能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.24 魔術師は制服に落胆する

そしてまた翌日、今朝はベットに珍しく1人で寝かされていた。アリスも、レオもどこかに行ってしまったようだ。


「おはよう〜クルシュ君〜」
「おはようございます。姉とアリスは?」
「朝から出かけてたわね。学園へ何か取りに行くって言ってたわ〜」


ふむ、なるほど。忘れ物でもしたのか?いや、今どうでもいいな。入学まではあと六日ある、さすがにそんなに早く制服が届くわけもなかろう。


「そうですか、では朝刊と珈琲をお願いします」
「はいはい〜待っててね〜」


さて、暇だな。思えばこの2年間で本格的に暇なのは今日くらいかもしれない。いつも魔導書を読んでいたり外で運動していたり、アリスの魔法に手を焼いていたりしたからな。

俺はテーブルに置かれた淹れたての珈琲を口に運びながら片手で朝刊を広げて記事を見る。特に変わったことは無いようだ。


「ねぇ、クルシュ君」
「なんですか?」
「あなた、まだ10歳の割に思考が大人びてるわよね?本当にレオさんの弟君なの?」
「よく言われますよ。でも俺と姉は真に兄弟ですので」


もちろんこんなもの嘘だ。俺は2年前にレオの命を助けた礼として衣食住の世話をしてもらっているだけに過ぎない。..........はずだったが最近はレオが本当に血の繋がっている弟のように接してくる。


「そう〜?ごめんね〜野暮だったわね〜」
「いつもの事ですので」


と、話しているうちに玄関鈴が鳴り、カランカランと音を立ててドアが開けられた。そこには、腕にビニールで包まれた何かを提げているレオとその後ろにアリスが続いていた。


「おはよう、クルシュ。起きていたんだな」
「ああ、さっき起きた。ところでどこに?」
「これ!クルシュ君!見てよ!」


と言って俺に向けて見せられたのは、ビニール袋に丁寧に収納された学園服。黒と赤を基調としたブレザーとチェック柄のスカートだった。男子の方はスカートが灰色のズボンになっている。まさか本当に制服を取りに行っていたとはな。


「ほら、これがクルシュの分だ」
「すまない。..........と言うよりこれが制服なのか」
「由緒正しき100年の歴史がある制服だ」


そんな低度の歴史なのか、1000年ならばまだ及第点なのに。俺が昔通った学園は1億年続いていたぞ。


「サイズはMで良かったか?」
「問題ない」
「ちょっと着替えてくるわ!」


そう言ってアリスは階段を駆け上がって行ってしまった。やれやれ、全く、好奇心旺盛で何よりと言いたいところだが、新品に袖を通すのはやはりそれらしい場所でだろう。

まぁ布地は動きやすさと通気性を重視しているからまだいいとしよう、問題はこれにかけられている付与魔法だ。《耐熱性》と《消臭》か、低度すぎる。こんなもので生徒の安全が守れるわけがないだろう。こんな薄っぺらい物を俺に着せるなど喧嘩を売っているのか、後で付与し直しておかなくてはな。


「できた!」
「うむ、私も学生の頃を思い出すな..........」


階段から降りてきたアリスがその場でぐるりと回る。とても着こなしが上手く、年相応に向かない胸がブレザーのボタンを閉めることによって強調されている。


「どう?、どう?、クルシュ君」
「いいんじゃないか?。似合ってるぞ」
「あ、そ、そう........?ありがと」


褒めてほしそうだったから褒めただけなのだがな、なんだその反応は。まぁいい、どうせ俺も着ろと言われるだろう、その前に付与魔法の掛け直しをしなくてはならない。


「じゃあクルシュも.........」
「後でな、少しやることがある。2人はここで待っててくれ」
「え?、クルシュ君何やるの?」
「来るか?どうせの縁だ」
「うん!」


