能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.57 魔術師は作る

あれから2週間、クルシュは永遠と地下図書館、自宅を行き来し、地下図書館にあった本の古代魔道具を開発した。転生前に優れていたクルシュを以てしても幾度となく失敗を重ねたそれは、至高の逸品と言える出来に仕上がっていた。その中でもクルシュがかなり苦戦したひとつの武器、魔壊型殲滅ライフル、エルード。

全長2メートルというクルシュよりも遥かに大きいそれから放たれる威力は、超級魔法のそれに匹敵する。文字通り魔力を破壊しながら進む、ということで魔壊型という名前が付いたと書かれていた。しかしこれはよっぽどの事がなければ使わないため本人にはあまり必要がなかったりもする。

ちなみにこの2週間の間もエリル達は普通に授業を受けていたのだが、成績主席者には特典がある。まず、最大一ヶ月間の欠席を認めるということ。今回クルシュはこの特典を使い、魔道具制作に労を費やしたのだ。

そしてこの2週間のうちにいちいち外に出るということと周りの目が面倒という理由からなんと自宅と古代図書館を転移魔法陣で経由できるという仕組みを作ってしまった。それに伴い図書館を『空間隔絶』し、あの扉も埋め立て、あの渡り廊下の壁に特定のパターンの魔力を流し込めば魔法陣が自動的に飛ばしてくれるという仕組みに変えたのは記憶に新しい。

日に日に図書館が清潔さを増し、さらに利便性が上がっていくことにエリルでさえも驚いていたのは内緒お話である。

そんな彼は一通り作った魔道具を自分で掃除、再設したテーブルに並べてじっと見ていた。


「ふむ、我ながら頑張ったな。少々本気になりすぎてしまったか」


元々彼は研究者であり、効率主義者である。効率のいい研究をするために環境を整えるのはもちろん、十分な設備を用意することも必要である。しかし彼はその血が濃すぎるせいかやはり食事を疎かにしてしまう。現に彼はこの2週間を飲まず食わず、不眠不休でやり続けた。そのため、いくら彼とも言えど今の体は限界を超えている状態にある。


「...........そういえば何も食べなかったな」


何か食べたい、そう思った瞬間に魔法陣が煌めいた。


「やっほ〜」
「なんかもうここあたし達の家みたいよね.......」
「慣れた自分が怖いわ」
「アリスさんに同じです..........」


いつもの面々が図書館を訪れる。おそらく授業を終えた後だろう。と、俺が並べてあった魔道具が気になるのかテーブルに集まってきた。


「クルシュ、よくこんなに作ったわね...........」
「君の意欲には脱帽物だよ」
「いやいや、見積もり通りでよかった。延長になるならまた申請しに行かなければならなかったからな」


俺はそう言って肩をすくめる。リアはそんな様子を見ながら少し大きいバスケットを魔道具をどけたテーブルに置いた。


「はいこれ。あたし達3人で作ったから。クルシュ何も食べてないんでしょ?ご主人様に死なれたら困るわ。しかも原因が餓死なんてありえないし」
「私は料理が初めてなのでお口に合うといいのですが........ 」
「ん、まて、今3人でって言ったな?」


そうなると少し遠慮したくなる。実のところを言うとアリスは料理ができるように見えて全くできない。なぜなら、とある日にアリスが作った『カレーのような他の何か』を試食したエリルが笑顔のまま気絶したことがあるからだ。ちなみにこの中で一番料理ができるのはリアだ。最近まではずっと一人暮らしだったからな。

と、リアが俺に耳打ちする。


「大丈夫、極力あたし達2人が頑張ったから」


それならおそらく安心できる。その極力がどこまでの程度なのか聞きたいところだが本人がいる前でそれを聞くのは失礼極まりない。と、俺がバスケットを開けるとパンや、水や、その他の料理がたくさん入っていた。どうやらこのパンも自分たちで焼いたらしい。

1つパンをちぎって、スープにつけて口に運ぶ。..........美味しい、スープが冷たくなった体の芯まで癒してくれる感覚だ。何も食わず飲まずの生活を続けている時に久しぶりに食事をしたら胃が〜........
等と言われているがそんなの関係ない。食事というのは満足してこそなのだからな。


