ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~

上等兵

8話 「遭遇」

 
 須賀とアオコはお互いに和解をした。しかし一度はお互いを食べようとして殺し合いをしようとした仲だ。そう簡単に気持ちを整理する事はできない。
 
 「――おいアオコ、もう落ち着いたな?」
 
 須賀の問いかけにアオコはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。そのような反抗的な態度を取れるなら大丈夫そうだと須賀は判断した。
 
 「――で、これからどうするんだ須賀?」
 
 「そうだな、人がいる場所を目指す」
 
 「おいおい、そんなのどうやって目指すんだよ?」
 
 「久我、お前はもっと周りを見ろよ、ここに来るときに道ができてただろ? それにこの洞窟の入り口にも蛇の彫刻があった、ということは少なくとも人がいたってことだ」
 
 「あ、そうだったな、ということは外にまだどこかへ続いている道を見つけて辿っていけばいいって事だな?」
 
 「その通りだ」
 
 世界各地には何百年前の建築物が自然の中に遺跡として残っている。それはこの地にも当てはまるようでかなり昔に作られた道がかろうじで残っていた。
 
 「よしっ方針は決まったな……えーと、これより我が組は人がいる場所に向け全進する! 各人警戒を厳にせよ!」
 
 「おい久我ぁ、てめぇはいつから組長になったんだオラ」
 
 決まり顔で命令を下す久我に須賀は詰め寄った。
 
 「おい、落ち着けってなんかこういうのって雰囲気が大切じゃん」
 
 「だからって何でてめぇが組長なんだよ?」
 
 「あははははは!」
 
 突然笑い声が聞こえる。
 
 「あはははは! お前達二人は面白いな、あははは!」
 
 アオコが須賀と久我のやり取りをみて笑った。

 ――アオコの奴、笑顔をするじゃねぇか。

 アオコは目を細めて口を大きく開けて笑う。その姿が純粋で須賀は思わず心の中で褒めた。
  
 「ちっ、もう行くぞ……っと、その前に」
 
 須賀はを出る前に巨大な蛇の亡骸へ近づく。そして亡骸の口に刺さったままだった自分の銃剣を引き抜くと同時に亡骸から一本の牙を抜き取った。
 
 「おい凌駕、御方様の亡骸に何をするんだ!?」
 
 「アオコ、受け取れ」
 
 須賀はアオコをに向けて取った牙を投げ渡す。
 
 「わわっ、御方様!」
 
 アオコは慌てて牙を受け取ると、まるでなんて無礼をするんだといった感じて睨んだ。
 
 「御方様とやらの形見だ、俺達が無事に帰れたらそいつをお前が丁寧に供養してやれ……ここじゃ墓も作れずに腐って終わりだからな」
 
 「……凌駕」

 この巨大な蛇は人を襲っていてなおかつテレパシーまで使って意思を疎通できる存在だった。だから供養位してやらないとバチが当たる。

 ――須賀はそういうふうに畏敬の念を感じて先程の行動をした。
 
 「はあ、自然を超越した者を畏れ敬う、こういうところがやっぱ日本人なのかな」
 
 最後に全員で蛇の亡骸に手を合わせた。

 「……さようなら、そして力を授けて下さりありがとうございました、御方様」

 アオコは牙を握りしめて、須賀達には聞こえない声で呟いた。

 ――しばらく進むと道はすぐに見つかった。しかし長年使われた形跡がないので雑木林になり道は消えかけていた。
 
 「ち、藪濃きか……物を落としたり木の枝が目に入らないように気をつけろよ」
 
 「はいはいわかりましたよ、須賀組長」
 
 久我が不満そうに言う。理由は久我は普段から目立ちたがりなのでどうしても自分で指揮を取りたかったからだ。しかしいつも失敗ばかりするので須賀は久我に組長をやらせなかった。

 現在の組の並び順は先頭を須賀、その後ろにアオコ、そして最後尾に久我とそのペットのゼリーを置いて縦隊の隊形を取った。
 
 須賀がこの並びにしたのは須賀はまだアオコを信頼しきれていないので、最後尾の久我に常にアオコが妙なことをしないか監視させるためだ。そして若干久我に任せるのは少し不安があるが、しっかりしている久我のペットのゼリーが一緒にいるので大丈夫だろうと判断した。
 
