能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.65 アリスVSゴルム

辺り一帯に豪炎の火球が飛ぶ。彼女はそれを、全て紙一重で回避していた。


「おらおら〜!当たっちまうぜぇ!?」


その火球を放つのは、真紅の刻印、ゴルム。その火球を避けるのは金色の刻印、アリス。最優の刻印と炎系統に特化した"だけ"の刻印、勝負は見えていると、誰もがそう思うだろう。しかし。


「っ!?.........きゃあ!!」


瞬間、ゴルムが投擲した火球がアリスの移動先に吸い込まれるように進み、アリスとぶつかった。咄嗟に防御魔法を展開したアリスは魔法でのダメージは無効化したが落下によるダメージをもろに食らった。


「かはっ!.........ケホッ!ケホッ!!」
「おいおい、興醒めだぜ?最優の刻印さんよォ?」


煽るように嘲笑うゴルムに、背中を激しく打ち付けたアリスは回復魔法でなんとか治癒しながら立ち上がった。アリスには、クルシュのような圧倒的魔力量も、エリルのような剣の腕も、リアのような特殊な技も、ミナのような特別な眼もない。しかし、彼女には"覚える"ということに対して天武の才を持っている。後に言う天才肌、と言うやつだ。アリスはこの短時間でゴルムのパターンを測ろうとしている。故に多少の被弾はしてしまうのだ。


「まだ.........まだ!」
「じゃあこれを避けてみなぁ!」


魔法陣が出現すると、爆炎が魔法陣から吹き出す。しかしその爆炎を、またしてもアリスは展開した防御魔法で防いでみせた。


「どうした?防いでるだけじゃ終わんねーぞ!?」
「そんなの.........分かってるわよ!」


アリスが魔法を発動する。掌に乗った小さな光の球体は、振りかぶったアリスから射出される。


「はっ!これしき!」


迎え撃つゴルムは待機させていた魔法陣から吹き出した爆炎を使い光球を焼き尽くそうとする。しかし、その瞬間アリスがニヤッと笑った。


「これしきなんて思わないでよね」
「ッ!?」


爆炎に包まれながら明らかに消滅したと思った光球は未だにその実態を保ち、一直線にゴルムの腹部へと吸い込まれていく。直撃したゴルムが、数メートル後ろへと吹っ飛んだ。


「ごあっ!?..............ゴホッ!ゴホッ!」
「さっきのお返しよ!」


そう言いながらバッ!と指を差すアリスに、ゆらりと立ち上がったゴルムは口角を釣りあげた。


「『追撃はすぐさましろ』って教わらなかったか?」
「なっ!.........っ!」


反撃に出るゴルムは火球を出現させ、またしてもアリスに投擲する。しかし、アリスもアリスでまた重力魔法を発動させて上空へと逃げる。先ほどと同じ光景を眺めることになったが、しかし。


「上を見てみな!お嬢ちゃん!」
「えっ?..........これは!」


ゴルムに促されて上空を見上げたアリスの目に、戦闘が始まってから空に飛んでいた時に投擲されていた火球も合わせた、膨大な量の火球が上空を支配していた。ピタッと完全に動作を停止している火球は、まるで誰かの指示を待つようにゆらゆらと燃えている。


「なっ..........罠!」
「もう遅いぜ!落ちてきな!『火星の星屑ラヴィアコメット』!!」


腕を振り下ろしたゴルムの指示が魔法に伝達され、雨のように火球がアリスに接近する。何度か避けようと試みたアリスだが、それも失敗に終わり何度目かの火球が直撃したところでドサッ!と大きい音を立てて地面に落ちた。


「はっ!あっけねーなぁ?おい」


余裕な笑みを浮かべてアリスを見下ろすゴルム。しかし、そんなアリスに亀裂が入った。ピキッ、ピキッ、とガラスが割れるような音とともに虚空へと破片として散っていったそれは、魔法だった。


「やられたー、なんてね?」
「なっ...........」


声のした方向を振り向くゴルムの視線の先には、無傷で微笑むアリスが映っていた。何が起きた、と言わんばかりに驚愕を露わにするゴルムに対して、今度はアリスが余裕な笑みを浮かべた。


「『虚像フェイカー』。知らないかしら?」
「っ!いつから!」
「最初からよ?」


「逆に気づいてなかったの?」と言わんばかりの視線をアリスは向けた。


「私ね、習得するのは得意なんだけど威力調整が出来ないの。だから分身にも『光弾』を使わせた。でも、威力と関係無い魔法があるの」


そういったアリスは人差し指を立て、そのまま腕を真上に掲げる。


「そう、神位召喚魔法ならね」


ニヤッと笑ったアリスに、ゴルムは反論する。


「そんな馬鹿なことがあるか!神位召喚魔法だと!?御伽噺でしか語られていない魔法をどうやって使えるんだ!」


ゴルムの反論は最もだ。現在、この世界では神位魔法というのは御伽噺の産物に成り代わっている。故にこの世で神位魔法を使える者は誰一人としていない。しかし、それを可能にするのがクルシュとの1週間の特訓だ。扱う魔術・・一つ一つがこの時代の超位魔法級の威力を秘めているクルシュが天才肌を持つアリスに教えれば問題は解決、簡単に神位魔法使用者が出てくるのだ。


「使えるわよ?。言ったでしょ、習得は得意だって」


ニヤッと笑った次の瞬間、縦5mはあるかという巨大な魔法陣がアリスの背後に突如として出現した。


「天より出でる滅びの理。この世を繋ぐ天界の門よ、..............来なさい、『殲滅天使エインヘリアル』ッ!!」


アリスが高らかにそう叫ぶ。直後、魔法陣が神々しく輝き、中から白い純白の甲冑を見に纏い、大きな白い翼を生やした騎士が空中を埋め尽くすほど出現した。


「なっ.............に?」
「神位召喚魔法『殲滅天使エインヘリアル』。今私が使える中で最強の魔法よ。とくと味わいなさいな!」


バッ!と水平に振りかざした腕により指令を受け取った天の騎士達が一斉にゴルム向かって剣の切っ先を水平に前へ伸ばし刺突の体勢に入った。そのままの勢いで騎士達はゴルムへと飛来する。


「ちぃっ!『全焼灰燼砲グラン・マグナム』ッ!!」


魔法陣から噴出した高温の爆炎が騎士達を燃やし尽くす。呆気なさにニイッと口角を釣り上げたゴルムだが。しかし。


「っ!なにぃ!?」


焼き尽くしの炎を受けてもまだ存在している天の騎士に驚くのも束の間、その騎士がゴルムの脇腹を掠めて行った。


「がはっ!?」


掠めて行った次の瞬間には、いつの間にか背後に存在した天の騎士が持っている剣でゴルムの背中を切り裂いた。あまりの激痛にゴルムは膝を着いてしまった。

そこからはもう明白な勝負だ。抵抗虚しく軍団と化している天の騎士達が持っている剣全てがゴルムの背中から生えるようにして刺さって行った。最初は悲鳴をあげていたが、途中からはそんな気配もなくなり、やがて血の池の真ん中に佇むだけとなった。

出血多量、内蔵部分の破壊、それがゴルムの最期であった。


「な、なんとか勝てた..........」


肩で息をするアリス。神位魔法と言うだけあってやはり魔力の消費は大きいらしい。


「少し休んでから行きましょうか」


そう言いながらペタンと地面に座り込んだ。




と言うわけでアリス戦終わりですっ!
クルシュで終わりなのでもうすぐですねー。

「能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く