ・ラグ・ドーラ。別名『秀麗の才女クイーンローズ』と言われているらしい」
「ニョルズは序列制なのか。というより、よく知ってるな?」
「ああ、少し調べたのでな。恐らく六日後クラン戦でも用意されているんだろう」


ルイと話している間に、誰かからこちらを観察されているような、そんな感覚を覚えた。それは、どうやらルイも同じだったらしい。


「誰かは分からぬな」
「全くだ。やれやれ、面倒事に巻き込まれなければいいが」


俺達がフッとかわいた笑を零したその瞬間、闘技場に声が響いた。


「ところで、先程、正確にはわたくしが魔法でソルトを吹き飛ばした直後から見ているそこの猿と害虫、出てきなさい?」


キッ!と眼光鋭い視線がこちらへと向いた。通常、観客など有象無象に過ぎないため気にしていないはずなのだが、さすがは序列第1位、という事だろうか。仕方なく、俺達は観客席の最前列に向かうと、指でこちらへ来いと合図されたため、客席から飛び下りた。

より近くで見たフィオーネは、一言で言うならば確かに薔薇である。ライトグリーンの透き通った髪は腰あたりまで伸び、こちらを睨む敵意丸出しの目は、アメジストだった。そして、髪と同じく透き通りそうな白い肌は、ハイエルフである象徴だ。気高く、誰も寄せつけないようなトゲのある光輝を纏う姿から取れる身長は、平均、つまりはアリスやリアと同じくらいか。ミナよりは大きい、とだけは言える。


「あら?その制服............なるほど。あなた達がゼルノワール学園Sクラスですか。初めまして、ラグ・ドーラ公爵家次女、フィオーネ・ラグ・ドーラですわ。以後お見知り置きを」


フィオーネは丁寧にスカートの端をつまみ上げて一礼する。だがしかし、そこまでだ。社交辞令を外さないのはさすが貴族の出か。


「それにしても、王国最大の学び舎も墜ちましたわね。よりによって魔族を招き入れるなんて。それに.........あら?あなた」


追撃しようとしたフィオーネは、ルイの後ろに続くクルシュの手の甲に視線が向いた。その瞬間、まるで侮蔑するような念が宿り。


「プッハハハハハハ!!あなた、『能無し』でしたの!?アハハハハッ!」


腹を抱えて笑うフィオーネは数分後、目頭に溜まった涙を拭きながら嘲笑う。


「クスクス、ここまで笑わせてもらったのは久しぶりですわ。十中八九、敵情視察なんでしょうけど、使いパシリの魔族に、『能無し』。それはこき使われますわよね!最も、そんな『能無し』が在籍しているSクラスもSクラスですけど!?本当に堕ちましたわね、ゼルノワール!」


甲高くそう叫んで、再び笑い声がこだまする。それは周りにいた生徒達にも伝染し、会場全体が笑っていた。そんな中、ルイが1歩前へ出た。


「だから?」
「......はい?」
「だからなんだと聞いたんだが?」
「懲りませんわね、だからここに来るべきではないと――」
「俺には貴様が他者を見下すことでしか優劣を決められない、ただ荒々しく吠えている子犬、つまりは典型的なクズにしか見えぬ。そんな畜生から言われた言葉など、気にする必要もあるまい?」
「っ!なん..........ですって?」


ルイの言葉がフィオーネの癇に障ったのか、握った拳が震える。そして、完全なる敵意を向けて、ルイへ今までで最も鋭い視線を、射殺さんばかりに送る。


「あなたに...........あなたにわたくしの何が分かりますの!?わたくしの一体何を思って、そんなことを言いますの!?」


怒号にもにた叫びは、まるでその場の全員に投げかけているような、それでいてどこか悲しい叫びだった。ハッと気づいたフィオーネがくるりと踵を返し、最後。


「六日後、覚えておきなさい。叩きのめしてあげますわ」
「それはこちらのセリフだ。せいぜい足掻け、フィオーネ」
「っ!..........」


キッと睨んで、そして踵を返し闘技場を去っていく。その後にソルトと呼ばれた妖精が続き、彼女の退場と共に取り巻きの女子生徒も、記者のエルフや妖精達も次々と退場して行った。




すごいだろ?こんなに反抗的なのに、サブヒロインなんだぜ......?

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