ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~

上等兵

2話 「新種」

 
 「停止! 全員その場にしゃがんで周囲を警戒しろ!」
 
 須賀と久我が歩いていると、先頭にいるコンパスマンと呼ばれる道案内役が立ち止まって指示をした。
 
 「なんだ? おい、何かあったのか?」
 
 須賀は指示通りその場にしゃがむと久我に質問した。
 
 「ん? ああ、多分こりゃ先頭のヤツが道を間違えたんだな……ほらな、今教官がヤツを怒鳴りにいったぜ」
 
 久我の言う通り、コンパスマンが地図をくるくる回して眺めている所を教官が見つけて怒鳴っていた。
 
 「おいコンパスマン、てめぇは俺達を何処へ向かわす気だ! ちゃんと現在地を掌握しろよ、この野郎!」
 
 「レ、レンジャー!」
 
 コンパスマンは怒鳴られてもレンジャーとしか答える事が出来なかった。しかしコンパスマンというのは難しい役なのだ。何故なら山の中は時間と共に変化して地図にあるハズノ道が無くなっていたりする事がある。なので道に迷い易い。
 
 あーあ御愁傷様、それにしても来た道を戻るのはめんどくさいし休憩ポイントまで行くのに時間がまだ掛かりそうだ。
 
 須賀はコンパスマンに同情すると共に、これから来た道を再び引き返さなくてはいけないことにうんざりした。
 
 「ちっ、霧まで出てきやがった」
 
 生憎天候にも恵まれてない、これでは益々道に迷ってしまう。
 
 「おい須賀、ちょっと小便に行ってくる」
 
 突然バディの久我が言った。
 
 「おいバカ野郎、今は警戒中だろう?」
 
 「……そうだけどもう漏れそうなんだ」
 
 「だったらここでしろよ」
 
 「はぁ!? バカ言うな……なあ頼むすぐそこで良いんだ付いてきてくれないか?」
 
 久我は切羽つまっているようでモジモジし始めた。
 
 「おい、その動きは気持ち悪いからやめろ、あと何で俺がお前の小便に付いていかなきゃならないんだ?」
 
 「そんなのこの霧の中を歩いたらはぐれそうだからだよ」
 
 久我の言う通りだ。何故なら先程に比べて霧が濃くなって来た。一人で行動したら迷ってしまう。
 
 「だったらなおさらここでしろよ」
 
 「わかったお前の側でしてやる」
 
 「やめろ──ちっ、俺が巧いこと言ってこの場を抜け出してやるから待ってろ」
 
 須賀は舌打ちをすると面倒くさそうにコンパスマンの元へ向かった。
 
 「班長、ちょっと具申して良いか?」
 
  「くそっ──何だ?」
 
 コンパスマン──班長がイライラした様子で須賀に反応した。
 
 「班長、もしかしたらここは敵がいる地域かも知れない、というのもこいつがここに落ちてた」
 
 須賀は班長に部隊から支給された缶詰の空──須賀が食べた缶飯のゴミを見せた。すると班長はそれがどういった意味か分からず不機嫌になって須賀を睨み付けた。
 
 「おいお前、舐めてるのか? どうみてもそれはお前が──」
 
 班長が何かを言おうとするのを須賀は目で制して小声で話した。
 
 「(班長、ここは敵がいるかもしれないことにして偵察にいきましょう)」
 
 「(何でそんなことするんだ?)」
 
 「(皆で休憩する為ですよ、俺と久我がこの付近を偵察してくるんで班長はその間に皆を今みたいに警戒させてといてください、そしたら警戒中とはいえしゃがんで少しは休憩できるでしょう?)」
 
 須賀と班長は教官に見つからないように話すと、一緒に来た全員を見渡した。
 
 「ああ……あちぃ、水」
 
 「腹へったぁ……疲れた」
 
 ここにいる教官達以外全員ずっと休憩することなく歩いてここまで来た。その為ヘトヘトに疲れきって敗残兵のようになっている。
 
 「(──須賀、お前の考えに乗った、けど良いのかお前ら二人は偵察に行って余計疲れるぞ?)」
 
 「(そこはまあ巧いことやります、だから班長は俺達が行ってる間に冷静になって地図で現在地を確認しといてください、それと偵察に行って何か目印になるようなのがあれば報告しますよ)」
 
