能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.45 エピローグ〜魔術師達の宴〜

あの後、事後処理として目が覚めたレオが騎士団に通報、帝国軍は騎士団達に捕縛された。その際には帝国軍のヤツらにはリアたちに関する記憶の一切を抹消しておいた。Aクラス担任であったエルスは行方不明として扱われ新しい担任を立てるらしい。そして今はその日の夜、今日は宴らしい。


「ん、んう..........うん?」
「起きたか」
「あ、あれ、クルシュ......?ここは.........」
「俺の家だ。全く、知らないうちに寝てしまうからどうしようもなかったんだぞ?」
「ご、ごめんなさい............。あ、あの、私変な夢見たんだけど.............」
「夢?ちなみにお前はどこから意識が無い?」
「エリルがお母さんを連れていったのは覚えてるけど............そこからね」
「あぁ、なるほどな............」
「そ、その、なんか私変になってたり...........した?」


変、と言うよりはテンションがおかしかったな。この事は黙っておくべきか?


「どんな夢を見た?」
「え!?、そ、それは...........」
「奴隷になるとか言ってたか?」
「え?」
「やたらと俺にひっついて来たりしていたか?」
「え?え?」
「さらっと自分で俺の奴隷になるとか言って契約の調印を俺に強引に押させようとしてたか?」
「え?な、なんで私の夢と知って..............」


リアはハッとした表情で口を両手で抑えた。それが自分の夢であるとさっき言ってしまったからな。察しのいいリアならもう気づいているだろう、何故俺がこんなに事細かく知っているのかも。


「ま、まさか...........」
「そのまさかだ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!」


顔が真っ赤になって咄嗟にリアは顔を手で覆いかぶせた。次の瞬間、リアは声にならない叫び声を上げた。


「クルシュ〜起きた〜?。あ、起きてる起きてる。なんかあったの?これ」
「いや、お前が去ったあとのことを色々と思い出している途中だ」
「そっか〜、ご飯もうすぐできるってさ。じゃあ後で呼びに来るからお二人はごゆっくり〜」


エリルはまるで気を利かせたようにひらひらと手を振りながらにこりと微笑み扉を閉めた。ふむ、いまいちよく分からないが。


「け、契約内容ってどんなの........?」
「『リア・ニルヴァーナはクルシュ・ヴォルフォードを主として忠実なる奴隷となる。もし言いつけを破った場合は主によるあらゆるお仕置きを許可するものとする』だな。大分ざっくりとしているみたいだ」
「き、聞かなきゃよかったわ............」


再びリアは頭を抱えてふるふると震える。ふむ、1番の被害者は俺だろう、どう考えても。


「け。契約の方はいいわ!元々そう言う話だったし!で、でもあの夢は忘れて!」
「夢と言うと...........」
「それ以上はダメ!!」


ふむ、案外これでからかうのも悪くは無いかもしれないな。

下に降りた俺とリアを待っていたのは様々な料理の匂い。厨房に立つのはレオと、朱色の長い髪の女性、セレスだった。


「え?、お母さん!?」
「あらリア。随分と遅い起床じゃないの。もう夜よ?」
「な、なんで!?病気は!?」
「お母さん何だか調子がいいの。中に溜まってた何かがすっかり抜けたみたいにね」
「クルシュ、ちゃんと海鮮クリームパスタも用意しているからな」
「ああ、すまない。ありがとう」
「クルシュ君もリアも早く椅子につきなさいよ〜」


着席を促され俺も椅子に座る。俺の横にリア、その横にセレス、対面にエリル、アリス、レオと座った。


「今日はクルシュが大活躍だったからな。だが危険なことはあまりするもんじゃないぞ?」
「ああ、分かっている。それならエリルもだろう?」
「はーい、気をつけまーす」
「フフフ、レオさんの所は楽しそうね」
「いえいえ、私もこうやって大勢で食事するのは久しぶりでしてね。ここは私とアリスの父親と共に買った家でして。クルシュとアリスとエリルのためのものなんですよ」
「そうなんですか?偉いわね、3人とも」
「まぁ、とりあえず乾杯でもするか」
「クルシュ、乾杯ならやっぱこれでしょ」


そうやってクイッと皿を口に運ぶ仕草をする。ちょうど俺もそれを思っていたところだ。収納魔法から昔の時代の酒を出す。


「あー、狼酒だ!久しぶりだなぁ〜これ!」
「マテリア合酒もあるぞ」
「じゃあ僕は狼酒で〜」
「俺はマテリア合酒からにするか」


と、淡々と話を進める俺達の横の4人は唖然としていた。


「クルシュ...........どこで酒を手に入れた?」
「まぁちょっとあってな。ほら、さっさと選んでくれ」
「クルシュ君、エリル君、一般的には15歳からなのよ?」
「知らん。法などでどうにか出来る俺達ではないからな」
「...........騎士団長としてこれは問題なのだが..................ええい!絶対に今日のことは皆他言無用だぞ!?絶対だぞっ!?」


必死にそう言いながら酒をついだレオ。やっぱり弟達には甘いらしい。セレスは水、アリスはマテリア合酒でリアは炎酒を選んだ。全員がグラスに酒を入れたところでそれを掲げる。


「「乾杯!!」」


それぞれが料理を食べながら楽しむ。ふむ、なかなかこういうのは昔にはなかったからな。新鮮だ。


「レオさん、そういえば校舎とか学園とかかなり破壊されちゃったけど明日からどうなるの?」
「とりあえず休学するしかないだろうな。このままではちゃんとした授業もままならん」
「休みか〜何しようかなぁ?」
「特にやることは無いな。まぁそれは追々考えればいいだろう」


