天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第254話 観覧車と告白。


ーーーーーー

  多くのカップルが並ぶ観覧車の入り口で、俺は黙りながらその巨大な円形の建造物に見惚れていた。


ーー日本に戻って来て、俺は多くの『初めて』を経験した気がする。


  孤独という名の呪いから解き放たれた時、見慣れた街の景色すらも輝きを持って五感に刺激を与えるのだ。

  今まで、こんなにも美しい光景から目を背けていたかと思うと、いかに自分が浅はかな事をしていたのかを痛感させられた。

  だがきっと、そんな感動は決して自分だけでは感じられなかったであろう。


  だからこそ、美しく感じるのだ。


ーー今、目の前にいるキュアリスは何にも負けない輝きを放つ。


  目を覆いたくなる程に健気な笑顔を俺に見せる。

  そんな彼女と積み上げて来た日々を克明に思い出しながらも、俺はチケットを購入すると彼女をエスコートした。

「じゃあ、最後にこの街を一望したら帰ろうか.......」

  俺が少し寂しげな口調でそう促すと、同様にキュアリスは佗しそうな笑顔で「うん......」と返答した。


ーーいつまでもずっと、こんな時間が続いて欲しい。終わって欲しくなんかない。


  本心からそう思うと、俺はゆっくりと観覧車内部のシートに腰掛けたのであった。


ーー「それでは、お気をつけて行ってらっしゃい! 」


  そんな係員の合図と共に......。


  少しずつ観覧車が上昇するにつれて、対面のキュアリスは窓から見える夜景に目を輝かせていた。

「うわ! 上がってる! すごいね! 」

  彼女の興奮した口調に対して、俺は口元を緩めた。


ーー今日のデート、ひとまず成功って事で良いのかな。


  次はいつ行けるのかな。俺はこれから、彼女とどうなりたいのかな。

  もっとずっと一緒にいたい。平和な世界で永遠に笑い合っていたい。

  だって、そう思える程好きになった人なんて、キュアリスしかいないのだから......。

  俺はそう思えば思うほど、たった十五分の乗車時間に胸がチクチクとした。


ーー今は夜景なんて見ていない。


ーーだって、それよりもずっと綺麗なキュアリスがいるのだから......。


  感情は次第に全身を支配する様に増幅して行った。

  そして、胸元に輝く真っ赤なネックレスが街明かりに反射した時、俺は抑えられないこの気持ちを吐き出した。

「キュアリス、ちょっと良いかな......? 」

  俺がそう問い掛けると、彼女は窓の外からこちらに視線をずらした。

「どうしたの......? 」

  少し首をかしげるキュアリスを見ると、心拍数は上がって行った。

  それから暫く、俺は俯いて黙り込んだ。

  すると彼女は何かを察したのか、「ちょっといい......? 」と呟いた。

  俺は、そんな彼女の発言に顔を上げる。


ーーそこで自分が一切予想だにしていない出来事が起きたのである。


「ちょっと恥ずかしいけど、私をデートに誘ってくれてありがとう。こんなに幸せな経験をしたのは、生まれて初めてだった」

  そんな声と共に、俺の左肩からはシャンプーの甘い香りと暖かい温もりを感じたのである。


ーー突然の事に慌てながらも隣に視線をずらすと、俺の方にキュアリスが幸せそうな顔でもたれ掛かっていたのである。


  同時に、何故か煩わしさを感じていた緊張感は一瞬で消え去って行った。

「俺だってそうだ。この世界がこんなにも楽しくて美しいなんて、初めて知ったんだから......」


ーーそんなやり取りが足早に終わると、暫く静寂が続いた。


  だが、特に息苦しさを感じる事はない。

  それ以上の幸福があるから。


  同時に、先程言いかけた気持ちが再び脳内を支配した。


  そして、観覧車が丁度てっぺんに到達した時、俺は少しだけ顔を赤らめる彼女に遠目でこう言ったのである。


「これからも俺と一緒にいてくれないか? 俺はお前が好きだ......」

  遠目でそう言うと、彼女は途端に顔を真っ赤にして慌てて俺から離れる。


ーーやべ、やっぱり告白するには早かったかな......。


  そんな風に内心落ち込んでいると、俺から顔を背けて明らかに動揺しながら「まさか、こんなに早く......」などとブツブツと何かを呟いたキュアリスは、勢い良くこっちへ振り向くと、満遍の笑みでこう返答したのである。

「わかった! 私も雄二が大好きだよ!じゃあいつか世界を救った時、結婚しようね! 」

  純粋無垢な笑顔で俺の告白に了承した彼女を見ると、内心ホッとする。

「そう言ってくれて、本当に良かった......」

  俺がそうしな垂れたくなる程の安心感を感じると、今ある状況をはっきりと噛み締めた。


ーーキュアリスも、俺の事を好きでいてくれたんだ。


ーーこんな俺なんかと結婚してくれるんだ......。


ーーって、えっ?!


「キュアリス、い、今、け、結婚って......」

  俺がそんな風に動揺しながら彼女の口から間違いなく出た『結婚』という言葉にテンパる。

  すると、彼女は誰にも負けない最高の笑顔で首を傾げた。

「あれ、今、そう言ってくれなかったっけ......? 私も少し早いとは思ったけど、やっぱり雄二しかいないって気持ちはずっと変わらないって思ったから。それなら、受け入れても良いかなって......」


ーー俺は一点の曇りもない口調でそう返答したキュアリスをマジマジと見つめる。


ーー正直なところ、俺は『結婚を見据えたお付き合い』的な意味合いで告白したつもりでいたのだが、彼女はそう捉えていなかった様だった。


  俺も彼女も、まだ十七歳。
  まだ、未来を見据えられる様な歳ではない。

  だが、いつかそんな未来を無意識で望んでいた俺にとって、拒否する必要は一切ないとその時思った。

  それと同時にいつか世界を救った時、俺と彼女の下にこれ以上にない幸せな日々が訪れる事に胸が湧いた。

「俺もずっとキュアリスと一緒にいたい。だから、約束する。世界を救ったら、俺と結婚してください......」

  俺がそう力強い口調でそう右手を差し出すと、彼女はニコッと笑ってその手を取った。

「うん。いつか、絶対に幸せな家庭を築こうね」


ーー俺はそんなキュアリスの返事に心の底から喜びを表現した。


ーー少しの誤解が好転して、俺は何故か彼女に告白するつもりが『婚約』まで成立させてしまったのであった。

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