フェイト・マグナリア~乙ゲー世界に悪役転生しました。……男なのに~

神依政樹

変化する日常

春が終わり、季節は暑い日差しと時折爽やかな風が吹く初夏となり、気がつけばお兄様との一件から一月ほど経った。


今ではお兄様と一緒に朝練で剣を合わせるのが日課になったよ!


……なんせ、勝者の権利での命令が朝練に付き合うことだったからな。


組技を教えろと言うので、それも教えたりしてる。これ以上お兄様に強くなられると困るんだけど……まぁ、なんかお兄様と仲良くなれたから良いか。最近は一緒に昼飯を食べたりするようになったしね。


お兄様との付き合いで朝の時間は消えるので、勉強の合間に走り込みなどの基本的な訓練と、前世で使っていた技を今世でも同じレベルで使えるように訓練して、それをこの世界に相応しいように改良している。


体が違う以上、動かし方も違うので、無意識で技や行動を取れるように反復練習して、細胞の一つ一つに染み込ませないと、実戦では使えない。


それにこの世界は魔力に寄る影響なのか、身体能力の上限が前世に比べてかなり高い。鍛え上げれば、超人のような動きが出来るだろう。今、このときでさえ子供という枠からは逸脱してるしな。


ま、何にしても基礎と積み重ねが大事になるんですが。


そして、皆が寝静まった夜は各属性魔法の訓練だ。


土属性は壁を作り上げたり、鉱物などを生成出来るのだけど、俺はゴーレムと武器錬成に重点を置いて訓練してる。


ゴーレムは粘土を捏ねるように作るのではなく、パーツ一つ一つを生成してそれを組み立てるように作り上げているので、戦わせる分には人と変わらない滑らかで素早い動きが出来るが……同時に作るだけなら十体が限界で、複雑な動きをさせるには四体が限界だろう。


数を増やすのはこれ以上いくら頑張っても、多分無理だ。動かすのに脳の処理が追い付かない。


まぁ、ゴーレムの性能を上げることは出来るから……要研究かな。特化型、万能型の大きく二つのタイプに分けることになるかな。


……前世で好きだったネット小説の主人公のように千体のゴーレムを自在に操れれば……と思うが、そんなチート能力は無理だった。


次に武器錬成は刀剣や槍とかを十本くらいなら、瞬時に錬成して掃射とか出来るようになった。が……今のところ一番強い材質はたまに振っていた刀をイメージして玉鋼だけ何とか再現してるのが限界ぽい。


さすがに合金の比率何か知らないし、質も数も赤い外套の正義の味方のように無限に……とは行かなかった。残念……。


後はある程度は地質を作り替えることも出来るようなので、美味しい野菜や果物の作る為に中庭の土を弄って時折研究してる。


風属性は空気を圧縮した射ち出したり、刃を作って切断したり、身に纏って体を軽くしたり、武術に組み込むことを考えて色々試してる。それと雷も風に含まれるのか、雷も使える。まだ、巧く威力を調整できないけど、訓練すれば神経伝達速度を上げたり出来るだろう。それに料理にも使えるので一番便利かもしれない。


水属性はウォータースラッシュや、水弾にして打ち出したり、風と同じく武術に組み込んで活水術のようなのを開発してる。それと風と水の複合魔法で氷も操れる。これもお菓子作りに重宝する。


そして、最後に闇属性の能力は厄介だった。エドガー師匠の記述によると、どういう原理なのか、ある程度負の感情を操作したり、記憶を改竄したりと出来るのだが実験したくとも、さすがに実験出来ない。


……あの時、お兄様に使う羽目にならなくて本当に良かった。


後は影に実体を持たせて操ったり、当たった対象を消すミニブラックホールとかも作れるそうだ。たぶん、重力操作とかも出来そうである。……ただ、この世界は闇魔法に忌避感を持つ人が多いらしいので。見られたら終わりなので使えない。


なので今のところはイメージトレーニングで留めている。


それと……今とあの時のお兄様の行動に違和感を感じたので聞いてみたのだけど、


「言い訳にしかならんが……正直に言ってディアナ嬢の事は好いてもいなかったが、嫌ってもいなかった……のだがな。あの時はなぜか、ディアナ嬢に対して強烈な負の感情が沸き上がってな」


そう言うので心当りを聞いたら、ディアナがクッキーを渡した日の記憶がなく、訓練所で気が付くと寝ていたらしい。なので、「疲れが溜まっていて、八つ当たりしてしまったようだ」とか言ってたけど……どう考えても怪しい。