と、先程からリアが黙っている。横を見ると、無言で酒を飲んでいた。


「リアは休みだが何をするんだ?」
「へっ?なんれふか?ご主人様?」
「は?」
「ありゃりゃ、かなり酔ってるねぇ」


炎酒の度数は確か.............ああそうだ、95だ。俺でも確かに少しは酔うがリアは酷すぎる。つまりはリアは酒に対する耐性が全く無いということか。

リアは立ち上がり酒を片手に口を開いた。


「はりめまひて!ご主人様の忠実にゃる奴隷れふ!」
「り、リア!?ど、どうしちゃったの!?」
「どうもしてにゃいれふ!あたしはあたしれふ!」


その後散々騒いだリアが1番に眠り、酔いつぶれたレオも眠った。


「レオさんも寝ちゃったわね」
「やっと静かになるね」
「ごめんなさいねぇ、リアがまさかこんなになるとは思わなかったから〜」
「アリスは酔いはどうだ?」
「多少はね。でもそんな暴走する程じゃないわ」


軽い笑顔を浮かべながらもその手に持っているのは炎酒だ。ニコニコと笑いながら瓶を口飲みで体内に放り込んでいる。


「アリスさん..........」
「だから〜酔ってないってば〜」
「何も言わない方がいい。このタイプは最後まで自覚しないやつだからな」
「何言ってるのよ、酔ってないってば。ちょっと夜風に当たってくるわ」


アリスが立ち上がってドアの方に向かう。しかしその千鳥足では当然歩くのが難しく、ドアに着いたところで頭をぶつける。頭を抑えながらその場にしゃがみこんだ。


「何よこのドア!生意気ね!」


何も喋らないドアに向かってひたすらアリスは話しかけている。全く、ドアノブを回せば開くだろうに。


「クルシュ君!ドアさんが開けてくれないわ!」
「そうだな、じゃあドアさんのノブと仲直りの握手をしてみればどうだ?」


とアリスがドアノブに手を回すと自動的にドアが開く。するとアリスは勢いよく地面に激突した。


「うぅ...........握手しようとしたらドアさんが投げ飛ばしてきたわ............」
「乱暴だな、後で叱っておくとしよう。お前は庭でゆっくりしてろ」
「は〜い」


そのままフラフラと庭に向かった。途中でまた大きな音が聞こえてきたが無視しておこう。


「やれやれ、ダメだね人間は」
「お前の酒の度数は確か125だったか」
「うん。飲み慣れてるからなんともないよ」


先程までの俺たちのやり取りを聞いていたセレスがくすくすと笑い出した。


「ウフフ、面白いことを言うのね、2人とも」
「あ、いや〜あの〜これは............」
「いいわ。最初から変わったふたりだな、って思ってたもの。今更こんなこと気にしないわ。せっかくだし私が片付けやっておくから、貴方達は休んでて?」
「すまないな、招待した側なんだが」
「いいのいいの。私も体を動かしたいわ」


ふむ、別に聞かれたことを隠すつもりは無かったのだがな。まぁ別にいいだろう。やはり母親と言うべきか、王妃の面影はどこにもないな。片付けの手際も慣れているように見える。


「やはり最初は苦労したか?慣れない事は」
「ええ。周りの人達に任せっきりだったから大変だったわね。でも今はもうお手の物よ」
「そういえばセレスさん王妃なんだよね。どんな国だったの?」


そうエリルが聞けば、しばらく考えるように手を動かしながら黙ったセレスは、喋り始める。


「そうね、まずとても活気で溢れていたわ。リンドハイムに負けないくらいはあったわ」
「へぇ〜楽しそうだね」
「後は果物が美味しかったわ。とっても甘い果実があってね、毎日食べてたのは懐かしいわ」
「なんて果実だ?」
「リキュウゲンって真っ白い果物よ」
「ふむ、なるほどな」


それならば本で見たことがある、おそらく作れるはずだ。試しに創造魔術で言われた通りに思い浮かべると、ごろりと真っ白く丸い物が机を転がった。


「これか?」
「あ、それよそれ!すごいわね見ただけで作れるなんて」
「前に本でも見た事があったからな。宴会のあとはこれでも食べるとしよう」
「と言うと思って既に用意しといたよ」


いつの間にかエリルが風魔術で皿を机に移動させ、果物を切っていた。種も綺麗にくり抜かれ白い果実が並ぶ。そこに片付けを終えたセレスが再び座った。


「やっぱり甘いわ!久しぶりね本当に」
「うん、たしかに甘いね」
「そうだな」


味としては一般的な果物とさして変わらないが、驚くべきは糖度だ。俺の舌で測ったが22くらいはありそうだな。みずみずしく、噛んだ瞬間にじゅわりと果汁が口の中に溢れる。果物はあっという間になくなり、再び洗い物をセレスが終えた。


「じゃあそろそろお開きね」
「うーん、今から帰るってなると危ないよね。泊まっていきなよ」
「そんな悪いわ。ご飯まで頂いて」
「リアも寝てしまっているからな、後の祭りだろう」
「そう?じゃあお世話になろうかしら」


エリルがセレスを2階へと案内し、俺がリアを抱きかかえて移動させた。
戻ってきたアリスは机に座るなり腕を枕にして寝始め、寝ぼけたレオがそのまままたソファで目を閉じた。
そして最後は俺とエリルも就寝して宴会を終えた。




今回はほのぼの回(?)的なものを作ったんですけどね。どうでしょうか?
この世界では10歳でも目をつむられていますがちゃんとお酒は20歳になってからですよ!
そして次回から2章ということになります。お楽しみに!

コメント

  • ヴェールヌイ

    れふっ娘だと…お主もわかってるの〜

    0
  • MURの可愛さを布教し隊

    ドアのくだりはどこかで見た気が…
    というか、全体的に似てる?

    2
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