能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜
EP.39 魔術師は承知する
部屋に戻るとセレスはまた外を眺めていたようだ。首をこちらに向けてくる。
「リアは帰っちゃったのかしら?」
「ああ。やることがあるらしくてな。よろしく頼むと言われた」
「そうなのね..........」
セレスには黙っていた方がいいだろう。自分の娘が悪行を成すなど知ったら耐えられないだろうからな。
「少し、いいかしら?」
「俺達がリアの代わりになるならなんでも聞くぞ」
「そうね、じゃあ..........ニルヴァーナ皇国の歴史はご存知?」
ふむ、あれからリアに何度か聞いたからな。大体の歴史は知っている。
「ああ、今は亡き国、帝国建国の前の国だろう?」
「そう。当時私は王妃だったわ。忘れもしないあの日、外部からの進行軍によってニルヴァーナ皇国は戦火で燃えていたの。その進行軍が後の帝国軍よ」
ふむ、国を落とせるだけの兵が急に攻めてきたというわけか。それはどうも対処は出来ないな。
「私の夫、国王は私と数人の配下の人達を逃がすためにその身を犠牲にした。私は必死で逃げたわ、もがき、苦しんで、配下の人達とも散り散りになってようやくたどり着いたのがこのリンドハイム王国。それからなんとか家も職も見つけて、リアが生まれて、楽しくやってたけど、私が病気で倒れちゃって、今はこんな所にいるの」
だいたい聞いた話と同じだな。俺が調べた資料にもそのことは載ってあった。
「悔しくはないのか?夫を殺され、国まで奪われ地に堕落して」
「悔しい、でもどうしようもないもの。あの時の私にはわずかな刻印の力しかなかった。リアに継承させた『黄昏の陽』でさえ私はロクに使うことが出来なかった。それにリアには心配かけさせてばかりで............本当に私はダメな人間よ」
そう言ってセレスは暗い表情を見せる。
まぁ尤もな言い分ではあるがな、それは本人が思っていることであって周りがそうと決めた訳では無い。自分がダメな人間だと完全に決めるのなら周りの同調あってこそだ。だからダメな人間、とは一概に言えない。
「そうでもないと思うな〜」
「........え?」
「だって、セレスさんがいるおかげであのリアさんがあるんだよ?言ってたよ、お母さんが好きだ、って」
「俺も聞いたことはある。まず母親がいないと生きていけるものも生きていくことが出来ない。それに、セレスの病気が少し良くなった時喜んでいただろう?それだけ想っているという事であり、大切にされている証拠だ。ダメな人間だ、と自分を悲観するのはまだ早いと思うぞ」
俺たちの言い分を黙って聞いていたセレスは、俯く。そしてまたゆっくりと顔を上げた。
「........まさか子供達に励まされるなんて思わなかったわ。ありがとう」
「「気にすることは無い(どういたしまして〜)」」
笑ったその表情、そしてそこから真剣な眼差しが俺を捉えた。いや、それはおそらく俺とエリルに向けたものか。
「リアのことを少し話すわね。.........あの子には私達の過去を教えてきた。それが影響したのかあの子は強さを追い求めるようになった」
『弱い奴は大嫌い』
ふと脳裏にそんなリアの言葉が蘇る。確かに弱い奴には興味がなく、強い奴には嬉々として挑む。入学試験での俺との戦いもそうだったな。
「過去を話したのは3歳頃。その次の日からずっと刻印で魔法の練習をしていたわ。皮膚が焼けようとも、魔力が尽きようとも魔法を駆使して、大熱を出したことだってあったわ」
確かに魔法の練度、戦闘スタイルも悪くはなかった。極め付きは禁呪だ。あそこまでの魔力制御はこの時代でもそうそういないだろう。にしてもなるほど、幼少期の死にものぐるいの訓練の賜物というわけか。
「ある日に、どうしてそこまでするの?って聞いたらね、強くなりたいから、強くなって昔の悲劇を起こさせないようにしたいから。って言ってたわ。その時からリアの中でひたすらに強さを追い求める感情が芽生えてたのでしょうね」
「そんな過去があったんだ.........」