「久しぶりの食事にしては勿体なかったな」
「お口に合って良かったです!」


そしてひと段落つけた俺達は改めて目の前の魔道具たちを凝視する。様々な魔道具があるが、どれもこれもが古代の魔術式を使った魔道具となっている。


「いやいや、なかなかに大変だった」
「大変で済ませられる量なのこれ.........?」


リアこめかみを揉みながらそういう。と、少し光る何かを見つけ、それを手に取った。リアが手に取ったそれには、赤い石がはめ込まれている。何かの指輪だ。


「違う」
「え?」
「それはアリスのだ」
「わ、私!?」


急に名前を呼ばれて驚くアリスにリアから取った指輪をアリスに投げ渡す。慌ててキャッチしたアリスはそれを見た。


「すごい綺麗..........」
「それは『浮遊石』と言う鉱石でな、それをはめ込んだ指輪だ」
「何が出来るの?」
「改良に改良を重ねて、その指輪を着けて魔力を流すととある魔法が使えるようにした」
「魔法?」


アリスが疑問符を浮かべながら首を傾けた。


「『重力魔法』と行ってな、修練次第では空も飛べるようになる」
「ねぇクルシュ、それって飛行魔法要らないわよね.......?」
「その通りだ、俺はその点を趣に作った。簡単に飛行魔法もどきが使える、飛行魔法という術式が難しいものを使わずにな。それはそんな指輪だ。名付けるならそうだな、力場の指輪か」
「...........」


アリスがその指輪を見つめながら頬を朱色に染めた。クルシュはその反応に疑問符をうかべる。


「どうした?」
「あっ、な、なんでもない!ありがとう!大切にするわ!」
「そうか?ならよかったが」


気にせずにまた魔道具を漁り始めたクルシュにエリルはやれやれと肩をすくめるのだった。


「あとリアにはこれ、ミナはこれだな」


そう言ってリアにはアリスと同じような指輪を、ミナにはローブを投げ渡した。2人はそれぞれキャッチする。


「まず、リアだな。その指輪には精霊が宿っている。名をティアマト、なかなか捕まえるのに苦労した」
「てぃ、ティアマト......?」
「風の女神に祝福を受けた精霊でね、龍みたいな形をしているんだってさ」
「へぇそうなの。そんなのがこの中に............ってええ!?、いつもみたいに流されそうになったけどそれってすごいことよね!?」
「まぁな。魔力を流すとその精霊は応えてくれる。名付けるなら暴風の指輪、か」


全て理解したリアは嬉しそうにそれを抱きしめた。そしてクルシュは今度はミナの方を向いた。


「ミナのそれは基礎魔力を格段に底上げしてくれる。そうだな、アリスみたいに中位魔法が上位魔法並みの威力になる」
「そ、そうなんですか.........」
「あともう一つだ」


クルシュが放ったそれは、白いメガネだ。ミナはそれを受け取るとマジマジと観察した。


「これは?」
「もし『透視の光眼』が発動した時にそのメガネをかけることで精度を上げられないかと思ってな。今のところ魔法抗体を持った龍に太刀打ちできる唯一の手段がミナだけだからな」
「あれ?僕の分はないのかい?」
「お前にはあるだろう?あれ・・が」
「ん?ああ、そっか。あれ・・があったね」


と、2人だけで会話するところにリアが割ってはいる。


「なによ?『あれ』って」
「まぁ見てからのお楽しみだ」
「とても気になるんだけど...........ていうかここまでの設備整えて何するの?戦争でもやるの?」
「よく分かったな」


クルシュの返答にエリル以外の三人が疑問符を浮かべ固まった。


「これは予測でしかないが、おそらく帝国は近々攻めてくることだろう。だからその時に備えて、という意味もある。半分は俺が作りたいと思ったからだがな」


クルシュは平然とそう言ってのけた。




ちなみにここには出せないのでクルシュが『空間収納』に収めているものも沢山あります

コメント

  • ノベルバユーザー232154

    労を肥やす→労を費やす
    です

    0
  • ノベルバユーザー232154

    思考の逸品→至高の逸品
    です

    0
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