能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.66 クルシュVSシド&ルルク

3人が奮闘する最中、こちらも戦闘が行われている。2対1、傍から見ればこの勝負、明らかに2の方が有利と考えよう。しかし、実際には違う結末を迎えるかもしれない。それがクルシュ・ヴォルフォード、またの名を大魔術師アストだ。


「はぁ、はぁ..........」
「な、何なんスか........」
「ほら、どうした?そんなものか?」


肩で息をするのは帝国5高と謳われるうちの2人、シドとルルク。そしてその眼前には澄ました姿勢で仮面越しに欠伸をしているクルシュがいた。


「だから言っただろう?お前ら程度では俺を殺せない、と」


事実として俺は1度として攻撃を受けた覚えはない。まず当たるわけがないのだ。隙が有りすぎる大剣の振りに見え見えの魔法発動時、この2つに当たれという方が難しい。まだアリスやリアの方が魔法は優っているし剣術に至ってはエリルよりもかなり格下だ。これが帝国の強い部類に入る人材とは、やはり帝国自体はタカが知れる。


「別に撤退してもらって構わないぞ?そろそろ俺の仲間もカタをつけている頃だろうしな」


その瞬間シドとルルクの魔力が膨れ上がるのを感じた。別に侮辱した訳では無いんだがな。


「星宝の刻印などに...........」
「お前なんかに...............」
「「負けるものかッ!!」」


やれやれ、人殺しというのはあまり好きじゃない。だからこそチャンスを与えたのに、お前達は――


「――死ぬのを選ぶんだな」


そう俺が言うが早くか、シドが眼前に迫り、持っている大剣を振り下ろした。しかしただの大剣だと思ったそれは、地面に突き刺さると魔法陣を描く。瞬間、魔法陣から出た光の槍の数々が俺の体を貫く。


「『光貫槍』ッ!!」


なるほど、大剣の魔法を光で隠蔽したか。しかし久しぶりの傷だ、五臓は生きているがしかし出血が多い。

俺が思考をめぐらせているその瞬間、頭上に水で作られた巨大な槌が出現した。そしてそれは一直線に俺へと降り注ぐ。


「『水落槌』ッ!!」


仕方ない、二重発動ダブルキャストは好きじゃないのだがな、消費魔力も多くなる。しかし背に腹は変えられない。

――『結界魔術』
――『快癒魔術』

ドゴォォォォォォォォォォ!!

轟音とともに俺の結界と水で作られた大槌がせめぎ合う。しかし数秒と満たずに俺の結界魔術にヒビが入った。


「これでダメか、なら.........」


――『結界魔術・練』

地面に下ろした手へと魔力を流し込み薄い膜が出現すると、せめぎ合っている結界魔術と重なり、そのまま水槌を押し返すと霧散した。が、しかし。


「甘いぞッ!!」


霧散する瞬間に今度はシドが突っ込んでくる。そのシドの行動に一秒ほど反応ができなかった故に遅れた。瞬間、俺の右腕がローブごと切り捨てられた。


「っ!」
「まだ終わらんぞ!!」


まるでエンジンの如く加速する剣技が俺の体を切り裂いていく。そしてその体に向けて水の槌による強烈な殴打が載せられ、俺は地面を数回バウンドしながら転がり結界の手前で止まった。


「ふん、やはり星宝の刻印はタカが知れる」
「大口叩いてたのにどうしたんスかねぇ?ええ?」


やれやれ、すっかり油断気味だな。まぁ確かにいい連携ではあったが、その慢心が命取りだと知らないのが残念だ。さて、反撃開始と行こうか。

俺はその体のまま魔術も何もかけずに立ち上がる。


「殺したと思ったのだが?」
「まだ立つんスね」
「言っただろう?お前ら程度では俺を殺すには至らない、とな」
「ならば早々に覆してやろう!」


またもシドが突っ込んでくる。それに合わせて俺は手を手刀の形にした。


「お前には手刀これで十分だ」


俺は残った左手に『付与魔術』をかける。『超硬化』、『耐久上昇』、『超鋭利化』。3つの付与が乗った俺の手刀は金属音を轟かせながらシドの大剣を掴んだ。


「なっ!?」
「驚くのは早いぞ?」


そのまま左手から大剣に『逆証魔術』を流し込み、大剣を半ばから握りつぶした。


「魔法で耐久を強化しているのはわかっていたからな」
「くっ!貴様!」


半ばから折れた大剣のその柄で、満身創痍の俺へトドメをさせようと振りかぶったその瞬間。


「遅い」


隙ができたその瞬間、ゼロ距離で振り払われた俺の手刀が寸分違うことなくシドの首を切り落とした。力なく主を失ったからだは倒れ、最後まで驚愕に染まった顔が地面を転がった。


「シドッ!!」
「あまり叫ぶな。こちらも右腕を持って行かれたからな」
「ッ!!よくも!!」


残念だがお前の魔法はもう見切っている。発動瞬間に『逆証魔術』で魔法を破壊した。


「えっ!?」


驚愕するルルクを他所に俺は魔術を発動させる。凍結魔術でも、他の5つの魔術でもない、ましてや星宝魔術のひとつでもない。凍結魔術同様に俺が開発した俺固有の魔術、『雷閃魔術』。

バチバチと発生する稲妻が俺の左手に纏われた。


「水がよく電気を通すことは知っているだろう?そして俺の左手にあるものは何だ?」
「ま、まさか..........」
「この魔術は恐ろしいほど蒼藍と相性が良くてな」
「や、やめっ」
「そして先程から嫌という程使った魔法のせいでこの場は水浸しだ。つまり?」


ルルクの顔がどんどんと青ざめていく。さぁ、これで終わりだ。


「終わりだ」

――『雷閃魔術』雷翔

ルルクを囲むようにして魔法陣が出現する。逃げ場がないその空間で刹那、轟音とともに蒼白の雷の数々がルルクを撃ち抜いた。


「かはっ...........」


そうしてルルクはその場に倒れ伏した。近づいて確認してみると、白目を向きながら死んでいる。これで俺の勝ちだ。


「久しぶりに使ったが、ふむ。悪くは無いな」


そう言いながら欠損した右腕とその他の傷を『快癒魔術』で治し、終わっているであろうエリル達に『思念伝達』を送ろうとした瞬間。


『はぁ〜い、残念でしたぁ〜!』


俺達だけ・・に聞こえる声が響いた直後、世界が止まった。いや、正確にはそうじゃない。空間が移り変わったのだ。現に先程まで俺達はユルク草原にいたが今は王都らしき場所に立っているのだから。


『ねぇねぇねぇ、帝国5高倒したら終わると思った?思っちゃった?残念!まだ続くんだよね!ほらこれ見て!』


そうして俺の眼前に映し出された魔法のビジョンに、信じられないものが映っていた。


『ほら!僕の可愛い可愛い妹、ミナだよ!』


そこには、この国の王子であるはずのアイルと、気絶したまま抱えられているミナの姿があった。




戦争だけでは終わらない。

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