勇者は鉄の剣しか使っていませんでした

顔面ヒロシ

☆7







 ケントリッドが16歳になっても、私は子供のままでした。具体的にいえば、そうですね、私は13歳ほどの姿でした。
この頃になると、ケントリッドも立派に魔物を討伐し始めます。兵隊に所属してはいますが、彼は大体ギルドの冒険者に混じって戦っていました。すなわち、殆ど放置に近い扱いです。
ケントリッドの待遇を改善するには、私が出世するしかないと思いました。彼の傍で戦うことも考えましたが、それは彼自身に止められました。


『帰ってくる場所がなくなってしまう』だそうで、だったら教会に入ったままで昇進を狙うしかありません。


 エルフの私が神の教えに目覚めたことに、周囲は喜ばしいことだと微笑みました。そして、がむしゃらに働いているうちに私のことを皆は『聖女』と噂するようになります。
階級もそれなりのポジションにつくことになりましたが、次第に余計なものにも煩わされるようになりました。


「……今度は伯爵家から縁談が来たって? フランカ」
 何やら黒いオーラを漂わせたケントリッドの帰還に、私は驚きました。


「……血まみれじゃない、ケントリッド」
 ケントリッドの全身は魔物の血で汚れていました。今の形相といい、これでは勇者ではなくまるで鬼のようです。小さい子が見かけたら泣いてしまうでしょう。


「そんなことはどうでもいい。どうして、俺に一言も相談しなかったの」
「だって、最近のケントリッドって働き通しで……。いつ王都に帰ってくるかも私は知らなかったわ」


「それは悪かったよ。……でもさ」
 まさか、その縁談受けるつもりじゃないよね?
と物騒な気配をまき散らしながらケントリッドが唸ります。
 私はマジメに考え込みました。


「まあ、妾の枠だったけどそこまで悪い縁談ではなかったわ。そこに嫁げばもっとケントリッドの役に立てそうな気はしたし……」
「俺の役に立つ? 笑わせないでよ、伯爵家の妾になんかなったら俺との交流は断ち切られるに決まってるだろ」


 ハッとケントリッドは一笑に付しました。これでも真剣に考えていたことなので、少しショックです。この頃の私は彼の手助けがしたいだけだったのですが、今の一言がどれほどケントリッドを傷つけるか理解できていませんでした。


「……それに、妾になるってことは分かってんの? そいつとフランカは夜を過ごすってことだよ?」
「わ、分かってるわよ! それぐらいの覚悟できてるに決まってるじゃない!」
 お前は分かってないよ、フランカ。と、ケントリッドは唸りました。


「そいつは、フランカの全部を独り占めしたくなるに決まってる……、俺の気持ちなんて、フランカは全然分かってないよ」
 ケントリッドに腕を強く掴まれました。
 なんてこと! 振り払おうとしても振り払えません。
彼はその怖い顔のまま、私を連れて外に出ました。どこに連れていかれるのか分からなくて、怖くて、何度も彼の名前を呼びましたが振り返ってくれませんでした。


「ここって……」
 私は絶句しました。そこは、ケントリッドの泊まっている宿です。


「なんでアンタ、売春宿になんか泊まってるのよ!」
「うるさいな、そこの二階が安かったんだよ! ……俺がこれから何をしようとしてるかフランカも少しは気づけよ!」


「勇者なんだからもっと清廉なところに出入りするなり泊まりなさいよ!」


 私も見た目は13歳ではありますが実年齢は30歳を超えています。貴族ではこれぐらいの少女でもどんどん結婚しますし、子持ちの人だっているくらいです。
ですが、私はまだケントリッドを侮っていました。どこかまだ庇護しなくてはならない弟の気分が抜けていなかったのかもしれません。
 自分の部屋に私を連れて入るなり、ケントリッドは鍵をしました。ベッドが1つある部屋で不安に思う私に熱い視線を向けると……、
――そうして私たちはヒトツになったのです。







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