 「はあ、ゼリーちゃんはひんやりしてて気持ちいいぜ、ほんとお前は便利な奴だよな、よしよし」
 
 「ぷるぷるぷるぷる」

 久我はゼリーを懐に入れて移動し、時折話しかけている。ゼリーも久我の言葉に反応して様々な行動を取る。その光景はまるでお互いを信頼した仲の良い主人とペットだ。
 
 ――畜生、久我のやつこんな状況なのにペットと仲良くしやがって……でも、こんな状況だからこそ信頼しあえるペットみたいなのが入れば気持ちが楽になるんだろうな。
 
 須賀はここに来てからずっと一人で焦っていた。いつ帰れるかも分からず、そもそも帰る方法はあるのか等様々な不安要素が須賀の心を蝕んだ。

 ――俺にも仮に久我みたいに信頼できるペットがいたら――。

 『――よーしよし、アオコは良い子だな、よしよし』

 『うふふ、任せとけ凌駕、私がお前達を守ってやる!』
 
 『おー、そうかそうか、しっかり守ってくれよ元非常食アオコ、くくく』

 『非常食と呼ぶなー! 私がはアオコだ』
 
 ――須賀はアオコをペットにした場合の妄想をした。

 ……バカバカしい、何を考えて居るんだ俺は、あいつが俺の事を守るわけ無いだろ、それどころか嫌ってる筈だ。

 この時須賀は足元に注意していなかった。その為地面に張ってある紐に気がつく事ができずに足を引っ掛けてしまった。
 
 「何だ? うわっ」
 
 「きゃ」
 
 「うをっ!」
 
 突然地面から蔦でできた網が出てきてそのまま須賀達三人を絡め取り吊り上げる。
 
 「おい須賀、今回は俺のせいじゃねえぞ!」
 
 「うるせぇ!」
 
 罠に引っ掛かってしまった。
 
 カラカラカラカラ……。
 
 辺りに獲物がかかったことを知らせる音が響く。
 
 「畜生、身動きがとれねぇ」
 
 「ちょ、凌駕どこを触ってる、やめろ!」
 
 「うるせぇ、腰に着いてる銃剣を探してる時にちょっと当たっただけだろ!」
 
 吊り上げられた時にアオコが須賀の背中にもたれかかる態勢になったので益々身動きが取れなくなってしまった。
 
 「おい久我、お前はどうだ? 銃剣でこの網を切れないか?」
 
 「あー、非常に申し訳ないんだが、さっき銃剣を取り出した時に手を滑らせて落としちまった」
 
 「何ぃ!?」
 
 下を見ると久我の銃剣が地面に刺さっていた。
 
 ……終わった。
 
 「はぁはぁ」

 アオコが荒い息を上げている。
  
 「ん、どうしたアオコさっきから俺の背中で震えてるぞ?」
 
 「な、何でもない!」
 
 「まさか高い所が怖いのか?」
 
 「違う、そうじゃない!」
 
 「だったらちょっと俺から少し離れろ、お前が少しもたれるのをやめてくれたら多分俺の銃剣を取ることができる」
 
 「ちょ、凌駕、ダメっ動くな!」
 
 須賀が動こうとするとアオコが叫んで須賀の体に思いっきりしがみついた。 

 「何だよアオコ、苦しいから離れろ!」
 
 「ダメっ動くな……出る」
 
 「出る? 何が?」
 
 「ずっと我慢してたんだ、だから私の下半身からその……水が出そうなんだ!」
 
 ――おいまさか。

 須賀は嫌な予感がした。
 
 「てめぇふざけんな! いくら俺に恨みがあるからってそりゃねえだろ変態!」
 
 「な、何を言う私は変態じゃない、それにこれは仕方ないことだろ!」
 
 言い合いをしていると、捕まった三人に草木を掻き分ける音が近づいた。三人は耳を済ますと草木をかき分ける音は次第にあちこちから聞こえるようになり大勢の何かが居る事がわかった。
 
 「おい、きっとこの罠を作った奴らだぞ!」
 
 「ああ、とりあえ奴らがきたらじっとして様子を伺おう」
 
 とうとう、草木の間からぞろぞろと何かが出て来た。
 
 「What hit the trap?」
 
 「なんだと!?」
 
 三人は出て来た者達を見て驚いた。
 
 「Hey, you're a human!」
 
 出て来た者達も三人をも見て驚く。
 
 出て来た者達の格好は緑のヘルメットを被り褐色の服を着て手にはライフルを装備している。どこかの軍人のようだ。
 
 ――こいつら英語を話している、もしかして米軍か!?

 須賀は彼らを見て、そう判断した。
 
 米軍の内の何人かが罠を解き始めゆっくりと三人を下ろし始める。
 
 「おお、サンキュー、サンキュー、良かったな須賀、どうやら俺達在日米軍の土地に迷い混んでたみたいだな」
 
 「そうなのか? けど俺達がいた演習場の近くに米軍の土地なんてないぞ?」
 
 ――何で米軍がここにいるんだ? おかしい。
 
 「Who are you guys?」
 
 突然一人の米兵がライフルを須賀に突きつける。
 
 「おい、俺達は自衛隊だ、道に迷ったんだ!」
 
 須賀は咄嗟に誤解を説こうとして銃を突きつける米軍の兵士を見た。
 
 「――え、何だこいつ?」
 
 須賀は目の前の米兵を見て固まった。何故なら米兵の人種はよく見る白色人種であるが、変わった事に耳が自分達より尖っている。
 
 ――なんなんだこいつら……本当に米軍か?

 他の全員も耳が尖っている特徴を持っている。

 「I will take you home」
 
 米軍の集団の誰かがそう言うと目の前の兵士が三人を無理やり立たせようとする。
 
 須賀と久我はそれに素直に従ったがアオコだけは立たなかった。

 「おい、アオコこいつらの言うことを聞け!」
 
 「……くそう、人間めまた私を火の出る棒で脅したな……ぐすっ」
 
 須賀はアオコに怒鳴って立たせようとしたが、アオコは須賀の服の袖を掴み悔しそうに顔を歪めて泣くだけだった。
 
 「おい、どうした? ――あっ、もしかして水が出たのか?」
 
 アオコは無言でうなずく。
 
 「そうかまぁ仕方ねぇよ、俺も銃を向けられたらチビりそうになる、恥ずかしいことじゃねえからとりあえずこいつらの言う通り立ち上がれ」
 
 須賀ははアオコの頭を優しく撫でるとゆっくり立ち上がらせた。アオコので下半身はビチャビチャに濡れていた。
 
 「Oh…… sorry snake girl」
 
 目の前の兵士は気まずそうにしている
 
 アオコのおかげで少し回りの雰囲気が優しくなった気がした。
 
 その後、三人は謎の耳が尖った米軍に連れていかれた。
 

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