能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.68 魔術師は決着を見届ける

俺達は現在、エリルが向かった王座の間へと急いでいる。道中、アリス達にエリルのことを話しながら。


「という訳だ」
「そうだったんだ........」


驚きはあるがどうやらショックを受けたという事ではないらしい。珍しいな、あれを見ても何も無いなんて。


「怖くないんだな?」
「あたしは別になんとも。実感がないだけかしら?」
「私は.......少し戸惑ってるかな。でも、怖くはないわ」


やれやれ、そんな精神はどこで鍛えられたのやら。と言うよりそんなことは杞憂だったか。


「もう着くぞ、捕まっていろ」


俺は簡単な魔術を練り、それを壁面にぶつけると簡単に砕けた。そこから俺たち3人は玉座の間へと滑り込んだ。すると、そこには戦闘中のエリルと何やら白い竜を操るアイルの姿、そしてそれを呆然と見つめるミナがいた。


「「ミナ!」」
「み、皆さん.........!」


アリスとリアがそう言いながら駆け寄った。顔からも消耗していることはわかったようで、アリスが直ぐに回復魔法をかけ始めた。


「無事か?ミナ」
「はい、なんとか。............クルシュさん、あれは?」


半ば答えが分かっていたのか、少し躊躇いながら、それでもゆっくりと戦闘中のエリルを指さした。


「エリルだ」
「そう、ですか...........」


やはり、と言った表情でミナは俯いた。そして、今度は覚悟を決めたように俺へと顔を上げた。


「クルシュさん、私をあそこに連れていってください!」
「..........正気か?」
「正気じゃないのはわかっています。でも、今のエリルさんは血走っているような気がして..........」


まぁ、確かにそう言えばそうだ。あいつのミナに対する感情は友人のそれを越している。当然、負い目も感じているだろう。


「行くか」
「.........!」
「「クルシュ(君)!!」」


ミナを支えながら飛行魔術を使おうとしたその瞬間、アリスとリアが両手を広げてそれを止めた。


「クルシュ、ダメよ!」
「ミナが今行ったら危なすぎるわ!」


もちろん2人の言葉は最もだ。しかし、今は一刻を争う。アイルは見たところ初見のやつでも魔族を知っていればわかるほど高位の魔族だ。その証拠に扱う魔術がそこらの雑魚とは大違いだからな。しかし直接攻撃するのではなく、エリルの攻撃を反射している。つまりはエリルは自分の攻撃で傷を負っている、という事だ。いくら不死身に近いフェンリルの姿とはいえ、自身の神殺しの力を持つ攻撃を受けてはひとたまりもない。それに加えて白竜の攻撃も蓄積している。故に自体は一刻を争う。


「どいてくれ、時間が無い」
「いくらクルシュの頼みでも.........」
「アリスさん、リアさん」


そこに、俺の支えを離れ、自分で立ったミナが1歩でた。朗らかな、こんな状況というのに何故か安心できる声で、彼女は言った。


「私なら、大丈夫です。心配ありません」
「本人がこういうなら大丈夫だろう?アリス、リア」


そう言った瞬間、ドゴォォン!と大きな音を立ててエリルが地面に倒れた。身体中に傷を負い、口から血を垂らしながら、なおその眼光は強くアイルを睨んでいた。

――『結界魔術』

直後、アイルと白竜、エリルとの間に薄い膜が貼られる。俺がエリルの前で片腕を水平に上げ魔力を集中させる中、ミナはゆっくりとエリルへと接近して行った。


「クルシュがやるなら」
「私達もやらないとねっ!」


そこに2人の声が聞こえ、白竜に向かって風の竜が突っ込んでいく。そう、それは風の精霊ティアマトのもので、白竜の首へと噛み付いて地面へと押し倒す。そこに無数の光の魔法陣が出現し、中から翼を生やした騎士が五万と出てくる。様々な攻撃のその揺れに耐えきれなくなったアイルが飛び降りると共に苦虫をかみ潰したような表情を浮かべた。


