黒い模倣地帯 -スクールカーストに支配された学園-

黒野正

第5話 歪な二年F組

 
 健一の裏が暴かれてから一週間が経った。
 あれから掲示板にあの謎の貼り紙が貼られることはなかった。
 だが、いつまた起こるか。誰が、何のためにやっているのか。
 本当に早乙女がやっていることなのか。
 様々な疑念や混じりあいクラスは異様な雰囲気に包まれている。

 そんな中でも学校生活は続いていく。

 僕は教室の扉を開くとそこに待っていたのは。

「羽黒君? てめぇのおかげでこの俺が反省文なんて書かなきゃいけなくなっただろ!」

 どうやら宮晴は反省文を書かされたらしい。
 だけど、逆に言えばそれだけで済んだのか。
 虐め、恐喝。立派な犯罪なのに。序列が高いおかげでそれだけで済んでしまう。
 18位の宮晴でも恐らく、これから将来的に有望だからか。

 健一と宮晴。二人を天秤にかけた時。それは宮晴が重くなる。

 だから片方の健一は弾き飛ばされる、
 この狭く苦しい空間の中で。
 宮晴が健一を突き飛ばす。そして、四つんばにさせてそこに乗る。

「てめぇはもう国上以下の存在ってことだ」

「……っ! 嫌だ、それだけは絶対に!」

「昨日のラポ見てない訳じゃないよな? ほとんどの奴らはお前のことなんてどうでもよかったってことだよ、親友も裏切ってほんとに最低な奴だよな」

「それは……だけど、お前にもそれは」

「口答えするなよ、もうこのクラスにお前の味方なんていねーよ」

 ケラケラと宮晴は笑いながら健一のことをまるで奴隷のように扱う。
 周りを見渡しても健一のことを助ける人はいない。
 実際それは僕も複雑な気持ちにはなっても助けようとは思えなかった。

 やっぱりどうしても昨日のことを思い出してしまう。
 今まで序列が低いのに健一が何もされてこなかった理由。
 あんな裏があったなんて思わなかったからだ。

 二年F組の人たちはこれに対して僕と同じ静観する者。
 状況を楽しんでいる人。ひそひそと悪口を言っている人。
 そして、これは僕の推測だけど心の中でほくそ笑んでいる人。

 このクラスどうなっているんだ? いや、これは……。

「ちょっと! やめなよ! 確かにそいつは最低な奴だけどあんたがこんなことしていい理由なんてないでしょ?」

 榊原? 今まで黙っていたが榊原が声を張り上げる。
 目付きを鋭くしながら健一に座っている宮晴を睨みつける。
 ただ事ではない。僕はそれを感じ取って自分の席で委縮していた。
 だが、宮晴は迫力満点の榊原にも動ずるはずがなかった。

「お前もこいつと同じで序列を上げるためのポイント稼ぎか?」

「な、なぁ!? そんな訳ないでしょ! 私は美音の友達として言うだけのことは言ったまでよ!」

「はぁ? なにそれ」

「こんなクラスの状況じゃ、美音が学校に来た時に悲しむからやめろと言っているのよ」

 そういうことか。結局、榊原も上位の人間ってことか。
 確かに健一のへと虐めは止めている。だけど、それは他でもない早乙女のため。
 その証拠にここまで僕の名前も健一の名前も出ていない。
 榊原にとって僕らのことなんてどうでもいいのだ。

 態度ややり方は違えど結局みんな同じ。

「……榊原の言うことも分かるけど、美音は多分クラス全員が団結するところをみたいんだと思う」

「悠馬……」

 すると、今度は早乙女の彼氏だった柴崎が話し出す。
 何でもっとはやく気付けなかったのか。
 悔しそうに表情を苦虫を噛んでいるようなものだった。
 言葉では言ってないがそれを見るだけで伝わってくる。

 だが、宮晴は立ち上がり腹を抱えて笑う。
 僕はそれを哀れの目で見ていた。どうしてこの状況で笑える。
 しかし、宮晴は落ち着くと榊原と柴崎にこう言い放つ。

「お前らの言い分だとさ、元々このクラスは団結してませんって言ってるようなものだぜ?」

「な、なぁ!?」

「そ、それは……」

 二人の表情が曇る。場が凍り付く。冷たい視線が各所に散らばっているような。
 黙り込む二人に僕は察してしまう。
 この二人は分かっていたんだ。宮晴の言う通り。このクラスはバラバラだってことを。

