能無し刻印使いの最強魔術〜とある魔術師は来世の世界を哀れみ生きる〜

大島 こうのすけ

EP.5 魔術師は生活してみる

あの後、痛々しい詠唱を永遠と聞きながらレオが薪に変えた物を集め続け、そして家に帰って来た。


「いやー、今日は少し頑張りすぎたな〜!」
「勘弁しろ。これかなり重いんだぞ?」


嘘だ。薪が地面に落ちた時、集めるためバレないように風魔術を使っていたら感覚が戻ったらしく、星宝魔術のうちの一つ、重力魔術で薪の重さをゼロにしている。


「まぁそう言うな。クルシュの年頃は鍛錬も必要だぞ?」
「余計なお世話だ」


薪を外に置いて再び2階の書斎に向かう。午前中の2時間は魔導書ばかり呼んでいたがここには歴史などの本も沢山ある。ここの知識を少し身につけておくのも自分のためだろう。............それにしても、やはり窓がひとつというのは暑い。今は仮にも夏だ、換気するだけでは熱中症になってしまう。窓を締切り、ドアも閉めた。これからとある魔術を使う。


『凍結魔術、急速展開』
『範囲、部屋全体』
『威力、低度』
急冷凍フリージア起動』


一瞬にして冷気が発生し、いい感じに部屋全体を冷やす。
俺が今使ったのは星宝魔術のうちの一つ、改造魔術で作り上げた俺だけの魔術、凍結魔術だ。何となく気分で作ったものがこんな所で役に立つとは思わなかった。さて、涼しい環境で読書をするとしよう。



そこから4時間、本を読み漁った。歴史などは大方把握したがやはり魔法理論などは見ていられなかった。最も、読み続けていると俺の精神が持たない。


「クルシュ、夕飯の時間だ!」
「さて、行くとするか」


本を元に戻し1階に降りると既に用意されていた。夜はシチューとパンらしい。やはり口に運ぶと美味かった。


「レオの料理は本当に美味いな」
「それを聞くのは2度目だぞ」
「それほどの出来だということだ」


それから風呂の時間になり、俺が先に入った。浴槽は木で作られており腐敗などが一切していないことから、よく気が使われていると感心した。

暖炉の前で涼しい格好をして頭を拭いていると、タオルを両肩にかけて裸でレオが上がってきた。


「今日もいい湯だった」
「そうか、それは何よりだ。...........で、レオ。見ず知らずの少年の前で無闇に裸を晒す性癖があるのか?」
「君に裸を晒したところで別に失うものは無い。なんならもっと見てもいいんだぞ?」
「.........さっさと服を着ろ」


俺が言いたかったことは少し違うのだが、煽ってくるなら無視が一番だ。 体は子供でも意識と思考回路は大人だ、ここで襲って、焦る姿を見てもよかったが、さすがに初日にしてそれをやるのはどこかお門違いだ。

就寝時間になった。結果的に言うと俺はレオと同じベッドで寝ることとなってしまった。ソファで寝ると何度も言ったのだが、最終的に強引に引っ張られて連れて行かれてしまった。俺は非力なのだ、何せ子供なのだから。



翌朝、起きてみるともう既にレオの姿はなかった。レオが俺を抱き枕にして胸部に包まれていたため寝ることが出来なくなり寝不足だ。欠伸をしながら一階に下りると「仕事に行ってくる。朝食、昼食は作り置きしてあるからそれを食べるといい」という書き置きとともにパンとコーンポタージュと牛乳が置いてあった。

レオの仕事はなんなのだろうか、帰ってきたら聞いてみるとしよう。
俺はコーンポータージュを口に運びながらパンを食べる。うん、美味い。

俺はその後昼までやはり書斎にひきこもり本を読んでいた。その後昼食を炎魔術で適量に温め食べた。

しかし本ばかりでは面白くない、少し運動するとしよう。


「............さて、いきなりだな」
「グォォォォォォ!!」


軽く運動しようと森に入ったら昨日レオを追い込んでいた熊型の魔獣と出会った。どこかの童謡でこんな状況に似た歌詞を聞いたことがあるがそんな呑気なことも言っていられない。ある日、森の中、熊(魔獣)に、出会った、だな。