「っ!邪魔だなぁ!」
白竜こいつはあたし達でやるわ!」
「エリル君は存分にそいつをぶっ倒して!!」
「させないよ!」


アイルの声が聞こえ、リアとアリスに向かって魔術が放たれる。が、その攻撃は2人に届く前に霧散した。


「っ!」
「俺を忘れてもらっては困るぞ?結界の維持と逆証魔術を使うのは容易いからな」


ニヤッと笑い、そしてスゥっと息を吸った。


「エリル!起きろ!!、あとはお前だけだ!さっさと立て!」


喝を入れるように、旧友へ向ってはやし立てる。そして。そんな声を聞いたエリルはと言うと。


「..........やれやれ、無茶言うねほんと」


呆れたようにそう呟きながら、人間の姿へ戻った。しかし、戻ったと同時にバランスを失いゆらりと揺れて地面に倒れようとするところを、ミナが慌てて支えた。


「エリルさん!」
「ミナ、さん?...........怖くないのかい?」
「怖くない、といえば嘘になります。でも、エリルさんは優しいから.........」


すこし心配気なその表情に、エリルは自分の頬を殴った。


「エリルさん!?」
「ごめん、もう大丈夫だ。ありがとう、そしてごめんね、ミナさん」
「あ、待ってください!今、回復魔法を..........」


そういうが早く、ミナが魔法陣を出現させエリルの傷を癒していく。数秒ではあるが、エリルの身体中に付いた傷は半分以下までになっていた。しゃがんだ状態から自分の足でたったエリルが、ゆっくりとクルシュへ視線を向けた。


「クルシュ、待たせたね。ありがとう」
「全く、お前はいつも遅い。まぁそれはあとだ、早く俺の前に立て」


その指示にエリルがすんなりと俺の前に立った。その瞬間、エリルを守るようにして張っていた結界が消失した。


「...........クルシュ、君に預けてた物があったよね?」
あれ・・のことか?」
「そう、あれ・・だよ。ここが使い時だと思う」
「そうか。元々いつでも返却はする予定だったからな、いいだろう」


そうして俺が指をパチンと鳴らすと『空間収納』が開き、中から翡翠色の両刃剣がエリルの目の前に突き刺さった。エリルはそれの柄へとスっと手を伸ばすと、まるで主を待っていたかのように突き刺さった剣も簡単に抜けた。


「神から与えられた、僕だけが扱うことの出来る剣。やぁ、久しぶりだね、グラディース」


そっと掲げた剣は、光もないのに刀身が輝く。そして懐かしむように数秒の後、降ろした剣を 正眼にゆっくりと構えた。


「今更、何ができるんだい?無駄なあがきだね!」
「いいや、違う。............悪いけど、一撃で終わらせてもらうよ」


そう言った2人の間に静かに静寂が流れた。しかし、数秒の後にエリルがその沈黙を破った。

床を蹴り、一気に距離を詰めようとするエリルに、しかしアイルはニヤリと笑い。


「来ると思ったよ!」


予想通りと言わんばかりに魔術が発動すると、地面に既に設置されていた魔法陣を踏んだエリルが激しい炎の柱に包まれる。しかし身を焦がすかと思われたその魔法は、グラディースの一閃によって薙払われた。


「なっ!?」
「一撃で終わらせると言ったはずだよ!」


アイルの懐に潜り込んだエリルに対して、咄嗟に防御魔術を展開しようとしたが、もう遅い。


「風王剣、参ノ太刀『天羽翔月』!!」


一気に上段へと抜刀したグラディースがアイルの体を深く切り裂いた。そのまま重力に従うようにして跳ね上がったアイルは地面にドサッと落ちた。


「剣の........神髄......?」
「これが僕の奥の手さ。さぁ、これで僕達の勝ちだ」


そう言いきったエリルに、しかしてアイルは反応することなく。そして少し離れたところでもドサァァ!!という音と共に光の粒子が撒き散らされた。


「クルシュ、こっちも終わったわ」
「なかなかに強かったけど、問題なしね」


なんとも無いと、そう言いきりながらアリスとリアがこちらへと歩いてきた。その瞬間、今度はエリルが倒れた。それにいち早く反応したミナが駆け寄る。


「エリルさん!」
「大丈夫だ、命に別状はない」


そう言うと俺は転移魔術を練り。


「さぁ、もう時期ここも崩壊する。帰るぞ」


そう告げて俺達は『空間隔絶』を抜け出した。




2章はあとすこしだけ続きます。ほんのちょっとだけ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品