天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第250話 一生の宝物。


ーーーーーー

  俺は、何となく少し前の記憶が抜き取られた様な錯覚を胸に抱きながら、キュアリスと共に煉瓦造りの観光施設内部にある雑貨屋に並べられた商品を眺めていた。

「凄い! この世界には、こんなにも多くの装飾品があるんだね! 」

  彼女は、棚の上に並べられたネックレスのコーナーに近づくと、幾千の星空にも負けない程の満天の笑顔で目を輝かせていた。

  その中で、紅く輝くネックレスを手に取って、冗談です首元に当てがっている。

  俺は、素直に思った。


ーー余りにもキュアリスに似合ったそのネックレスは、まるで彼女の為だけに作られたのではないかと。


  少し潤んだ真っ赤な瞳と相まって、真紅のジュエリーは意識を取り戻して生き生きとしているようにも思えた。

「雄二、どうかな? 」

  ぼんやりとしながら美しさを増した彼女に見惚れていると、キュアリスはそう問い掛けた。

  そこでハッと我に帰り、慌てて目を逸らした俺は、頬を赤らめながら、

「とても似合ってるよ......」

と、言葉少なめに返答をする。

  すると、キュアリスは優しい眼差しを俺に向けて、ふんわりと微笑を浮かべると、

「ありがとう......」

と、小さな声で呟くのであった。

  何となく、それから暫くはお互いが目線をずらして、会話は途切れた。

  正直、どうしていいか分からなかった。

  本当なら、もっと絶賛したかった。「誰よりも輝いて見える」とか臭い事も言いたかった。


ーーしかし、弱気な俺は、それ以上の事を言えなかったのである。


  そんな中、静寂が辺りすら包み込む気まずさに痺れを切らしたのか、キュアリスはあからさまに取り繕った素振りを見せながら、

「じ、じゃあ、他の店も回ろうか! 」

と言って、手に持っているネックレスを棚に戻そうとした。

  だが、俺はそんな彼女を制止して、遠くを見つめながら右手を出したのである。

「今日、俺に付き合ってくれたお礼だ。気に入ってる様だし、買ってやるよ......」
 
  キュアリスは俺が突然言い出した提案に、明らかに困惑する。

「でも、こんな貴重そうな品、高いだろうし......」

  そう言って俺を気遣う彼女は、そっとネックレスを棚に戻したのである。


ーーしかし、俺はすっかり展示品に戻された真っ赤な宝石のジュエリーを手に取ると、何も言わずにレジへと向かって行ったのだ。


  俺は、どうしてもこれを彼女にプレゼントしたかったから。
  もっと輝く美しい彼女でいてもらう為にも......。

  格好良くレジへ向かったものの、思いの外値が張っていた為に、背後でちょこんとしてるキュアリスに気づかれぬ様、毅然な振る舞いを見せていた。
正直、心の中では、「めちゃくちゃ高くないか......? 」とか思っているなんて、決して言えないのだが......。
同時に、これまでコツコツと貯金を続けた自分を労いたくなったのである。

  その後、会計を済ませて店を出て外のベンチへ腰掛けると、俺はそっと小さな紙袋に入ったネックレスを渡して感謝を述べた。

「今日は本当にありがとな......」

  恐縮そうにそれを受け取ったキュアリスは、

「本当にありがとう......。ずっと大事にするね......」

と、小さく頬を赤らめながら感謝の言葉を述べた。


ーーその後で、ソワソワとしながら、彼女は何か言いたげな表情を浮かべていた。


「なんか落ち着かないみたいだが、どうした? 」

  やり切れなくなって俺がそう問い掛けをすると、彼女は再びモジモジとしている。


ーーそして、意を決したのか、視線を下にずらしながらキュアリスは俺にこんなお願いをしたのである。


「このネックレス、今、私につけてくれない......? 」

  それを聞いた俺は、嬉しさと恥ずかしさと照れから、顔面が爆発しそうになった。


ーーだってつまり、俺がキュアリスにネックレスを付けるとか言うことは、彼女に触れるという事だから。


  今までそんな経験すらなく、ましてや余りにも遅れた初恋真っ只中の俺にとって、それは国家レベルにハードルが高すぎる事案である。

  だが、勇気を出して言ったのか、彼女は耳を赤くしながらずっと下を向いている。


ーーきっと、キュアリス自身も恥ずかしくて仕方がないのであろう。


  だからこそ、俺は意を決して深呼吸をすると、震える手を紙袋へと伸ばして、イヤリングを取り出したのである。

「分かったから、ジッとしてろよ......」

  そんな格好悪い言葉を口にしながら......。


  装飾する為に背後へ回ると、キュアリスが長い桃色の髪を持ち上げると、そこには真っ白なうなじが見えてきた。

  顔を近づけると、柔らかい髪からは植物にも似たシャンプーの匂いが鼻の奥を突き抜ける。

  彼女自身も緊張しているのか、小刻みに震えている様にも思える。
  俺は、緊張から乱呼吸になっているのを必死に隠しながら、その純白の素肌に相応しい装飾品を噛みしめながら通したのである。


ーーもし仮に、キュアリス自身が俺に好意を抱いての提案だとしたら、それはどれだけ嬉しい事であろう。俺はそんな気持ちにさせられた。


  だが、全く恋愛経験も無ければ、彼女の優しさを知っている俺にとって、そんなポジティブな考えに及ぶことは無かった。

  飽くまでも、高価な品を買ってくれた俺に、サービスタイムでも与えてくれたんだと訳の分からない解釈をした。


  そして、真っ赤な装飾品が施されたネックレスをつけ終わった時、改めて彼女は俺に満遍の笑みでこう言ったのである。

「どうしても、一生の宝物になるこのネックレスを、雄二に付けてもらいたかったんだ。前に受け取ったマジックアイテムは無くなっちゃったから......。でも、心配しないで! これだけは絶対に何があっても手放さない! だって、雄二がくれたものだもん......」


ーーそう言って先を歩いて行った彼女の発言を聞いた俺は、狐につままれた様な間抜けな顔になっていた。


  ここまで喜んでくれるキュアリス。

  加えて、一生の宝物と言ってくれた。
 

ーーそこでやっと、俺は彼女の気持ちをぼんやりと疑ったのである。


  もしかして、キュアリスは俺の事を......。


  そう思えば思うほどに、彼女の首元で真っ赤に輝くそのネックレスは輝きを増していくのであった。
  
  気がつけば、先程からずっと感じている記憶にすっぽりと風穴を空けられた様な違和感は、浜風と共に吹き飛んで行き、俺は夕暮れに染まる海を横目に、大きな観覧車に向けて足を進めたのだった。

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コメント

  • ノベルバユーザー205188

    すいません
    冗談です っての所
    冗談で じゃないですか?
    気になったので。。。。

    0
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