「リアは私が倒れる前に言ってたわ。ゼルノワール学園に入学してもっと強くなるって。頼もしい反面、少し悲しかったわ。友達を必要とせずに、毎日毎日外で魔法の練習ばっかり。その賜物なのか『黄昏の陽』をいつしか完璧に使いこなせるようになって、同年代じゃ敵う人はいないってくらい強くなってた」
セレスの顔は楽しげにしながらも、悲しさが見え隠れしている。まるで自分へ懺悔を送るみたいに。だが次の瞬間、とても嬉しそうな表情に変わった。
「だけどそんなリアが完全に負けたっていう人がいた、それがクルシュ君よ。あの時、声が嬉しそうだったのを覚えているわ。淡々と話すリアの声を久しぶりに聞いた気がした。その後も友達ができたって嬉しそうに言ってくるリアに私も嬉しくなってた。やっとリアにも心を許せる人ができたんだ、って。でもそれが、最近になって暗くなり始めた。理由はわからないけど、また過去のリアに戻ったみたいに」
リアが休み始めた頃か?それともその前からか。どっちにしろリアの背後に居る奴が関わってきたからだろう。
「あの子は少々無理をする時があるの。魔法の使いすぎでよく熱を出したりする子だったもの。だから、クルシュ君、エリル君、もし今あの子が無理をしてるなら助けてあげて欲しいの。この通りよ」
そう言って俺達に頭を下げてきた。
「..........クルシュ?」
「リアは俺のクランに入っていてな、俺の友とも上手くやっている。その時の表情は心の底から楽しそうだった。俺も見るのが初めてなくらいな。俺は従者を見捨てるようなクズではない。助けを求めているならば、手を差し伸べるのが主の役目だろう?」
「遠回しに行ってるけど大丈夫だよ、セレスさん。クルシュが今まで零してきたものなんて何一つないから」
「ありがとうね。嬉しいわ、こんなにリアのことを想ってくれる友達が出来て」
「じゃあ僕達そろそろ帰るね。また来るよ、セレスさん」
「ええ。また起きていたら、待ってるわ」
俺達はそのまま退室してそして家に戻った。気がつけば時計の針は既に1時を回っていた。
次回、リアの背後に存在する者が明らかになります。どんな展開になるのかは、まだ作者も知らない。
「リアは帰っちゃったのかしら?」
「ああ。やることがあるらしくてな。よろしく頼むと言われた」
「そうなのね..........」
セレスには黙っていた方がいいだろう。自分の娘が悪行を成すなど知ったら耐えられないだろうからな。
「少し、いいかしら?」
「俺達がリアの代わりになるならなんでも聞くぞ」
「そうね、じゃあ..........ニルヴァーナ皇国の歴史はご存知?」
ふむ、あれからリアに何度か聞いたからな。大体の歴史は知っている。
「ああ、今は亡き国、帝国建国の前の国だろう?」
「そう。当時私は王妃だったわ。忘れもしないあの日、外部からの進行軍によってニルヴァーナ皇国は戦火で燃えていたの。その進行軍が後の帝国軍よ」
ふむ、国を落とせるだけの兵が急に攻めてきたというわけか。それはどうも対処は出来ないな。
「私の夫、国王は私と数人の配下の人達を逃がすためにその身を犠牲にした。私は必死で逃げたわ、もがき、苦しんで、配下の人達とも散り散りになってようやくたどり着いたのがこのリンドハイム王国。それからなんとか家も職も見つけて、リアが生まれて、楽しくやってたけど、私が病気で倒れちゃって、今はこんな所にいるの」
だいたい聞いた話と同じだな。俺が調べた資料にもそのことは載ってあった。
「悔しくはないのか?夫を殺され、国まで奪われ地に堕落して」
「悔しい、でもどうしようもないもの。あの時の私にはわずかな刻印の力しかなかった。リアに継承させた『黄昏の陽』でさえ私はロクに使うことが出来なかった。それにリアには心配かけさせてばかりで............本当に私はダメな人間よ」
そう言ってセレスは暗い表情を見せる。
まぁ尤もな言い分ではあるがな、それは本人が思っていることであって周りがそうと決めた訳では無い。自分がダメな人間だと完全に決めるのなら周りの同調あってこそだ。だからダメな人間、とは一概に言えない。
「そうでもないと思うな〜」
「........え?」
