能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.58 魔術師は宣戦布告をされる

三日後、今日は学園の休日である。本来ならばいつも家で研究などをしているクルシュであるが、今日ばかりは陽の光当たる街路に出てきていた。なぜかと言えば、リアから頼み込まれたからだ。『先日の1件、そして度々重なった迷惑のお礼』という事で流石のクルシュも断る訳には行かず、渋々了承して現在、機嫌がいいリアの後ろを歩いていた。


「クルシュ、どこに行きたい?」
「別に俺は特に行きたい所はないが..........」
「ダメよ、今日はクルシュへのお礼なんだから!」


グイッと指を刺しながら前のめりになるリアに頭を悩ませる。

特に行きたい所はない、食べたいものも無いな。基本的にこの時代に来てからというもの周りの低レベルさに落胆してばかりで、正直欲しいものも低レベルでしかない。さて、どうしようか。


「.........ふむ」
「じゃああたしが連れて行ってあげるわ!」
「リアが、か。.........なら、そうだな」


クルシュは一呼吸置いた後にリアの目を真っ直ぐに見た。


「リアの家に行ってみたいな」
「..........え?」


鳩が豆鉄砲でもくらったようにリアは目を見開いていた。





数分の後、俺とリアはとある一軒家に移動していた。木造作りの二階建ては、一般的な建築デザインと変わりない。内装としてはテーブルなどの家具が必要な数だけ並べられ、キッチンなどは生活感がある中に清潔さが現れている。部屋を見ても、掃除が行き渡っているのがハッキリとわかった。


「綺麗だな」
「そう?普通だと思うけど」


当たり前のようにクルシュを客席へ促し、リアはお茶を淹れた。


「そういえば、誰かを家に入れるのは初めてかも」
「そうか。初めてが俺で良かったか?」
「べ、別に嫌じゃないし............むしろそれがいいって言うか、奴隷だからご主人様をもてなすのは当然って言うか..............」


頬を赤く染めながら何かを呟くリアを無視してクルシュはお茶を啜った。


「ていうか、なんであたしの家よ?」
「別に特に理由はないが、強いて言うなら俺がインドア派だからだな」
「それ関係あるのかしら..........」
「さぁな」


俺としては一応セレスの容態を見に来たというのもあるのだが、先程からセレスの姿が見当たらないな。


「セレスはどうした?」
「お母さんは仕事よ?」
「退院していたのか?」
「ええ、あの時の数日後にね」


ふむ、ひとまずは安心だな。また変に目をつけられでもしたら面倒ではあるが、まぁおそらくその心配もないだろう。ニルヴァーナ家を利用することはもう出来ないだろうしな。


「ねぇクルシュ、ずっと気になってたんだけど」
「何がだ?」
「帝国が王国と戦争するって話」


その言葉に乗せてリアの表情が真剣なものに変わる。


「それがどうした?」
「それがどうした、って..........怖くないの?」
「怖い、か。...........ふむ」


まぁ確かにリアのような年頃は強大な勢力を前にしたら怖気ずくのも無理はない。まぁ俺は恐怖心などはるか昔に置いてきたが。


「怖くはないな」
「なんで?死ぬかもしれないのよ?」
「それなら俺はお前に殺されかけたんだがな?」
「うっ、それは............」


あの時の刺激は中々だった。それに比べるとやはり戦争と言われればどうも格が下がる。竜も恐らく魔道具で片付けられるだろうしな。


「お前は怖いか?」
「当たり前よ。どうせクルシュのことだから戦争止めに行くんでしょ?」
「ああ。だが別に俺一人でどうにか出来るぞ?」
「ダメよ!絶対に駄目!」
「お前は参加しなくてもいいんだぞ?。その是非を決める権利はお前にある」
「それはそうだけど...........。ご主人様が戦場にいるのに奴隷の私が居ない訳には行かないのよ!」


やれやれ、怖いなら来なければいいと言うのに、なんとも矛盾だな。全く、本当によく分からない。


「というより、いい加減その関係やめないか?」
「えっ?」
「元々は無効試合だったものに条件をつけただけだったからな」
「クルシュは.............嫌なの?」


俯き、上目遣い加減でこちらを凝視する。別に嫌という訳では無い、しかし今のリアにはそれを言い訳にして俺達とのつながりを持っているような気がする。だからこそ、ここでハッキリしておかなければならない、俺達が友なのか、利用者なのかを。


「嫌だな」
「っ..........」
「正確には今の状態が、な。お前は自分を奴隷と言い張って少々無理をしている節が無いか?」
「それは...........」
「仮にお前に特殊な願望があったとしてもそれは俺じゃなくてもいいはずだ。どうして俺にこだわる?」


リアは未だ黙っている。それが沈黙なのか言葉を探しているのかはわからないが。しかし次の瞬間、口を開いた。


「..............クルシュだからいいの」
「?」
「私が初めて負けた、おごらない強さがあなたにある。私は、そんなあなただから、だからいいの」
「だから奴隷条件の契約を?」


