天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第249話 この場所で。


ーーーーーー

  数百年前、遠い遠い世界で、歴史上で最も悲惨な夜が訪れた。

  下界に訪れた人々は、その恐怖に恐れおののき、生き絶えて行く。

  『地獄』と呼ぶに相応しいその惨劇を人々は只、受け入れるしかなかった。


ーー何故ならば、それを引き起こしたのは、紛れもなく世界で最も信仰されていた神なのだから......。


  その神は人間に罰を与えた。

  本来の責務を見失って......。

  多くの神々はそれに抗った。説得をした。

  だが、意味はなかった。

  その神は、余りにも力を持ち過ぎていたからだ......。
 
  自ら下界に降り立って、『粛正』と評して人々を殺し続けた。

  粛正、粛正、粛正......。

  ひと月ほど、その殺戮が続いた時、多くの国家は滅亡し、気がつけば世界の人口は半数ほどに減少していたのだ。

  人々は神に怯え、自分の無力さに絶望した。


ーーだが、そんな時、眩い光を放ちながら神へと剣を向ける青年が現れた。


  彼は、見た事もない不思議な力を使って、神をある場所へと封印した。


ーー誰も立ち向かえる事のない圧倒的な存在を......。


  それを見た人々は、彼を『英雄』と称えた。

  だが、世界に平和が戻ったのち、彼を見た者は何処にもいない。

  誰も消息を掴めない。

  人々は夢でも見ていたかのような錯覚に苛まれる。

  そして、この伝説は後世まで残っていくのである。


ーー『英雄』が世界を救ったと......。


ーー余程の強者じゃない限り、あの悪夢は永久に起こる事はないと......。


ーーーーーー

「それにしても、さっきは驚かせてすまなかったな」

  そう言って笑顔のままお詫びと言わんばかりにコーヒーを全員分買ってきたのは、『異世界の料理店』店主のリハスであった。

  優花は、彼の発言に対して、相変わらず狐につままれた様な表情を浮かべながらすっかり元通りになった公園や海を眺めた。

「それは良いんだけど......」

  彼女はそう呟くと、暖かいコーヒーを手に取ってもう一度周囲を眺めた。

「まだ、今起きた事が理解できないよな。それは、理解出来る」

  リハスは優花の疑問を察する様にそう呟くと、ゆっくりと公園のベンチに腰掛けた。


ーー相変わらず、ヒロは眠ったままである。


  リハスの発言を最後に周囲は静寂に包まれた。

  その空気に苛立ちを覚えたのか、キャロリール王女は彼にこう話しかけた。

「だが、本来は人々を幸福へ導くべき神がこの様な企みをするとは、本末転倒であるな」

  そんな王女の正論に対して、リハスはこう返答をする。

「王女殿下のお気持ちは充分に理解できます。しかし、今はそれだけ神と下界の人間との距離が近づいている証拠であるのですよ」

  リハスの発言に対して、ミルトは疑問をぶつけた。

「でも、神と人間の距離が近くって言うのはそんなにいけない事なの? むしろ、近い距離で人々を守れるという印象を受けるんだけど......」

  リハスはそんなミルトの質問に対して、あご髭を触りながら遠くの橋の方を見つめた。

「じゃあ、嬢ちゃん。例えば、永遠に朽ち果てない体で何百年、何千年もの間、密室に閉じ込められ人々を見守り続ける事が運命付けられたとしたら、どう思う? 」

  彼はミルトの疑問に対してそう問いかけると、彼女は少し考えた後で、首を大きく横に振った。

「そんなのは絶対に嫌だね。だってそれって、ずっと拘留されたまま生きるのと変わらない訳だし......」

  ミルトの返答を聞いたリハスは、ニコッと笑いながらこう呟いた。

「つまり、そう言う事だよ。神々は何百年、何千年もの間、人々を見つめる事に退屈しているんだ。だから、刺激を求めたんだ。次に下界に降りた神は、欲を覚えた。それが故、この様な事が起きてしまう」

  リュイはそんなリハスの言葉に頷いた。

「確かにな、それならば数多に神が存在するのならば、欲望を求める者がいても不思議ではない」

「物分かりがいいな。それに、この世界には多くの信徒が存在する。本来、神という存在は多くの信教や崇拝によって誕生して行くんだ。だが......」

  リハスはそう呟くと、真剣な表情で気を失っているヒロを見つめた。

「下界に降り立った中には、その教えが人に反して誕生した神もいるって事だよ。例えば、殺戮、占領、欲望......」


ーー彼の口から出た言葉に対して、全員は言葉を失った。


「って事は、神様ってみんながみんな良い人じゃないって事なの......? 」

  桜は泣きそうな表情を浮かべると、リハスの腕を掴んでそう問いかけた。

  すると、彼はそんな少女の質問に小さく首を横に振った。

「つまり、そういう事だ。現に、お前達は狙われた。しかも、この場所で......」

  彼のそんな発言に対し、もう一度静まった後で、キャロリール王女はこう呟いた。

「この場所で先ほどの事件が起きた事には、何か特別な理由があるというのか......? 」

  王女の真剣な質問に対して、リハスは小さく微笑むと、こう静かに返答した。

「やはり、覚えておりませんよね。十年程前にこの地で起きた悲劇を......」

  優花はそんな二人のやり取りを聞くと、昔の事を必死に思い出した。


ーーここでそんな大規模な事件なんか起きたっけ......?


  彼女は脳内で必死に模索したが、結局、その出来事には心当たりがなかった。

  続けて呆然とする全員に向けて彼はこう言ったのである。

「あったんだよ、十年前に。この場所で神々の戦争が。誰も覚えてないのは当たり前だ。俺達神の使いが全て記憶を消して、建造物は修復し、全て無かったことにしたのだから」


ーーリハスの口から出た余りにも衝撃な発言に対して、優花は言葉を失った。


  昔、異世界であるはずのこの地で神々の戦争は起きていたのだ。


ーー誰も覚えていない、ハッキリと風化した事実として......。


  そして、最後に彼はこう言い放ったのである。

「その時、一番最初に攫われたのが、キャロリール王女殿下。あなただったのですよ」

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