能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.52 魔術師は野外に行く

しばらくして、アリスとリアの争いが日常茶飯事となった頃。


「今日は全授業を使って野外教習をするぞ」


と、レオが言った。周りの反応は様々で、好機の視線を向けるもの、怠惰の念が現れているものなど色々いる。


「野外教習ねぇ〜。面白そうじゃん」
「俺は特に興味ないな」


おそらく魔獣を倒すだけなのだろう。この学園を卒業した者は王都の騎士団や宮廷魔道士、冒険者など様々な道がある。今から倒すことに慣らしておこうというわけだ。


「私は興味ある」
「あたしもね」


と、アリス、リアが言った。

なぜ2人がここにいるのか、と言えば、それはレオが仕組んだから、と言うしかないだろう。どういう訳かレオが学園長に直談判して転入を認めてもらったとか。いつそこまでの権限を握ったのかは知らんが。


「リアはそんなの興味無さそうに見えたが」
「だって魔法のいい試しになるじゃない」
「私もそろそろ魔法試したいな〜って」
「アリスさんは威力間違えると吹っ飛ぶからね〜」


と、和やかな会話が続く。そんな時にもレオの説明は続いていた。


「今から準備してユルク平原に出てもらう。あそこは帝国が近いからあまり近寄らないようにな。それと、今回は魔法の練習の意味も含めているから、ちゃんと魔法を使うんだぞ。別に近接でも倒していいが、そんなことを出来るのはクラスで数名だけだからな」


まぁ最もだな。しかし数名と言うが実際は2人だ。俺とエリルは当たり前だが、リアは剣より魔法側、アリスは俺が教えてやったがやはり魔獣を倒すような腕には至っていない。リアの魔道具は剣のデバイスだが、魔道具であって頑丈な鉄製ではないため魔獣に当てれば折れることだろう。

そういえば最近は魔道具を使っているとこらを見た事がないが、使うのを辞めたのか、はたまたそろそろ無詠唱が様になったのか。
余談だが最近になってリアに無詠唱のやり方を教えている。もちろんアリスと同じで基礎魔法から始めたが、なかなかに飲み込みが早い。アリストまでは行かずともそこらの生徒よりは優秀だ。まぁリアならばほんの一、二週間でモノにすることだろう。


「もちろん全授業を使うから解散は現地だ。安心しろ、王都までは私が責任をもって送り届けるからな。それじゃあ行くぞ!」


そして俺達はユルク平原に来ている。自然の風が頬を撫で、草木を撫で、とても心地いい。魔獣が潜んでいるとは到底思えないな。


「私、普通にクルシュ君の転移でこっちに来ればいいと思うんだけど」
「あたしもそれは同感ね」
「悪いがクルシュの魔法では皆に甘えが出てしまうからな。この中には騎士団志望の者もいる、今から甘やかしては私の団の一員にはなれない」


まぁ最もではあるな。王国を守る騎士が鈍っていては示しがつかない。当然ながら転移魔術を使えるのは俺と限られた昔の人物だけなんだが。エリルもその1人ではある。


「言ってたら湧いたね」
「そうみたいだな」


気がつけば生徒達は魔獣と交戦していた。相変わらず頭の痛い詠唱が長々と出てくる出てくる。そしてその中心に彼女達がいた。


「『落陽フォール・サン』!!」
「『紫光の塵槍グロウリア』!!」


握り拳程の小さな太陽が魔獣達を瞬く間に焼き付くし、それでも残った残党に止めとばかりに紫電の槍がいくつも撃ち込まれた。驚いたな、まさかアリスが光の性質変化魔法まで操れるようになっていたとは。


「す、すげぇぞあの二人.........」
「どっちとも見た事ない魔法だわ.........」
「さっすが元A組の美少女ふたりだぜ!」


と、周りからは感嘆の声が上がっている。その中心でアリスとリアは天狗になっているが今のうちに魔獣が来たら直ぐに死ぬだろうな。仮にもここは戦場だ、油断をすれば死ぬのが道理なのだから。


「僕達の出る幕は無さそうだね」
「もう少し危機管理能力を付けてもらいたいところだがな」
「アハハ、違いないね」


肩を竦める俺達に走ってくる人影が1人。その後ろには大量の魔獣反応があった。............あの姿は、まさかグレイか?


