黒い模倣地帯 -スクールカーストに支配された学園-

黒野正

第2話 謎の貼り紙と疑心

 
 二週間。彼女が来なくなってからクラスの雰囲気は変わった。
 まず僕への虐めが少しだけど収まったような気がする。
 注目はやっぱり早乙女美音が学校に来なくなったこと。

 担任の話だと家に訪問しても親に心配ないと言われるだけらしい。
 肝心の早乙女のことは何も分からない。

 何故、急に学校に来なくなったのか。
 不登校の真相。早乙女の現在。
 親友の榊原や彼氏の柴崎も何も分からないと言うだけ。

 あんなに明るくて、美人で、何でも出来る彼女。


 不思議で仕方なかった。僕は机の片隅で色々と考えるだけだった。

 結局、一か月という月日が流れても。
 早乙女が星ヶ丘学園、二年F組に来ることはなかった。

 そして、ある日の放課後。

「やっぱり絶対におかしいよ! 美音が……急に学校に来なくなるなんて!」

 榊原が下校しようとするみんなを引き留める。
 便乗するように彼氏の柴崎も声を荒げる。

「俺もおかしいと思う、美音が……こんなにも休むなんて何かあるに決まってる!」

 柴崎は教室中に響き渡るように宣言する。
 複雑な気持ちだ。早乙女が来なくなったのは僕だって悲しい。
 だけど、これで虐めも軽くなった。
 殴られることも、お金を取られることもなくなった。

 みんな早乙女のことで頭が一杯なのだ。

 メールも反応がなく、どの連絡手段でも早乙女は反応がないらしい。

 ここまで来るとやっぱり何かあったと考えるのが普通。

 担任の先生からは落ち着けと言われた。
 だけど、落ち着くどころかみんなの心の中は慌てふためいている。

 クラスの人気者、早乙女美音。一体彼女に何があったのか。

「た、大変だ! みんな掲示物のところに……」

 け、健一!? すると、表情を青ざめながらこちらに駆け寄ってくる健一の姿があった。
 その様子にクラス中はさらにざわつく。
 何か連絡事項があると掲示物のところに貼りだされるスペースがある。
 そこで時間割の変更とか諸々の情報を知ることとなる。

 ただ、あまりの健一の態度に何かがある。
 普段とは違うものが貼りだされていると察する。

 そして、宮晴が真剣な表情で健一に詰め寄る。

「何が貼ってあるんだよ?」

「……それが、早乙女からのメッセージが貼りだされているんだ」

「み、美音の!? どうして……」

 どういうことなんだ。僕も健一同様に顔を強張らせる。
 じゃあ早乙女は学校に来ているということか?
 分からない。分からないけど異様な感じだ。
 するとクラスのみんなはその健一の言うことを信じて掲示物のところへ駆けて行く。

 普通なら序列三十位の健一ことなんて信じないのに。
 今回ばかりはみんな必死だ。
 僕もつられるようにみんなに付いて行った。
 一体何があるのか。何が貼りだされているのか。
 理由は分からないけど何かが分かるかもしれない。

 そして、掲示物の前には人が集まっていた。
 二年F組だけではない。違うクラスメイトもその珍しさに来ていた。
 すると、宮晴がそんな人たちをどかしながら前へと進んで行く。

 僕らも貼りだされた掲示物を見るために前へと行く。

 だが、それを見た瞬間に僕も含めてクラスメイトたちは唖然とする。

『みんないきなり学校に来なくなってすみません。みんなのことは好きだったけど私は少し休むことにしました。理由はこの掲示板に少しずつ貼りだしていこうかなと思います。早乙女美音』

 ……え? これって。クラスメイト全員がこの謎のメッセージの意味が分からない。
 と言った印象。僕だって何が伝えたいのか。どうしたいのか。
 理由が分からないものほど怖いものはない。

 誰かのイタズラかと思う人もいた。
 だけど、この字はまさしく早乙女のもの。
 きれいでしっかりとバランスのいい活字。
 彼氏の柴崎がそう言うと一同は納得する。

 誰よりも一緒にいる柴崎がそう言うんだから仕方がない。

 だけど、このメッセージがなにを意味するのか。
 この時は誰もピンとこなかった。
 担任の先生も気にしないようにと僕たちに伝える。
 でも、恐らくみんなの心の中には埋め込まれただろう。

 これから何かが起こる。という事実に。

「とんでもないことになったな、昴」

「うん……」

「あれが早乙女自身が書いてあそこに貼りだしたとなると……一体どんな意図があるんだろうな」

 僕はそれは気になる。だけど、真相はまだ分からないと思う。
 まずは気持ちの整理が一番大事だと僕は思う。
 すると健一は僕の肩にポンと手を置いてくる。

「まあ、正直のところお前への虐めが軽くなってよかったんじゃないか? 早乙女には悪いけど俺もお前の表情がよくなって嬉しいぜ」

「それは、そうだけど、早乙女にも色々助けて貰ったし」

「もしかすると、早乙女は……いや、何でもない!」

 何か言おうとした健一。
 だけど黙り込みその後は適当にはぐらかす。
 本当に最近の健一はおかしい。何か変なものでも食べたのかな?
 しかし僕は嬉しかった。健一が僕のことをこんなにも思っていてくれるてるなんて。

 早乙女のことはショックだけど健一の言葉で救われそうだ。

 この後。結局、学校全体で問題となった。
 だけど、真相は分からず誰かのイタズラという形で片付けられた。
 警察も動いていると聞いたが、解決には繋がっていない。
 あの日以降から掲示板にあの貼り紙が貼りだされることもなくなった。

 一か月経った頃。僕も含めてみんなからあの出来事は記憶からなくなりつつあった。
 相変わらず、早乙女が学校に来なかった。
 だけど、亡くなった訳ではない。いつかまた笑顔で学校に来てくれるだろう。
 みんなそんな思いで待っていた。

 だけど、悲劇は突然と起きることとなる。

「こ、これって……」

 あの日からちょうど一か月。僕たちはまた早乙女からのメッセージを受け取ることになる。
 掲示板に貼りだされていたのはあの日見た早乙女の文字。
 しかも、今度はちゃんと明確にはっきりとした内容。
 息をのむようにそれを見ていて僕はそれを見て信じられなかった。

 何故なら……。

『羽黒健一君へ 羽黒君は序列がそんなに高くなくてもクラスのムードメーカーだったりで元気一杯だったね。正直、羨ましかったよ。だけど……自分の気持ちには正直になった方がいいと思うよ。それは羽黒君の友達の国上昴君にもね。早乙女美音より』

 な、なにこれ。僕はこのメッセージを見て驚愕する。
 僕だけじゃない。クラスメイト全員が。
 そして、誰よりも驚いているのは当然にこのメッセージをおくられた張本人。

「な、なんだよ? お、俺がなにをしたって言うんだ?」

 これが最初の早乙女が個人に送るメッセージだった。
 そしてこの後。僕たちは知ってしまう。
 健一の黒い部分。何処までも続く闇の部分を。

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