天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第257話 出発の前夜。


ーーーーーー

  俺とキュアリスによる異世界デートの日から、時間はあっという間に流れていった。

  首都リバイルにおいては、戦争による緊張状態から解放された事で、街全体が活気付いた様にも思える。

  これまでの濃密な時間から一転して、しばしの休息となった数日間は、驚くほど速く流れて行くのだ。

  隣にいるキュアリスや桜、それに優花は、俺がそんな風にセンチメンタルな気持ちに浸っているのを気遣ってか、街の方へと遊びに連れ出してくれた。

  みんな笑顔だった。

  もう二度と見れないかもしれない程にキラキラに輝いた笑顔だ......。

  俺はそんな三人に後押しされて、小さく微笑んでいたと思う。

  こんなにも愛する人達に囲まれて、俺は幸せだと改めて実感したのであった。


ーーそして、時は過ぎ、身支度をほぼ終えた『特殊異能部隊』の食堂では、最後の晩餐とも取れる宴が行われていたのだった。


「お主らのこれからを祈念して、乾杯」

  少しだけ名残惜しそうにそう音頭を取ったのは、この施設に訪れたキャロリール王女であった。


ーー彼女は、出発を明日に控えた俺達を、どうしても最後に送り出したいと、王宮の制止を振り切ってやって来たらしい。


  そこで、急遽部隊の皆と共に歓迎の支度が成され、簡素ながらもささやかな宴の開催に至ったのだ。

  乾杯の音頭ともに、食堂全体からは寂しさの入り混じる『乾杯......』という声が疎らに聞こえるのであった。

  そんな中、キャロリール王女がこの場所に連れて来た意外な人物に視線を向けた時、俺はほんの少しだけ泣きそうになったのであった。

  一人はグリンデルだった。この世界に来て、感謝してもしきれないほどの恩を感じる彼だ。

  俺は、彼と暫く会っていなかった。
  彼が操られて剣を交えたあの一戦以来......。

  だからこそ、話したい事、感謝したい事は沢山あったのである。

「久しぶりだな、グリンデル。俺は、お前のお陰でこの世界で生きて来れたと思っている。感謝しかないよ」

  俺が彼に向けてそう言うと、グリンデルは真っ先にこんな事を口にした。

「そんな事はない。我は、お主に牙を剥いた。我々を救って頂いた恩人に対して、そこまでの無礼を働いてしまった事、謝罪申し上げる......」

  俺は、そう言って俯く彼に対して、小さく首を振ると、肩に手を置いてこう返答したのである。

「そんな事、全く気にしてないよ。俺はお前に感謝してもしきれない程の恩があるんだからな......」

  そんな一言を聞いたグリンデルは、顔を上げると小さく微笑み、

「かたじけない......」

と、優しい口調で呟いてその場に膝をつくのであった。


ーーそして、もう一人は......。


  少しだけこみ上げる感情を抑えながら、ゆっくりとその者に近づくと、小さな声でこう呟いたのである。

「悠馬、足、本当に治ったんだ......」

  震え声でそう言うと、彼は一歩、また一歩と確実な足取りで俺に向かって歩き出したのであった。

「ああ、葉月の『異能』を用いた手術のお陰で、もうすっかり元通りになったよ。こんな風にまた、自分の足で歩ける日を夢見ていた。この恩に報いる為にも、俺はこの国に忠誠を誓った。腐りきった俺を助けてくれてありがとな、雄二......」

  彼は、はにかんだ笑顔でそう返答すると、深々とお辞儀をしたのであった。


ーー昔と変わらない笑顔で礼を述べる彼の一言で、俺は耐えられなくなった。


  止められない涙を無理矢理に抑えながら、心の中で何度も何度も感謝の言葉を呟いた。

「これからは、聖騎士として『ベリスタ王国』を頼んだぞ......」

  俺が彼にそう嘆願をすると、悠馬は笑顔で頷いた。

  そして、王宮での晩餐会と比べるとあまりにもひっそりとした宴は静かに始まった。


ーー何処と無く悲しみを帯びた宴が。


  みんな、これまでの生活とは一転して、違う道へと進んで行く。

  グリンデルも悠馬も、『特殊異能部隊』のみんなも、そして、俺達も......。

  それは、誰もが心の中で抱く不安である。


ーーだが、この国はもう平気だ。たとえ、俺やキュアリスや葉月がいなくとも......。


  確固たる自信と、その先の未来を暫く見れない淋しさが混沌とする心の中で、俺は『ベリスタ王国』を去る前の最後の晩餐に無理やり笑ってみせたのであった。

「ありがとう......」

と、涙ぐみながら聞こえるか聞こえないかの声で小さく呟くキュアリスを横目に......。

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