そう聞くとリアは頷いた。..........やれやれ、それにしてもなんとも変な理由だ。俺のような人物が現れたらどうするつもりなのか。


「私のご主人様、それがクルシュ。それ以上でも以下でもないの。別に利用しようとか、漁夫の利を狙おうとか、そんなのじゃないわ」
「本当か?」
「信じられない?」


別に信じられないわけじゃない、リアが裏切るようなことは無いだろう。しかし主人と奴隷の関係は如何なものか。


「そうじゃないがな」
「じゃあ問題ないわよね、ご主人様?」


まぁ、仕方ない。もうこれ以上何を言っても無駄な気がするからな。利用者では無いことがわかっただけ十分だ。


「ねぇ、クルシュ」
「どうした?」
「魔道具ありがとう。まだちゃんとお礼言ってなかったわよね」
「急に何だ?改まって」
「いいじゃない、別に」


ふむ、つくづく不思議な女だ。まぁ感謝の気持ちを伝えるのは人間として当然のことではあるが。

そんなやり取りをしている時だった。何やら外が騒がしくなってきているように感じる。


「外が騒がしくないか?」
「そうね、少し出てみる?」
「ああ」


そうして外に出た瞬間、俺たちの目に飛び込んできたのは巨大なビジョン。王都全てを覆い尽くすような魔法で作られたスクリーンに人影が映っている。白髪の頭に煌びやかな装飾を施した王冠を被り、法衣のようなものを着た30代くらいの男である。そのスクリーンに、今まさに王都全域の住民の視線が集まっていることだろう。


「『王都諸君、ごきげんよう。私はアルキメデス帝国第五代目帝王、ヴルバーノ・ゼスレンである』」


スクリーンの男、帝王を名乗るその男は威厳を孕ませた声でそう言った。それにリアはギリッと憎々しげに奥歯を噛んだ。


「あいつ..........」
「知っているのか?」
「聞いたことがあるってだけよ。私のお父さんを殺したのがあの人ってことをね」


リアはスクリーンを睨みながらそう言うその間にも、スクリーンの男は言葉を並べていた。


「『今回私がこうやって君達の国の魔法を傍受して映像を届けているのには理由がある。我々帝国は一週間後、君達の国を責め居る決意をした』」


その言葉を聞いた民衆がどよめき出す。するとスクリーンの向こう側が動き出し、向こうの住民を映し出した。ハイライトの灯らない虚ろな目でひたすらに帝国の名を叫んでいる。


「『見たまえ、我が国の民の意気を。来る一週間後、戦場で相見えることを楽しみにしておこう。最も、君達が勝てるとは思わないがね』」


フフフと不敵に微笑んだのを最後にスクリーンは消滅した。その瞬間、それを見ていた観衆が騒ぎ出した。俺はリアの手を引き人の押し寄せが無い路地裏へと彼女を連れて行った。


「た、大変な事になったわ!」
「ああ。やはり帝国は攻めてくるらしい」
「ど、どうするの?」
「まぁ、待て」


そうして俺はここに居ない3人に向かって『思念伝達』を送った。


『アリス、エリル、ミナ、さっきのは見たな?もしこの声が届いているのならば至急古代図書館に来てくれ』


その言葉を残しリアにこれから行く場所を伝えながら俺達も集合場所へと向かった。

俺が到着してから待つこと数分、エリル、アリス、ミナの順で古代図書館へと到着した。エリルは落ち着いているが、アリスとミナは走ったのか肩で息をしている。


「来たか」
「クルシュ君!どういうことなの!?」
「クルシュの予想が当たったってことだよ、アリスさん」
「ああ、全くその通りだ。そして一週間後、俺達の国は火の海になる可能性がある」


その言葉にアリスとミナは戦慄した。自分の生まれ育った愛しい国であり、その国の皇女という立場のミナにとってこの事実は少し残酷だろう。だからこそそれを変える必要がある。


「クルシュさん、何か手はないんですか........?」
「無い、といえば嘘になるがな」
「なんだい?それは」
「俺が魔道具を開発して戦力を上げるだけじゃ意味が無い」


そうして俺は数日前に作った空間を開いた。先は真っ白な世界が続くそこを俺は指差す。


「じゃあどうすればいいと思う?」
「僕達が強くなればいいってことかい?」
「そういう事だ」


つまり、全体を強化するということ。1週間もあれば事足りる。


「こんな宣戦布告をしたんだ、学園側も運営は中止するだろう。だからこそその時間を使ってやることはひとつ」


そうして俺はその世界にいっぽ踏み入れ。


「死ぬ気で。いや、殺してでもお前達には強くなってもらう。1週間、いつも死ぬ事を考えておけ」


悪魔的な笑みを浮かべた俺はそう述べた。




果たして彼らはどこまで強くなるのか!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品