彼女が俺を好きすぎてヤバい

北西時雨

うまく言えないが、とにかくヤバい。(3)

「翼! 翼!! 無事か!!? どうなっている!!!」


 ドアの向こうで、激しく戸を叩きながら男の大きな声がする。
 古柴こしば空也くうや。俺のルームメイトだ。


空也ソラ!」


 すぐさま呼び名で応答する俺。
 空也ソラが続けて叫ぶ。


「鍵がかかっていないのに、ドアが開かないぞ!!!」
「ちょーっと部屋に侵入者がだなぁ……」
「なにぃ!!? 分かった!! 今からドアを開ける! なるべく離れろ!!!!」
「はっ?」


 俺が詳しく説明しだす前に、勝手に納得した空也ソラが叫んでいる。
 嫌な予感がした俺は、話をしようと近づいたドアから一目散に離れる。
 部屋の奥に転がるはるかの近くに着くかどうかで、部屋の入り口が、爆音と共にはじけ飛ぶ。


つばさ!!」
「おま……っ、何を……っっ」


 舞い散る埃と破片に思わずむせる。けぶる向こうから現れたのは、巨大な馬上槍ランスを持った眼鏡の大柄な男。
 通称:話を聞かない眼鏡野郎、こいつが古柴こしば空也くうやだ。


 俺の横に転がっているはるかを見下ろして、空也ソラが呟く。


「なんでここにはるかがいるんだ?」
空也ソラぁ~。助けてぇ~」
「えっ」


 情けない声で呼びかけるはるか空也ソラが戸惑う。


「おい、惑わされてるんじゃない。こいつが侵入者だ」
「ん?」


 首をかしげている空也ソラに、先程までのことを軽く説明する。
 一通り聞いた空也ソラが尋ねてきた。


「で、はるかは何をしに来たんだ?」
「夜這い♪」
「黙っとけ説明がややこしくなる。あー、まぁ強盗とか物盗りの類だ。未遂だが」
はるかはそんな悪い奴じゃないぞ」


 しれっとそう言う空也ソラに俺は頭を抱える。


「ああーー……。ま、とにかくっ、男子寮に女子生徒が入るのは寮則違反だ。規則は守らなきゃいけないだろ?」
「ふむ」
「つーわけで、こいつを宿直室まで運ぶ……。とその前に」


 俺ははるかをつつき、大破したドア付近を指差して言う。


「おいはるか。このドア直せ」


 はるかはむくれてそっぽを向きながら呟く。


「壊したの私じゃないもーん」
「そもそもの原因はお前だろうが」


 俺が言い返すと、はるかがこっちへ向き直り、笑顔を浮かべて懇願してきた。


「えー。じゃあせめて腕出させてー」
「アホか。そんなことしたら絶対逃げるだろうが。短縮詠唱てぬきするんじゃない」
「手抜きじゃないもん……」


 はるかは不満そうにぼやいたあと、しばらく唸りながら考えて、深呼吸をする。
 そして、今までとは全く違う落ち着いた声で、詠唱を始める。


「【――理に逆らい、ありし姿を想う我を許したもう
  ――室の口、囲う門
  ――時を還り、相応しき形へ寄り戻りたまえ
  ――復元修復リストレーション】」


 はるかの声に呼応するように、がれきがゆっくり浮き上がり、壁やドアに吸い付いて元通りに戻っていく。
 詠唱が終わる頃には、まるで何事もなかったかのような部屋があった。


「これでいーい?」


 少々不機嫌な声ではるかが呟く。


「ああ、上出来だ」
「私は不出来に不満」


 頬を膨らませるはるかの頭を軽く撫でる。
 はるかの機嫌が少し直ったのを確認して、空也ソラに向き直って言う。


「さて、運ぶか。空也ソラ、肩の方と足の方、どっち持つ?」
「え?」
「上半身の方が重そうだな。肩を持とう」
「あ、いーや。うっかり上半身を持つと『空也ソラがおっぱい触ったぁ』とかぬかしやがるぞコイツは。俺が上半身持つわ」
「はっ、その手が。って、なんで私、米俵みたいに担がれてるの!? むしろ子牛? ドナドナ的な? あーあーーゆれるうああああ」

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