クッキーを渡された記憶もないって言うし、考えすぎなのかもしれないけど、何かしらの干渉があったと考えた方が良いだろう。


問題はどんな存在が、どんな目的を持ってそんなことをしたのか。人ではない存在か、はたまたディアナとお兄様が結婚することを邪魔したい人間か……。


どっちにしろ……闇魔法は切り札の一つになるかもな。記憶を操作出来るなら守ることも出来るはずだ。人にしろ、運命とかにしろ、対応策に闇魔法を鍛えておいた方が良いだろうな。やっぱり。


それと闇魔法以外の能力上げはそれなりに順調なものの……金稼ぎの方はまだ着手出来ていなかった。


俺一人で出来る試作や実験は終わったし、エミリアに頼んで市場調査も終わった。


一部の農村で輪作の一部として甜菜ビートみたいな野菜を作っているらしく、魔法を利用して、粉砕、圧縮、魔法で不純物取り除き、煮詰めたら、砂糖を作り上げることも出来たし、バニラビーンズなどの代用品も見つけてある。


そして、前々から目をつけていた才能溢れるムラクモ連合出身の見習いコック、ソーマにも寡黙な料理長の許可をもらい、色々教えているので後は行動に移すだけ……と思っていた馬鹿な時期が俺にもありました。


問題が色々あるのだ。やりたい事の対して、動かせる人間が圧倒的に足りないのだ。


最初細々と飲食業でもしようと考えていたけど……財『力』と言える程の物を築こうと考えると、裕福層向けに商業用農作物の生産に、様々な形態の飲食業の創造。食品衛生管理の問題、それらを広めるための広報、砂糖の販売や、実験が上手く行き、カカオなどを作れるようになった場合には砂糖やカカオ、コーヒーなど南諸島連合からの交易輸入品を牛耳り膨大な富を築いている四公爵が一人、ラーガイ公爵と商人達との軋轢を避けるための交渉などもしないといけないだろう。


何から何まで全て俺には足りなかった。何が厄介って、権力らしい権力もないのに、城下にも気軽に行けない妾腹の第二王子とか言う中途半端な地位が悪い。田舎の男爵とかなら、仲良くなった同年代の子供達に色々教えて手伝ってもらうんだけどね。


……色々な面を考えると一番はリグ公爵に協力して貰う事だよな。たぶん……ある程度なら聞いてくれるし、協力してくれるだろう。


でも、だからこそ頼りたくないんだよな。


……だって、ディアナと友達でいるのが打算目的みたいになるじゃん。いや、ディアナを愛でると言う打算はあるけどさ……。


それと……お兄様の話によれば、つい最近新しい王に代わったばかりの北にある隣国エルムガンド帝国が、軍事増強に動いてるらしい。


確か……帝国とは元々小競り合いから戦争まで争いの絶えない関係だったけど、前皇帝の時代に不可侵条約が結ばれたんだっけ?


それと朧気な記憶に寄ると、婚約破棄されたディアナが嫁いで、酷い目に合う国のはずなんだよな。


……我ながら『はず』が多いが実際にフェイトマグナリアをプレイした訳じゃないから困る。ここがゲームと全く同じ世界なのか、ゲームに似てるだけの世界なのか判断がつきにくい。


俺一人が考えても仕方ないかもしれないけど、新帝に変わってすぐに軍事増強に動いているなら、帝国が侵略して来ることも考えて、対抗策を考えて置かないとな。


逃げても、このマグナリア国が呑まれたら、東のムラクモ連合と南の南諸島連合の二つが連合でも作らないと対抗出来なくなるくらいの超大国になるだろう。


……そしたら少ない知り合いがどうなるか。ディアナ、エミリア、リグ公爵、調理長やソーマとかのコック達、お兄様に、お父様、ついでにアズマさん。


俺一人だけなら今ならいくらでも生き抜く自信があるんだけどな……。そうも言ってられない。


はぁ……落ちゲーのように時が経つほど問題が増えてくれる。勘弁してくれ。






「ほぅ……冷く、甘い、それでいて雪のように気がつけば口の中で溶けてしまう。何度食べても旨いな。このアイスクリームとやらは」


「兄弟の仲を深めるのにちょうどいい」と言って、いつの間にか当然のようにお茶会に居座るようになったお兄様が、相好を崩して本日三度目のアイスクリームを食べていた。


「ええ、美味しいですな。それに添えてあるクッキーと一緒に食べると、食感や食味に違いが出来て飽きずに食べれる」


それに同意するようにリグ公爵が、にこにこと笑いながら頷く。


そして、ディアナはというと……アイスクリームを食べながら、こちらをチラチラと見ては俺と目が合うと反らし、またチラチラ見て……と挙動不審に繰り返している。


……一体どうしたんだ?なんか一月前から「私、頑張りますわ!」とか言って、急に城に来る回数が減ったと思ったら、お兄様と何事か話したあとから目が合うと固まったり、近付くと猫みたいに警戒するし。


この間も髪に葉っぱが絡まってたので取ると、茹でタコのように顔を真っ赤にするし……まさか……何かの病気か?