これでも同年代ならばアリスは周りの注目を集める程には美貌を持っている。別に俺がアリスに好意を抱く訳では無いが、アリスの服には今まで何度も付与をしてきたことがある。もちろん発端は俺が部屋で付与魔術をしていた時に急に入室してきたためバレたのだが。

今回も付与するのだが、どうせ後でこいつも俺に頼みにくる。ならば最初からしてしまった方があとがうるさくなくていい、という事だ。


「ねぇクルシュ君、何するの?」
「付与魔法だ。この制服の付与が薄っぺらすぎるからな」
「クルシュ君よくそんなの見えるわね」
「簡単だろ?解析魔法を使って...........って、そういえばこの魔法はお前達には使えないんだったな」
「本当に星宝の刻印って凄いのね」


呆れたようにベッドに腰かけるアリスを背に俺はテーブルに制服を並べる。まずは逆証魔術により魔法の付与を破壊する。次に付与魔術を使って自分の付与させたいものを描く、それだけだ。

《熱無効》、《絶対防御》、《衝撃反射》、《魔法反射》、《全消臭》、まぁこんなものでいいか。あとはこれを入力ベットして..............完成だ。


「終わった」
「出来たの!?見せて!」
「お前それは..............」


あまり触らない方がいい、と言おうとしたが無駄だったみたいだ。服を取った瞬間にアリスが一回転して頭から落ちた。..........何故かデジャヴを感じたが気のせいだろう。


「痛〜!!」
「好奇心猫を殺す、覚えておけ」
「うっさい!!」


後頭部を押さえながら目端に涙を貯めてこちらを睨んでくるアリスを他所にブレザーだけ試着してみる。鏡面魔術で自分の姿を見てみるが、ふむ、やはり見た目は幼い俺だ。何度見てもそう思う、と言うよりそうしか思うことがない。別段かっこいいとも不細工だとも思わない。

ちなみに先程の付与魔術、おそらくこの世界の魔導師ならば1つで10分かかる所だが、俺は上記5つを1分で仕上げられる。全く、本当にこの世界が低能なのはどうにかしてほしい問題のひとつだ。


「痛.........まだ痛むわ.............」
「あれはお前が悪いからな。自業自得だ」
「で、何付与したの?」


解析魔術を鏡面魔術に投写してそれをアリスに回す。するとアリスは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたまま動かなくなった。


「な、なにこれ..........」
「とりあえずいきなり斬りかかれでもしたら大変だからな、あといきなり魔法を打たれても面倒だ」
「そんな物騒なやつどこにもいないわよ!!........って言うかこんな付与、国宝級じゃない!!」
「........は?」


国宝級だと?これが?この程度の付与が?おいおい、いくら魔法のレベルが低いとか1つの付与に10分弱かかるとはいえこれが国宝級だって?笑わせてくれるじゃないかアリス、そんな冗談も言えるようになったんだな。


「笑い事じゃないってば!!」
「じゃあ、お前が前まで着ていた服も国宝級の性能を持っていることなるが?」
「え?そ、そんなわけ.........」
「そんなわけあるぞ。少なくともお前の服に《絶対防御》、《物理、魔法反射》の付与がついていないやつは無いな」
「そ、そうなの.......?」


何を今更。確かに少し固くしただけとは昔言ったがな、やはり全部伝えるべきだったか?


「まぁいつもならお前の服もついでにやるんだが?」
「ど、どうしよう.........」
「別に俺はいいぞ?お前が低度の付与魔法の制服で襲われて酷い目にあっても」
「そ、それは嫌よ!、いつもみたにお願い!クルシュ君!!」


そんなに大事か?.......まぁ大事だな。でもアリスくらいなら襲われたとしても1人で撃退しそうではあるがな?


「人に頼む時はどうするんだった?教わっただろ」
「お、お願い.......します.........」
「そうか、じゃあ脱いでくれ」
「わ、分かった............って、ええ!?」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品