天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第253話 元英雄が守りたかったもの。


ーーーーーー

  先程、写真を撮ってくれた紳士的な老人は、献身的に園内を案内してくれている。

  どういう経緯なのかは分からないが仲間と思われる凹凸のある身長の五人組を引き連れながら。


ーー彼らのシルエットは、何処かで見た事がある様な気がして強く親しみを持てる。


  しかも、先頭を歩く男性はやけにこの海沿いに聳えるパーク事情に詳しかった。

「あのお化け屋敷には本物が出る」だとか、「先に展示されている船は、実際に数十年前に渡航経験がある」など豊富に知識を披露してくれた。

  俺はそんな老人の説明を食い入る様に聞いていた。近くにあるにも関わらず一切所縁のなかったその遊園地の情報に興味津々になって......。


ーーどうやら外国人であるその彼のご厚意に甘えているのである。


  だがそんな中、キュアリスはずっと苦笑を浮かべていた。

  彼女が何を考えているかは分からない。


ーーしかし、どうやらマイナスな考えを持っている事だけは強く理解出来た。


  キュアリスは、まるでカップルを暖かく見つめるかのごとくニヤニヤとする小さな老婆二人組をチラッと見てため息をつく。


ーーもしかしたら、カップルって思われて恥ずかしかったりするのかな......?


  俺はそんな事を考えていると、何となく彼らと共に行動するのがあまり良くない事なのではないかと思い始めた。

「色々と案内してくれてありがとう。これ以上は迷惑だろうから、ここまででいいよ」

  パークを隔てる様にして架かる大きな橋の上を歩いていると、俺は老人にそう告げた。


ーーすると、彼はニコッと笑顔を見せた後で、

「そうじゃったか。ならば、後は若いカップル同士で楽しむがよい。それではの......」

と返答してその場から立ち去っていった。


  俺はそんな彼に深々と頭を下げると、「ありがとうございました」ともう一度お礼を述べた。

「良い人だったな。なんだか、この世界にもあんなに優しい人がいるなんて、気づかなかったよ」

  しみじみと俺がそう呟くと、キュアリスはジト目をして呆れた口調でこう返答した。

「うん、それはそうだよね......」

  キュアリスは何故、こんなにも微妙な雰囲気を醸し出しているのか俺は全く理解出来ない。

  だが、どちらにせよこの空気は変えねばと思った俺は、彼女にこう問いかけた。

「次は、何に乗りたい? 」

  そう問いかけると、彼女は少しだけ機嫌を取り戻したみたいで笑顔を見せると、ゆっくり手を伸ばしてある場所を指差した。

「あれに乗りたいなぁ......」

  彼女が指差した先を辿る様にして俺が上を見上げた。

  その後で小さく微笑むと、頷いた。

「分かった。あそこから見える景色は、最高だと思う。きっと、キュアリスも喜んでくれるはずだよ」

  俺はそう言うと、そこへと向かったのである。


ーーこの遊園地で最も人気のある、夜景を一望出来る大きな観覧車へと......。


ーーーーーー

「もう、絶対キュアリスにバレてたよ? 」

  優花はあまりにも分かりやすい変装セットを取ると、リハスにそう注意をした。

  リハスはそんな優花の発言を聞くと、まるでこの街を象徴する様にネオンを放つ観覧車を見つめた。

「まあ、最終的に二人が幸せになってくれれば良いってもんだよ......」


ーー彼はそう返答すると数百年前、ある女性と約束した言葉を思い出していた。


ーー「この世界を救ったら、俺と結婚してくれ」ーー


  リハスが決意とも取れる口調で放った言葉は、決して叶う事が無かった。

  彼は『英雄』として世界を救った。


ーーだが、たった一人の大切な人を守る事が出来なかったのだ。


  彼にとって、命に代えてでも守りたかった女性を......。

  彼女が死んでからは、まるで世界に取り残された様な焦燥感に駆られた。

  何度も頭の中で彼女の言葉がこだまする。


ーー幾ら考えない様にしても、それが消える事は無かった。


ーー「リハスは無茶しすぎなんだよ」

「あなたはもっと、自分の事も考えなきゃダメだよ」

「たとえ世界中の誰があなたの敵になったとしても、私だけはずっと味方でい続けるから」ーー


  優しくて、おっちょこちょいで、泣き上戸だった彼女を、リハスは愛していた。

  ずっとずっと、彼の心を支え続けていた。


ーーだから、いつか幸せな時が来ると信じてやまなかった。


ーーだがそんな淡い期待は、世界の崩壊と共に無残な形で散っていったのである。


  リハスは、彼女の最期を見届けた。

  暴走する神によって放たれた、まるでこの世の終わりを告げるかの様な一撃を一身に受けて散って行く彼女の姿を......。


ーー彼女は死の淵でリハスの胸の中で弱々しく震えながら小さく微笑んでいた。


  その表情は、彼女の人生そのものを象徴していた。

  最期まで優しい顔をしていた。

  そして、死に際に放った一言を彼はこれから先も永遠に忘れないであろう。


ーー「リハス、愛しているよ......」ーー


  彼は、数多の戦いを支えてくれた彼女との関係を雄二とキュアリスの二人に投影していた。


ーー気がつけば、色鮮やかに変化をつけるネオンは滲んで行った。


「あれ......? どうしたの......? 」

  桜が心配そうな口調で彼にそう問いかけると、リハスは慌てて目元をゴシゴシと摩った。

「な、なんでもないんだ! それよりも、せっかく日本に来たんだ! 『ベリスタ王国』へ帰還する前に、すき焼きという鍋をご馳走してやろう! 」

  彼がそう促すと、桜と王女は全身で喜びを表現していた。

「やったー! その『スキヤキ』って食べ物、前に雄二が言ってたけど、すごく美味しいんでしょ?! 」

「リハス、でかしたぞ! 王女として、褒めてつかわす! 」

  そんな風に湧き上がる皆を見つめながら、リハスはこう思った。


ーー雄二君、俺の様になってはダメだぞ。


  何にも代えられない掛け替えのない存在を、絶対に守るんだ。その為なら、出来る限りのサポートをさせて貰う。

  君のためにも、俺の為にも......。


  彼はそう心で呟くと、はしゃぎ倒す彼女達を連れて遊園地を去って行くのであった。

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