 「(よしわかった)」
 
 班長は須賀の意見を聞く事にした。
 
 「レンジャー須賀とレンジャー久我は周囲を偵察に行って敵がいないか探してこい! その間全員警戒を継続しろ!」
 
 班長は早速指示を出した。すると全員が示されたように行動した。教官は班長の指示は問題ないので黙って行動を見守った。
 
 皆真面目に行動してるけど内心ではやっと休憩できると安心してるんだろうな。
 
 須賀は久我の元へ戻るときに全員から感謝の目で見られた。
 
 「おい須賀、お前本当に巧いことやったな、じゃあ早速行こうぜもう限界なんだよ」
 
 久我がもじもじしながら言う。
 
 「だからその気持ち悪い動きをやめろ、それとお前の小便が済んだら偵察に行くからな?」
 
 「ええ! 本当に行くのかよ?」
 
 「当たり前だろ? 一応班長に命令されたんだからきっちりやらなきゃダメだろ、さっさと行くぞ」
 
 須賀は久我を立たせると偵察に向かった──。
 
 「……ふぅ、間に合った」
 
 久我はズボンを濡らさずに済んだ。
 
 「おい、もう行くぞ……ん?」
 
 須賀は偵察に行く方角を確認しようとした時に、コンパスの針が北を指さずにグルグルと回転し始めた事に気がついた。そして次の瞬間、あたり一面が電気のようなビリビリした音と共に緑の発光体に包まれた感覚がした。
 
 「──っ、さっきのは何だったんだ? おい久我、さっき周りで電気が走らなかったか? 多分そのせいでコンパスが壊れちまった」
 
 「おい、それは流石にマズくないか?」
 
 「ああ、確かにマズい」
 
 コンパスが使えなくなったうえに霧も濃い。
 
 須賀達はこのまま移動するのは危険と判断してその場でじっとする事にした──。
 
 「お、霧が晴れて来たみたいだぞ」
 
 しばらくすると霧が晴れてきた。これでコンパスが無くてもある程度なら行動できる。そう須賀は思い行動する事にした。しかし須賀はこの時、鼻に嗅いだことのない匂いがすることに気がついた。。
 
 「……何だこの匂い、ガス攻撃か!?」
 
 須賀はしまったと思った。何故ならガスマスクが入っている袋に非常食ように入れておいたアオダイショウが入っているからだ。これではガスマスクが使えない。
 
 「おい、須賀これを見ろよ!」
 
 「何かあったか!?」
 
 「見ろよこのでっかいボール、結構弾力があるぜ?」
 
 久我が顔位の大きさの白い鞠のような物を持ってグニグニと押し潰していた。須賀は余りにも場違いな光景に先程ガスマスクが使えなくて焦っていたことを忘れた。
 
 「何だよその白いの、キノコか?」
 
 「そうかも知れねぇ、それにしてもこんな珍しいキノコが日本の山に生えてるんだな、こんなの見たことない」
 
 「確かに見たことない、おいもしかして新種かもしれないぞ?」
 
 「何? だったら持って帰ろう、そうだな……名前は俺が見つけたからクガタケにしよう──うわっ!?」
 
 久我がキノコを押し潰すのを止めた瞬間、キノコが破裂して胞子を撒き散らした。
 
 「ぶはっ、何だこの匂いちょう臭ぇ」
 
 「ははは、残念だったな久我、新種のキノコは消滅しちまったぞ?」
 
 「いや、大丈夫だ、クガタケはまだ周りにいっぱいある」
 
 「――は?」
 
 須賀は周囲を見渡すとそこにはおびただしい数の大小様々な先程のキノコもといクガタケが生えていた。
 
 ──ゾクッ。
 
 須賀はその光景を見て寒気がした。そして最初に感じた匂い──ガス攻撃と勘違いしたのはこの周りに生えているキノコが原因だと分かった。
 
 「さぁて、こいつを持って帰れば俺は一躍有名だ、そしたら周囲の女が寄ってきてきっと俺はモテモテだな」
 
 久我は背嚢を下ろすとそこにクガタケをいれ始めた。
 
 「おい、そんなことしてないで早く偵察から帰るぞ、流石に時間が経ちすぎた」
 
 「わかったって今行くよ……あっ」
 
 須賀はこんな不気味な場所を早く離れたいと思った。しかし久我が背嚢を背負い歩き出すと思いきや急に自分の事を唖然としてじっと見つめて動こうとしない事に苛だった。
 
 「おい、何見てんだよさっさとしろよ!」
 
 須賀は怒鳴ったが、久我は静かに須賀の方向に指を指した。
 
 ──まさか敵か!
 
 須賀は察して銃を構えて振り返った。
 
 「キチキチ……キシャー」
 
 須賀の後ろには敵は居なかったが虫がいた──それも只の虫じゃない。
 
 テントウムシのように体は丸くそして色は黒い。しかも大きさは須賀の腰位まである。
 
 でかい、なんてでかい虫だ? いや、本当に虫か? 何でこんなのが日本の山にいるんだ?
 
 急な出来事に須賀達は混乱した。すると突如テントウムシが須賀に遅いかかった。
 
 「キキキキキ……キシャー!」
 
 「うわあぁぁぁ!」
 
 須賀はすぐに銃の引き金に指をかけて引いた。そして山の中で銃声がこだました。

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