天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第252話 絶対に嫌だ。


ーーーーーー


ーー「ここで起きた出来事は、絶対に雄二君に言わないでくれよ」

  キュアリスは少し前に突然起きた出来事を回顧すると共に、『異世界の料理店』店主の放った一言を思い出していた。

  彼は何故、日本にいたのだろう。

  優花は誰と戦っていたのだろう。

  はるか遠い国で、一体何が起きているのであろうか......。

  海上で爆風が吹き荒れる時、隣にいる雄二は動揺とともに救助に向かおうとしていた。

  右手に光を纏いながら......。


ーーだが、店主はそれを止めた。


「楽しい、初々しいピカピカなデートの最中に、を煩わせる訳にはいかない」

と言って、果敢にも二人の制止を始めたのである。

  そこで、神の使いである彼の強さを目の当たりにしたのである。


ーーあまりにも一瞬にしてその場を収めてしまった彼の強さを......。


  彼はその後、騒然とする辺り全体に記憶消しの『魔法』をかけた。

  結果的に、慌てふためく群衆と同じ様に雄二は先程起きた突然の出来事の記憶を失ったのである。

「あれ......? 俺は一体何を......」

と言って、何事も無かったかの様にデートを再開したのである。

  そこで、彼女は疑問に感じる。


ーー何故、『英雄』の資格を持つ彼は何も覚えていないのだろうと。


  加えて、何故、仲間である私達は全てを忘れないのだろうかと。
 
  もしかしたらこの先、もっと沢山の悲劇が訪れるかもしれない。

  そうなった場合、記憶喪失を起こす様な出来事など、幾らでもあるかもしれない。


  その度に、雄二は思い出す事が出来ない。瞬間であった全てを忘れてしまう。


  下手をすれば、生い立ちからこれまでに築いて来た関係すらも、全て忘れてしまうのかもしれない。


  私のことだって......。


ーーまるで、最初から出会った事実など無かったのかと錯覚を起こす様な......。


  そんなのは絶対に嫌だ。


  キュアリスはぎこちなく遊園地へと先導する彼を見てそう思うと、胸が締め付けられるのであった。


ーー私は、絶対に雄二を失いたくなどない。だって、私は......。


  心の中で本音を何度も呟くと、キュアリスはなんとなく感じた気配から、チラッと背後を振り返る。


ーーすると、街路樹の影から店主を始めとする見慣れた面々がニヤニヤとしながらこちらを見つめていた。


  しかも、ズボラな事に何かを企んでいる様な表情で彼女に見つかった事に気がついていない様子であった。


  やっぱり、こっそり私達のデートを覗き見していたんだ......。

  彼女はそう思うと、ほんの少しの照れを感じながらも一つため息をついて、今ある幸せな時間に酔いしれて視線を前方に戻した。

  そんなキュアリスに対して、雄二は首を傾げながらこう言った。

「どうした? 後ろに何かあったか......? 」

  彼の問い掛けを聞いたキュアリスは、ふと我に返って、

「何でもないよ! 」

と明るく言いながら胸に光る真っ赤なペンダントを握り締めた。


ーー私は今、幸せだ。


ーー大好きな人の故郷を二人で歩いているんだから。で、デートをしているんだから。


  その喜びに浸ると、夕暮れに照らされる観覧車を眺めながら、彼女ははぐれない様に後ろをついて行くのであった。


ーーーーーー

「まずは彼らの遊園地にて、二人のツーショット写真を撮ろうと思うんだ! 思い出はプライスレスだからな! 」

  暑苦しいテンションでそう提起したリハスは、全員に変装を施した。

  全身黒のパーカーにサングラス、髭に帽子と、分かりやすく怪しい格好である。

  そんな連中が六人もゾロゾロと歩いていると、逆に目立ってしまうのではと優花は思う。


ーーしかもご丁寧に、彼は一眼レフのカメラを手にしている。


「そのカメラ、どこで調達したの......? 」

  優花がため息をつきながらそう問いかけると、リハスはハイテンションでそれに返答をする。

「せっかく二人が甘酸っぱい思い出作りだというのに、頭の中だけに残すなんてもったいないだろ! だから、前乗りして買っておいたんだ! この変装用の服もその時......」

  彼女はそれを聞いて思った。
  

ーーリハスがわざわざ出発までの間、三日もの時間を要したのは、彼がベストな状態で尾行する為の準備期間であったのだと。


「ストーカーに盗撮なんて、この国の法律だと捕まっちゃうよ......」

  やれやれと言った表情で優花がそう注意を促すと、彼はニヤッと笑って全く気にしていない様子だった。


「何これ! 綺麗に絵が撮れるの!? 凄い! 桜の事も撮って! 早く早く! 」

  そんな風に初めて見るカメラに興味津々な桜をパシャパシャと撮り続けながら......。


ーーするとそんな時、パーク内に架かる小さな橋の上で立ち話をしている雄二とキュアリスを見つけたリハスは、やけに精悍な顔つきをして彼らを指差した。


「それでは、作戦を実行に移すとしようか......」

  彼はそんな言葉を言い残すと、カメラを片手に二人の元へ走り出した。

「そこのアベック、良かったら一枚写真を撮らせてくれんかの......」


ーーリハスがわざとらしい演技をしながらカメラを構えると、キュアリスは完全に苦笑いをしていた。


  それを見た優花は、こう思った。


ーー絶対気づかれてるじゃん。


  対照的に、何も気づく事なく顔を真っ赤にしながら震えた手でピースを決める兄にため息しか出ない優花なのであった。


ーーお兄ちゃん、流石に気付こうよ。


  そんなことを思いながら......。

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