でもなぁ……リグ公爵に聞いても、楽しそうに笑って「病気?あはは!まぁ、あながち間違ってはいないけど、心配ないよ。あんな娘の姿が見れて私は嬉しい。……まぁ、父親としてちょっと腹立たしい気持ちもあるけどね?」と言って、なんか殺気を飛ばして来る位だし……いや、どう言うことよ?


エミリアさんにも聞いたら「……これは本当にディアナ様は苦労なされますね」とか言って蔑んだ目を向けてくるし……。


首を捻っていると、お兄様とリグ公爵がにやにやと厭な笑みを浮かべる。


「……お二人ともこんなに悪趣味とは思いませんでしたわ!」


それを見てディアナは憎々しげに二人を睨んだ。


「はは、酷いな。ディアナ。愛する娘にそんなに睨まれてお父様は悲しいよ。それにちゃんと理由もあるのさ」


「そうだ。婚約者殿。さすがに事が事だけに、根回しや段階を踏まないと騒ぐ連中が必ず出てくるからな。まぁ……本人に話さないのはちょっとした嫌味だがな」


そう言ってお兄様がにやにやと視線を向けてきた。……よし!なんか、ムカつくから今度の朝練で殲滅用試作ゴーレム『ベルセルク』と戦わせてやろうかしら?


「……なんだ?夏になったと言うのに急に寒気が……風邪か?」


急にお兄様が己を抱くようにして、身を震わせる。


「いや、お兄様。さっきも言ったけどアイスの食べ過ぎです。体が冷えたんですよ。エミリア、お兄様に熱いお茶をお願い」


「畏まりました」


エミリアにそうお願いすると一礼して、部屋を出ていき……お兄様に「暑苦しいから外に居ろ」と言われ、ドアの外で待機していたお兄様付きのメイド達と何やら視線を交わしていた……。『ボウフラどもは鬱陶しいかぎりですねぇ』『くぅっ!お、覚えておきなさい!』という声が脳内再生されたが、気のせいですよね。
うん。女の人は怖いわ。メイド達の中にも力関係があるようです。


「む、そうか。食べ過ぎは注意だな」


「ええ。控えてください。そうじゃないと、ソルベとか食べさせませんよ」


ソルベとは要するにシャーベットで、果物を粉砕してピュレ状にしたものに砂糖で甘味を足し、凍らせながら何度かかき混ぜと空気を入れるためにメレンゲを入れたモノで、砂糖と卵白以外余計な物を入れていないので味が濃い。


ちなみに基本的にはシロップを入れるけど、余計な水分を入れたくないので、俺は入れない。朝市で安売りの果物を買っては夏場に姉に言われてよく作ったなぁ。


「くっ、何かはわからんが旨そうだな……。分かった控えよう。まぁ、それはそうとしてだ……カイン。お前は五歳の時に確かこう言ったな?王となる俺の助けになるために努力すると……」


何やら悔しそうに顔を歪めたと思ったら、ニヤリと口元を歪めて何か言ってきた。……よく覚えてるな。


「……まぁ、細部は違うと思いますけど、似たような事を言いましたね」


「うむ、お前は知力も武力も良く鍛えているようだが、この城で得られる知識には限度があろう。……と言うわけで準備が出来次第リグ公爵領へ行ってしばらく色々学んでこい。父上とリグ公爵、それに宰相には賛同を得ている」


「ええ、カイン様が来ることを私は公私共に歓迎しますよ。ディアナも喜ぶでしょうからね」


リグ公爵が賛同するように頷く。いや、ディアナさんは何か言いたげに、唇をうにうにと動かしてますよ?


「……それにだ。ちょうど良いのではないか?何やらエミリアに言って市場調査などさせていたのだ。何かしら考えや、やりたいことががあるのだろう?」


……どれだけ見透かされてるのよ。いや、別にバレてもいいし、リグ公爵には仮定とした上で意見を聞くために色々話してたけどさ。


話は急なものの……渡りに船とばかりに都合がいい話なんだ。……お父様に宰相も賛同している以上断る理由もないか。と言うか断れる話でも無さそうだけどな。


「ええと……これからお世話になります。リグ公爵」


「ああ、心より歓迎しますよ。カイン王子様」


そうして……俺はリグ公爵へ向かうことになるのだった。






「そうそう、俺も視察を兼ねて様々な場所を巡るので、そのうちお前の所に行くが……料理長にアイスクリームや、そるべ……?とやらの作り方を教えて言ってくれよ」


何か……お兄様が食いしん坊キャラになってないか?まぁ、いいんだけどさ……。料理長との約束もあるし。







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