「考えてみれば、国上が虐められている時はお前らはノータッチだった、見て見ぬふりをしていた、助けていたのは本当に早乙女ぐらい……この時点でおかしいだろ?」

 虐めていた張本人が何を言ってる。と、思ったが事実そうだ。
 助けを求めようとも誰も助けてくれない。
 差し出した手は序列四十位というものによってひきちぎられる。

『大丈夫? 国上君! 困ったことがあったら何でも私に相談してね!』

『この漫画面白いよね! 私も読んでいるんだけどさ! このキャラが好きなの』

『やめなよ! 国上君を虐めても何にも楽しくないよ!』

 だけど、早乙女だけは助けてくれた。
 何でも出来て、明るくて、可愛くて、社交的な彼女。
 どうしていまだに僕なんかのことを気にかけてくれたのか分からない。

 だからこそ、知りたい。彼女が学校に来なくなった理由。
 早乙女から送られているのか。
 それとも誰かの仕業なのか。全く謎のあの貼り紙によって……確実にクラスは崩壊する。

 早乙女、君は今何をしているんだよ。

「あんたこそ、人を虐めて楽しんでいるでしょ? 今まで言わなかったけど、それこそ美音が学校に来なくなった理由じゃない?」

「何を言うと思ったらそんなことかよ」

「何をって重要な問題じゃん!」

「確かに、俺も宮晴が美音が不登校になった最大の理由だと思っているんだ、それが事実だったらどうしてくれる?」

 柴崎と榊原が宮晴に詰め寄る。
 今にも喧嘩が起きそうな雰囲気。止めに行きたくてもいけない程の威圧感。
 だけど、宮晴は近くの机を蹴り飛ばし、こんなことを言った。

「お前らより序列が低いのに強いと思われればいつかは俺が上位になれる可能性があるからだよ」

「……っ! こんなやり方で?」

「その方が手っ取り早い、実際にお前らが思っている以上に闇は深いぜ?」

 優遇される上位層。だからこそ、中間層、最下層の人間からしてみれば目指すべき存在。
 しかし生まれる感情はそれだけではない。

 嫉妬、憎悪。なんであいつらだけだという気持ち。
 気が付けばクラスの中は異様な雰囲気に包まれる。

 宮晴に反対する人。賛成しているかも知れない人。
 どちらにも付いていない人。傍観者。
 早乙女のことから結局自分たちの立場を考える形となってしまった。

 これじゃあ駄目だよ。僕が。僕が何とかしないと。
 しかし、口も開かないし、行動も出来ない。
 何も打開策が思いつかない。序列がもう少し高ければ。勇気が少しでもあれば。
 こんな時にはっきりと自分の意見を言えるのに。

 自分の弱さに恨んでいる時だった。

「お、おい……またなんか貼りだされているぜ!」

「な、なんですって!?」

「ナイス、タイミングじゃねえか? これでまた犯人が分かるな?」

「こんなこといつまで続ければいいんだ」

 き、きた。すると他クラスの生徒が二年F組にわざわざ知らせにきた。
 もう秘密も何もない。こうやって、このクラスの黒い本性が暴かれていく。
 健一は教室の汚い床に四つん這いになっている。
 あんなことをしないといけない程の秘密があれによって暴露されるのか。

 僕は、一体どんなのなんだ? いや、思い返しても特には。

「国上君」

「は、はい!」

 び、びっくりしたぁ。背後から自分の名前を呼ばれ思わず声が出てしまう。しかも敬語。
 だが、この落ち着いた声の主。
 いつも通りの眼鏡をかけている天上翼。
 だけど、今日はなんだか様子が違った。何か分からないけど……言葉で説明するのは難しいけど。

 これから起こることに不安がっているような。

「何をそんなに驚いてるんですか? 私ですよ」

「あ、ああうん、急に話しかけられたから」

「……そんなことより、今回もやはりありましたね」

「うん、やっぱりくるとは思ってはいたけど」

 そうか、天上は自分だったらという可能性で。
 それは僕だって同じ。何を書かれているのか、誰あてなのか。
 悩んだって仕方ないか。

「どんな内容だろうとそれを受け止めないといけないと思う、健一のこともまだ整理出来てないけど、早乙女のためにも必要なことかもしれない」

「……意外と強いんですね、国上君って」

「え? そ、そんなこと! 本当に強かったらさっきの場面で何か言っていたと思う……健一の時の天上みたいにね」

「そうですか、私には大事な親友の裏の顔を知って、さらに裏切られていることを知ってもピンピンとしているあなたの方が強いと思いますが?」

「……それも含めてやっぱり受け止めないといけない事だと思う、僕は行くよ、天上も来た方がいいんじゃない?」

 思ったよりも僕は早乙女に依存していたかもしれない。
 だけど、進まないと。序列とか虐めとか関係なしに。
 後悔はこの時はしない。したくないと思っていた。

 だけど、掲示板の貼り紙を見て、いろいろと考え、結論が出た時。

 僕はこれほどまでにこのクラスが歪んでいると感じ取ってしまった。

コメント

  • 吟遊詩人

    なんだろ?
    設定作り込まれてるし普通に読みにくい訳でもないのに埋もれてるのにノベルマの闇を感じる。
    いじめられっこ系主人公はそれこそ腐るほどあるがこれが特別つまらない訳ではないからこそ作者が失踪したのが残念に思えてならない

    0
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