天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第256話 もう一つの転移。


ーーーーーー

少年は自分が想像したよりもずっと非現実的なその世界に、言葉を失っていたのであった。

「ここは、一体......」

目の前に広がるは、少し靄がかった歪な環境、それに、古びた街並み。
歩く人々の髪色は、日本では考えられない程にバリエーション豊かであった。

そんな光景に対して、少年は異世界に転移してしまった事を何処かで理解した。

それから暫く街を歩いていると、決定的に彼を不安にさせる出来事が起きるのであった。

街の中心と思われる広場に見えた人だかりである。

何があるのか全く理解出来ない少年は、人混みを掻き分けてその野次馬の原因を目にした時、絶句したのである。


ーー何故ならば、そこには縄で縛られて四肢の自由を奪われて泣き叫ぶ、男女四人がまるで見世物の様に人だかりの前に並べられていたからである。


彼らの隣に毅然とした態度で立つ執行人とでも言うべき軍服を纏った兵士は、受刑者と思われる人々の首元に剣を向けている。

「それではこれより国家、並びに、主神であるワンドール様に対する謀反の罪による四名の死刑を執行したいと思う」

胸元に多くの勲章と思われれるバッチを付けた体格の良い中年が野次馬に向けてそう宣言をすると、辺りからは歓声が湧いた。

「裏切り者に成敗を!! 」

「ワンドール様に万歳!! 」

その様な声を耳にすると、少年は耳を塞いだ。


ーー今、何が起きているんですか......?


彼が動揺しているのも束の間、掛け声と共に兵士の構える剣は、勢い良く彼らの首元を切り裂いたのである。


ーー同時に、先程まで泣き叫んでいた受刑者は声はあっさりと消え、彼らの首はあっけなく地面へと落ちていったのである。


同時に、再び周囲は湧き上がった。

「ざまあみろ! この裏切り者が! 」

「我々は、死しても許さんぞ! 」

それを見た少年は、呆然としていた。


ーーあまりにも一瞬で人の命が奪われた瞬間を目の当たりにして......。


それから、自分の好奇心に後悔し、浅はかな行為に呪ったのである。

何故、あの時、彼女達を追いかけてしまったのであろうかと。

その最中、海の見える公園で突如として現れた『歪み』に足を踏み入れてしまったのかと。

同時に、自分の好奇心、それに、これまで感じた事のない内から感じる強い力にのぼせ上がっていた事に......。

「僕が思い描いていた異世界とは、この様は悲劇ではありません......。優花は、こんな危険な世界で戦っていたのですか......」

彼は、兵士によって乱暴に拾い上げられた生首を見ると、口元を覆いながら街から逃げ出すと、人のいない林の中で思い切り吐いたのであった。

「僕はなんて馬鹿なんですか......」

心臓の鼓動が早くなる胸を押さえながら、余りにも衝撃的な瞬間に対して息を荒げて彼はそんな言葉を絞り出した。


ーー早く帰りたい。どうしたら帰れるのですか。神様、何でもします。だから、僕を日本に帰してください。


少年が何度も心の中でそう叫び続けていると、もたれかかる大樹の背後からは、落ち葉を踏みしめる足音が彼の元へ近づいて来たのである。

その音に気がついた彼は、これまでに感じた事のない恐怖から、震えが止まらなくなった。


一歩、また一歩と真っ直ぐに少年へと向かうその足音に......。


ーーそして、その音が彼の真後ろで止まった時、彼の背後からは低い男の声が聞こえたのであった。


「待っておったぞ......」

そんな奇怪な発言に対して、少年はゆっくりと探る様にして振り向いたのである。


ーーすると、そこにいたのは、全身真っ黒なコートを身に纏い、民族風の仮面で顔を隠す一人の男がいたのである。


半泣きの少年とは裏腹に、その男は妙な落ち着きを見せていた。

加えて、何故か少年は安心感を抱く。

例えるならば、母親に抱きしめられた様な感覚であった。

そんな、初めて会った訳ではないと錯覚を起こす不思議な感覚に対して、彼は少しだけ落ち着きを取り戻した。

「ここは一体、何処なんですか......? 」

辿々しい口調でそう問いかけた少年に対して、仮面の男はゆっくりとその場に座り込むとこう返答した。

「私の名は、ワンドール。些細なきっかけから、『シュワール国』の主神をやるものである。先程は見苦しい光景を見せて申し訳無かったの。少年の名は、ヒロと言ったな。実は、この世界に君を転移させたのは、紛れも無い、私なのだよ......」

優しくも落ち着く声で説明をされた少年は、何故、彼が自分の名前を知っているかの疑問すらも忘れて不思議な魔力とも取れる安心感に全身を支配される。

故に、本能的に彼を信頼したのであった。

それから、こんな問いかけをした。

「あなたが僕をこの世界に転移させたのはよくわかりました。という事は、優花とも関わりがあるという事ですか? とりあえず僕は、彼女が心配なんです。だから......」

少年が口にした一言に対して、ワンドールは遮断する様にして彼の頭を撫でた。

「とりあえず、こんな場所で話をしても仕方がない。これからの話は、ゆっくり我が宮殿で話すとしようではないか......」

彼はそう返答をすると、ゆっくりと彼の目の前に手を差し出した。

少年は、そんなワンドールをジッと眺めると、恐る恐る手を取ったのである。


ーーすると、目の前には先程見た『歪み』が突如として現れた。


そして、ワンドールが「じゃあ、行くとしようか」と発言すると、二人は『歪み』の中へと足を踏み込んだのである。


ーー少年の選択が、これから世界を巻き込む程の悲劇をもたらすとも知らずに......。

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