「だって、セレスさんがいるおかげであのリアさんがあるんだよ?言ってたよ、お母さんが好きだ、って」
「俺も聞いたことはある。まず母親がいないと生きていけるものも生きていくことが出来ない。それに、セレスの病気が少し良くなった時喜んでいただろう?それだけ想っているという事であり、大切にされている証拠だ。ダメな人間だ、と自分を悲観するのはまだ早いと思うぞ」
俺たちの言い分を黙って聞いていたセレスは、俯く。そしてまたゆっくりと顔を上げた。
「........まさか子供達に励まされるなんて思わなかったわ。ありがとう」
「「気にすることは無い(どういたしまして〜)」」
笑ったその表情、そしてそこから真剣な眼差しが俺を捉えた。いや、それはおそらく俺とエリルに向けたものか。
「リアのことを少し話すわね。.........あの子には私達の過去を教えてきた。それが影響したのかあの子は強さを追い求めるようになった」
『弱い奴は大嫌い』
ふと脳裏にそんなリアの言葉が蘇る。確かに弱い奴には興味がなく、強い奴には嬉々として挑む。入学試験での俺との戦いもそうだったな。
「過去を話したのは3歳頃。その次の日からずっと刻印で魔法の練習をしていたわ。皮膚が焼けようとも、魔力が尽きようとも魔法を駆使して、大熱を出したことだってあったわ」
確かに魔法の練度、戦闘スタイルも悪くはなかった。極め付きは禁呪だ。あそこまでの魔力制御はこの時代でもそうそういないだろう。にしてもなるほど、幼少期の死にものぐるいの訓練の賜物というわけか。
「ある日に、どうしてそこまでするの?って聞いたらね、強くなりたいから、強くなって昔の悲劇を起こさせないようにしたいから。って言ってたわ。その時からリアの中でひたすらに強さを追い求める感情が芽生えてたのでしょうね」
「そんな過去があったんだ.........」
「リアは私が倒れる前に言ってたわ。ゼルノワール学園に入学してもっと強くなるって。頼もしい反面、少し悲しかったわ。友達を必要とせずに、毎日毎日外で魔法の練習ばっかり。その賜物なのか『黄昏の陽』をいつしか完璧に使いこなせるようになって、同年代じゃ敵う人はいないってくらい強くなってた」
セレスの顔は楽しげにしながらも、悲しさが見え隠れしている。まるで自分へ懺悔を送るみたいに。だが次の瞬間、とても嬉しそうな表情に変わった。
「だけどそんなリアが完全に負けたっていう人がいた、それがクルシュ君よ。あの時、声が嬉しそうだったのを覚えているわ。淡々と話すリアの声を久しぶりに聞いた気がした。その後も友達ができたって嬉しそうに言ってくるリアに私も嬉しくなってた。やっとリアにも心を許せる人ができたんだ、って。でもそれが、最近になって暗くなり始めた。理由はわからないけど、また過去のリアに戻ったみたいに」
リアが休み始めた頃か?それともその前からか。どっちにしろリアの背後に居る奴が関わってきたからだろう。
「あの子は少々無理をする時があるの。魔法の使いすぎでよく熱を出したりする子だったもの。だから、クルシュ君、エリル君、もし今あの子が無理をしてるなら助けてあげて欲しいの。この通りよ」
そう言って俺達に頭を下げてきた。
「..........クルシュ?」
「リアは俺のクランに入っていてな、俺の友とも上手くやっている。その時の表情は心の底から楽しそうだった。俺も見るのが初めてなくらいな。俺は従者を見捨てるようなクズではない。助けを求めているならば、手を差し伸べるのが主の役目だろう?」
「遠回しに行ってるけど大丈夫だよ、セレスさん。クルシュが今まで零してきたものなんて何一つないから」
「ありがとうね。嬉しいわ、こんなにリアのことを想ってくれる友達が出来て」
「じゃあ僕達そろそろ帰るね。また来るよ、セレスさん」
「ええ。また起きていたら、待ってるわ」
俺達はそのまま退室してそして家に戻った。気がつけば時計の針は既に1時を回っていた。
次回、リアの背後に存在する者が明らかになります。どんな展開になるのかは、まだ作者も知らない。
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