「グォォ!」
「見え見えだ」


振り上げた巨腕に合わせて星宝魔術の一つである製造魔術を起動して鉄の剣を作り出す。今回はそれだけじゃない、同時に発動させていた製法魔術の一つである付与魔術で《属性付与 : 風》を剣に付与している。

魔力を流し魔獣が振り下ろすのに合わせて剣を無造作に振ると、剣から出現した風の刃が熊型の魔獣の腕を切り落とした。


「ギャア!?」
「これで終わりだ」


動揺している魔獣の首を一閃、勢いが余り過ぎて後ろにあった丸太数本も風の刃で一緒に倒してしまった。

やれやれ、少し運動しようと思っただけなのだがな。まぁいい、今日は熊鍋だ。

とりあえず魔獣を丁寧に解体して、凍結魔術で凍らせ家に持ち帰った。ちなみに剣は消去魔法で消しておいた。これも星宝魔術の1つだ。

どうやら俺は思ったよりも森の奥深くに入っていたらしく、家に着く頃には既にレオが帰ってきていた。


「おかえり、クルシュ。まさか私の方が先に家にいるなんてな」
「ただいま、少し運動をしてきたからな」
「ところで、その肉は?」
「これか?これは運動の途中で邪魔してきた魔獣の肉だ。今日は熊鍋にしよう」


なんだ?その表情は。まるで俺が信じられない、みたいな表情じゃないか。


「クルシュ、森に行ったのか?」
「ああ、軽く運動するつもりで入ったら奥深くまで行っていたらしくてな、ちょうどそこにいた魔獣を狩った」
「.............いや、まぁお前の強さなら言うことは無いんだが、一応言っておこう。クルシュ、森は危険なんだ、魔獣がいくらでも住み着いているからな」
「そうか、まぁ肝に銘じておこう。でだ、レオ。今日は熊鍋で頼む」
「いいぞ、肉を寄越してくれ、できるまでは自由だ」


俺は椅子に腰掛け料理ができる間届いていた夕刊を見ることにした。情報収集は大切だからな。


「ところでレオ、仕事は朝早いみたいだが何をしているんだ?」
「突然だが、クルシュはリンドハイム王国は知っているか?」
「ああ、確か人族最大の王都らしいな」
「そうだ。私はそこで騎士をやっている」


クルシュが料理をしながら答えた。

へぇ、なるほどな。どうりで筋肉が引き締まっていると思ったら騎士をやっていたのか。

話によると、リンドハイム王国はここから西方の位置にあるらしく、毎日朝早くに出て王都へ向かっているのだとか。


「不便じゃないか?なんでここから仕事へ行くんだ?」
「私は都会より田舎の方が好きでな、自然豊かなここを選んだのだ。別に後悔も不便だとも思ってないぞ、自分から望んでここにいるのだからな」
「そうか」


短くそう言って再び視線を新聞に落とす。と、どうやらレオの方は既に料理が出来上がっていたらしく、机にそれを運んで俺の対面で頬杖をついてニコニコと俺を見つめていた。


「.........なにか俺の顔についているか?」
「いや、私がここにいたい理由がもうひとつ出来た」
「出来た?」
「ああ。クルシュ、君がいる。君がここに居るから、私はここに居たい。君がいるから私は移住なんてしない」
「............そうか」


少し気恥ずかしくなって新聞で鼻先から下を覆い隠すようにした。相変わらずレオはニコニコと俺を見ている。全く、あざとい女だ、本当に。

と、俺の目に朝刊には載っていなかった記事が飛び込んできた。

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