天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第258話 王宮を出発。


ーーーーーー

  キャロリール王女による式典は、勝利と平和を手にした瞬間を国民全体で祝う様にして盛大に行われたのである。

  特に、王女が戦争の終結と平和宣言を告げた途端、首都リバイルは街ごと揺れた。

  涙する者、歓喜で踊る者、そんな全ての人々の思いが入り乱れ、国家は更なる発展を遂げる事がすぐに理解出来るのであった。

  国民の表情ひとつひとつを王宮の最上階にある広間から見つめていると、今まであった出来事全ては夢であったのではないかという錯覚に苛まれる。


ーーこんな景色、日本にいた時には見れなかったんだろうな......。


  そんな風に詠嘆に浸る俺の姿を見た桜は、ほんの少しだけ寂しそうな顔を見せながら、心なしか俺の手を強く握った。

  彼女の手の温もりを感じた時、この時がリアルタイムで現実で起きている事なのだと、自覚するのであった。

  気がつけば、新体制の襲名式や俺達への褒賞授与式は粛々と終わって行った。


  あまりにも一瞬で。

  沢山の人々の思いをよそに......。


  そして、今は全てを終えて王宮内にある控え室にて休憩を取っているのであった。

「終わっちゃったね」

  キュアリスは今にも泣きそうな表情を浮かべた俺に対してそんな言葉を口にした。

  俺はそんな彼女の一言に対して、小さく頷く。

  目の前に見える大荷物が俺達の別れを象徴したように見えて、さらに哀しみを引き立てるのであった。

  そんな中、葉月はまるで切り替えた様に世界地図を広げてシュワール国へのルートを再確認しているのであった。

  それを見た優花は、若干の中二病を発症させながらこんなことを言う。

「こ、これは、まさに魔都へ続くワインディングロードという訳だな......」

  優花のどうしようもない発言に対して、桜は興味津々な表情で駆け寄る。

「すごい! ワインディングロードって何?! なんかカッコいい! その、ワインディングロードって言うのは、強いの? ワインディングロード......」

  ワインディングロードという響きがやけに気に入った桜の連呼に対して、優花は途端に恥ずかしくなった様で彼女を抱え込むと、

「別に、なんでもないからっ!!!! 」

と叫びをあげながら、無理やり口を塞いだ。

  二人のやりとりを見た葉月は、すっかりルートの確認を終えた後で、ニコッと笑いながら優花対して、

「ワインディングロードの探索は終わりましたよ」

と、追い討ちをかけたのである。

  すると、優花は顔面を真っ赤にしながら、

「葉月さんまで!! もうやめてーー!!!!」

と、まるで自分の発言に懺悔しているかのごとく叫び声を上げてのたうち回るのであった。

  俺は、そんな三人のやり取りを見た後で、ゆっくりと隣にいるキュアリスに視線を移した。

「ほら、もうみんなすっかり切り替えてるよ。多分、無理やりな部分も沢山あるんだろうけど......。だから、最後は笑顔でこの国とバイバイしよう」

  キュアリスがかけた優しい言葉を聞くと、俺は情けない表情を一度叩いて、強く自分を引き締めた。

「そうだな。これから、俺達は世界を救うんだ。ここで弱ってたらどうしようもないよな」

  そんなやり取りを終えると、ドアのノック音が聞こえた。

「それでは、これから国家を出発します」

  そう言って、凛とした顔をしているのは、特殊異能部隊で俺の後任として隊長を任される事となったリュイであった。

  国家への多大なる功績として、俺達は旅に必要な金貨を受け取り、同時に最初に渡航する事となる港『ナミル』までの送迎を約束されていたのである。

  その先導として、リュイを初めとする特殊異能部隊の数名、加えて新たにその地へ異動するミルトが任されていたのである。

  俺はリュイの一言を聞くと、笑顔で皆に告げた。

「じゃあ、行くとしようか」

  それを聞いた他の四名は小さく頷いた。


ーー結局、キャロリール王女は式典を終えた後、一度も俺達の下を訪れる事はなかった。


  面会を望んでも、決して応じてはくれなかった。
 
  だが、昨晩ひっそりと行われた晩餐会の時、彼女は別れを惜しんで人目も気にせずに号泣していたのを見ていた。

  それが象徴するように、きっとキュアリスを始めとする俺たちと離れるのが辛いからであろう。

  俺はそんな風に都合よく解釈すると、若干のモヤモヤを抱えながらも、名残惜しい気持ちを抑えつつ王宮を後にしたのである。

  同時に、少しだけ前を見なければいけないんだと思ったのであった。


ーーそして、用意された馬車に五人で乗り込むと、そこには小さな体の少女が一人座っていた。


「待ちくたびれておったぞ!! いつまで待たせるんじゃ!! 」

  そんな彼女の一言を聞くと、俺はポカーンとした。

「王女、なんでここに......」

  俺が素っ頓狂な口調でそう問いかけると、彼女はこう返答したのである。

「当たり前だ。あんたらを港まで送迎する為に待っておったのだよ!! もう最後だ。それくらいさせてくれたっていいであろう......」

  彼女のそんな発言を聞くと、俺達はどれだけこの国家に愛されていたのかを理解した。

「全く......。王女殿下は相変わらずですね......」

  葉月はうんざりした口調でそう呟いてはいるものの、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。


ーー同時に、隣に立つキュアリスに視線を移すと、彼女はキャロリール王女のサプライズに対して肩を震わせていた。


「王女、これで本当にお別れなんですね......」

  旅立ちの日程が決まって以来、一度も泣いていなかった彼女は、そこで初めて涙を見せた。

  俺はそんな風に感傷に浸るキュアリスの背中を少しだけ摩ったのをキッカケに、馬車は動き出した。


ーーシュワール国へと続く旅は、今ここから始まったのである。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く