「な、なんだよこいつらぁぁぁぁぁぁ!?」


そう叫びながら必死に走っている。なんとも滑稽な姿だが腐ってもクラスメイトだ。助けてやらん訳にも行かないな。


「仕方ない、ここは俺が.............」
「クルシュ、進む方向見て」


静かにそういったエリルに俺はよくそこを見た。グレイはなお走っている。が、しかし。その先にはなんとミナがいたのだ。


「ミナ様逃げてください!!!」
「えっ?グレイさん?..........えっ!?えっ!!?」


全く、何をやっているんだか。グレイは構わないがミナが死んだらそれはまずい。なにせ第一皇女でありレオが守るべき対象だ。それが死んだとなればレオの首が飛びかねない。

グレイがミナとすれ違った後、大量の魔族がミナに押し寄せる。このまま行けばミナは襲われて命を落とすだろう。俺が渋々結界魔術を発動させようとしたその時、ミナの姿が空中へと消えた。


「..........あ、れ?」
「良かった、間に合ったみたいだね」


どうやら俺が結界を張るより先にエリルがミナを抱きかかえて空中へと飛んだらしい。そしてそのままエリルは綺麗に着地した。


「あ、ありがとうございます...........」
「気にしないで。君が安全でよかったよ」


(ミナに対してそう微笑み踵を返す。そしてくるりと反転したエリルは腰に刺した剣を抜いた。そして軽く手を上げる。


「おーいグレイ〜。こっちに来て〜」
「なっ、エリル!よし!そっちだな!?」


相変わらずグレイは人の悪い笑みをしている。全く、助けてもらう分際で何を邪推しているのか。


「ミナさん、少し下がってて。若干危ないから」
「え?は、はい...........」


ミナが1歩下がったのを確認して改めてグレイとの距離を認識したエリルは腰を落とし低い姿勢になる。剣を地面に水平に構えてそのまま静止する。


「第参ノ太刀」


エリルが地面を蹴りグレイとすれ違い魔獣の軍団に突っ込んでいく。そのまま何事も無かったかのように出てきたエリル。そして次の瞬間、ポトリと一匹残らず全ての魔獣の首が落ちた。


「――『辻斬り』」


血振りをした剣を鞘に収めて何事も無かったかのように俺のところへと帰ってきた。


「おいなんだよさっきの...........」
「もうエリルくんカッコよすぎぃー!!!」
「1発よね!1発!!さすがよねぇぇぇぇぇ!!!」


エリルに飛んできたのは男子勢からの唖然とした言葉と女子勢からの黄色い声であった。


「やれやれ、魔法を使う余裕もなかったよ」
「素が出たの間違いだろうお前は」
「あ、バレた?」


イタズラ気味に微笑むエリルを無視してグレイを見ると膝に手を当て方で息をしながら地面とにらめっこしている。ミナは唖然としてその場に座り込んでいる。


「大丈夫?立てるかな?」
「あ、はい、大丈............きゃっ」
「っと!」


倒れかけたミナをエリルはゆっくりとキャッチした。それで何かを察したようにミナを抱き抱える形に変わる。


「え、ちょ、え、エリルさん!?」
「腰が抜けたのかな?フフ」


エリルは微笑みかけているがミナは顔を真っ赤にして俯いている。ふむ、なんともリアみたいな反応をするんだな。この行動がなんなのかよく分からんが。するとレオが駆け寄ってくる。


「大丈夫か?ミナ」
「あ、先生..........」
「レオさん、彼女をあそこの岩場まで連れていくからグレイの方を心配してあげて」
「そうか、君が言うなら大丈夫だな。分かった」


そう頷いてグレイの方へと駆け寄った。様子を見て背中をさするレオと反対側の方向にある背もたれにできるほどの大岩にエリルは向かっていた。


「さっきのエリル君凄かったわね」
「エリルにしてみればあんなものなんてことないだろうな」
「私ももっと頑張らないとね」


何が動力源かは知らないがアリスは燃えているようだ。しかし次の瞬間、その戦意さえも削がんとする自体が起こったのだった。




ちゃっかり王子様的行動を忘れないエリル君である

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