能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.70 エピローグ〜聖夜の下に〜

一週間が経ったある日の夜、リンドハイム王国では今年を飾る一大イベントが起きようとしていた。

聖夜の舞踏会、王国主催のこのダンスパーティーには大勢の人々が参加していた。一般人から貴族、果てには隣国の王族なども。もちろんその中には学園からの参加者もいる。そしてSクラスは全員参加という。

Sクラス、エリル・リリアスにダンスの相手を申し込むものは多かった。同様にクルシュにも。彼は星宝の刻印であるが、数々の魔法が認められ、今では一般生徒と変わりない。そして顔立ちも悪くないということから女子生徒の人気も集まりつつある。もちろん、と言うべきか、そんな女子達の申し込みにイライラをつのらせるアリスとリア。しかし、そんな女子達の申し込みを一切断り、果てにはダンスパーティーに来ていないのだ。それをアリスとリアは知らず、しかしなぜクルシュがいないのかはのちのち語ろうと思う。

エリルは同様にやんわりとファンクラブやその他の女子達の申し込みを断りながら、ある人物を探していた。ミシェルダ大聖堂、その聖堂の中でも輝きを失わない金色の原石、金髪碧眼の彼女、ミナだ。


「ミナさん!」
「あっ........エリルさん!」


そうして2人は再開した。エリルは髪をオールバックに固め、タキシードを着ている。ミナは本来の長髪を活かして装飾を散りばめられたアクセに金色の髪と対を成すような純白のドレスを見に纏っていた。


「綺麗だね」
「あ、ありがとうございます.........」
「ミナさん、もしかして空いてたりする?」
「もしかしなくても空いてます!」


聞いたエリルに勢い強くミナは返す。


「じゃあさ、僕と踊ってくれないかな?」
「っ..........!!」


嬉しそうに顔を緩めるミナにエリルも笑顔で答える。

――そうして場は静まり返り。


「.........はいっ!もちろんですっ!!」


――その声が開始の合図と、輪舞曲ロンドは始まった。


手を取り、呼吸を合わせてステップを踏んでいく。周りも踊る中、一際目立つように、きらびやかな風でも巻き起こったかのように、そこだけ輝いて見えた。姫と神狼、異例のその組は、完璧という言葉では生ぬるいほど美麗なダンスを見せ、やがて周囲をも魅了していく。いつの間にかミシェルダ大聖堂には彼と彼女の足音だけが響き、スポットライトが当てられ、その秀麗なダンスを周りは魅入っていた。やがて曲が終わり、ふと気がついた2人が辺りを見渡す頃には、大聖堂に参加者の拍手が響き渡っていた。


「エリルさん!こっちです!」
「えっ?どこに..........!」


彼が言い終わる前に、彼女は彼の手を引いて大聖堂を飛び出した。ヒールながらも石畳の街道を一組の男女が走る。彼女は、王国でも一際大きい噴水の前で、やっと走るのをやめた。


「ミナさん何を.........」
「私、今日ここに来たかったんです。エリルさんと」


言葉の最後にエリルの名前が呼ばれ、微笑みながらミナは名を呼んだ彼の顔を見る。


「知ってますか?聖夜の舞踏会のジンクス」
「ジンクス?そんなものがあるのかい?」
「はい。あのミシェルダ大聖堂、そこで聖夜に踊った男女は結ばれる、と」


若干恥ずかしそうに、しかし笑顔は崩さずミナはそう言った。そしてそのまま自嘲気味に笑った。


「でもまぁ、迷信ですけどね」
「そうだったんだ」


そう言って、エリルは噴水の方を見た。そして思い出すように目を閉じながら、口を開く。


「ミナさん、覚えてるかい?君に正体がバレるのが怖かった理由」
「はい、覚えてますよ。それがどうかしましたか?」
「実はさ、僕は君に嘘を言ったんだ」
「嘘..........ですか?」
「そう、嘘だよ」


聞いた彼女に肯定するようにエリルはそう言った。そしてさらに続ける。


「だから、本当のことを言うね。君にバレたくなかった理由..........それは」


一瞬溜めて、ミナの方を真剣な面持ちで振り向いた。


「君が好きだから」
「っ.........!!」


突然の告白に、目を見開いて。口元に手を当てながら、エリルを見た。


「いつの間にか、君が好きになってた。だから、怖がられると思って、正体を明かすのは嫌だったんだ。...........もし良ければ、君の返事を聞かせてくれるかな?」
「..........前も言いました、私はエリルさんがどんな人であっても、態度は変わらないと。それは、エリルさんだから、です。私も、エリルさんの事が好きです」


2人の想いは、ここに実る。聖夜の夜、ジンクスの通り、一組の男女が結ばれた。エリル、ミナ、気がつけば2人の唇は触れ合い。そしてそれは長い間、今まで抑えていた気持ちを解消するように、長く、永く。






そんな2人のことを梅雨知らず、アリスとリアは来ること叶わない人物を待っていた。


「遅くない?もう始まっちゃったし!」
「クルシュ君、何してるのかしら!」


そう言いながら2人は辺りを見回した。今の彼女達は貴族の婦人やその他の美人参加者に勝るとも劣らない美貌を持っていた。リアはその髪に合わせた綺麗な朱色のドレス、一方のアリスは大人なダークグレーのドレスを身に纏う。そしてそんな2人は少し離れたところで話をしているレオを見つけ、駆け寄った。


「レオさん!」
「先生、クルシュ知らないかしら?」
「随分と綺麗じゃないかお前達。クルシュを待っているのか?」


濃紺色の露出が少しだけ多いドレスを身にまとっているレオがそう聞くと、2人は揃って頷いた。レオはやれやれと溜息をつきながら口を開く。


「全く、こんな可愛い子を2人も待たせるとは罪だ。できれば言いたくなかったがな、クルシュは来ないぞ」
「「えっ?」」


その言葉に、2人は理解ができなかった。必然的に抗議の視線を2人はレオにむける。


「な、なんでよ先生!」
「レオさん、クルシュ君が来ないってどういうこと!?」
「まぁ落ち着け。詳しいことは言えないそうだ。その代わりとして伝言を預かっている。『舞踏会に参加できないのは本当に済まないと思っている。帰ってきたらなんでも言うことを聞こう。それで許して欲しい』との事だ」


案外、それを聞いた2人は"何でも"という言葉に様々な思いを巡らせるのだった。その光景に、またレオは肩を竦めた。





同時刻、当の本人であるクルシュはと言うと、とある人物の前に立っていた。薄暗い館内に敷かれた赤い絨毯の上、そしてクルシュから少し離れたところで段となってせりあがったその上には玉座が置かれ、そこに1人の男が座っている。白髪に赤い瞳、黒い外套を羽織り、まだ少し少年が残るその顔は、クルシュと同年代と思われる。そして左右には少女と女性が待している。片方は背が低く、銀色の瞳、金髪に縦のロールがかかった少女。片方は黒い長髪に紫色の瞳を浮かべる大人な雰囲気のある女性。


「久しいな、アスト。いや、今はクルシュ・ヴォルフォードと言った方がいいか?」


その男は、クルシュに向かって心底楽しそうに笑った。




誰だお前は!
ってな所で2章終わりましたぁん!次回から3章でっす!

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