天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第247話 ヒロくんの変化。


ーーーーーー

  俺は、海の見える位置にある赤煉瓦の建物の前に立つと、ふと、昔の自分を投影した。


ーーこの場所は、俺にとって最も縁遠い場所だった。


  訪れる者は、カップルであったり、友人であったり、何にせよ、誰もが充実した時間を過ごしている。

  それはまさに、観光地に相応しいスポットで、夜になるとライトアップなどもされるらしい。

  解放されているスケートリンクには、脇目も振らずに仲睦まじく寄り添うカップルの姿が目に飛び込んで来た。

  それに対して慌てて目をそらすと、俺は隣にいるキュアリスの方へ視線を移した。

  彼女は、相変わらず見るもの全てに興味を示している。

  その中でもやはり、聳え立つ煉瓦造りの建物に最も目を輝かせていた。

  俺は、そんな彼女の表情を見ると、再び過去の自分にジレンマを感じる。

  きっと、もっと上手く立ち回れていれば、友達に囲まれてこの様な場所に遊びに来られていたのかもしれないと。

  自宅と学校を行き来するだけの単調な生活ではなかったのかもしれないと。


ーー後悔のみが尾を引く。


  あの時の自分が強ければ......。

  自分の才能を呪わなければ......。

  今考えても、昔の自分は卑屈で卑怯な男だと、この相対的な風景を見ると、痛感させられるのであった。

  それを背負いこむ様にして、俺は大きくため息をついた。


ーーやはり、日本という場所は、俺にとって強いトラウマであったのである。


  だが、そんな風に弱気な表情で項垂れる俺を見たキュアリスは、口を膨らませて怒りを露わにし、こう俺を諭したのである。

「何でそんなに情けない顔をしているの? また、昔の事を思い出していたんでしょ! ダメだって言ったじゃん。楽しむって決めたじゃん! 過去は過去なんだから! 今を楽しまなくてどうするの? 」

  それを聞いた俺は、無理やり笑顔を作った。

  その後で、こんな事を呟いた。

「なんか、初めて二人でヘベレスシティの街を巡った時も、同じ事言われたな」

「うん、あの時から私はずっと同じ事しか言わないよ! だって、雄二にはずっとずっと笑顔でいて欲しいから! 」


ーー俺は、そんな風に言った後ではにかんだ表情を見せるキュアリスの顔を見つめると、心の底で安心したことに気がついた。


「俺は、キュアリスがいなきゃ、ダメなのかもしれないな......」

  思わず口にした本音に対して、あまり聞こえていなかったのか、キュアリスは、

「今何か言った? 」

と、改めて問いかけた。

  それに対して、首を小さく横に振ると、俺達は建物の中にある雑貨屋へと足を運ぶのであった。


ーーーーーー

「何故ですかね! 今、僕の中で力が込み上げてくるのが分かります! 」

  ヒロは、海の見える公園内で騒めく周囲の目も気にせずに、全身に炎のオーラを纏っていた。


ーー何かの手品と勘違いしているのか、彼の周りには次第に人だかりは増えて行った。


「どういう事なの......? ヒロくんは転移してないから、『異能』を使うことなんて出来ない筈なのに......」

  嬉しそうに炎を自在に操る彼の姿に、優花は動揺を隠せずにいる。

「何故かは不明だ。だが、あたしの記憶とも何らかの関わりがある事はまぎれもない事実みたいだな。優花の見てきたこの世界とはまるで違う過去を見た訳なのだから」

  王女はそう返答すると、眉間にシワを寄せた。

「どちらにせよ、このまま人々に見られ続けるのも、危険と捉えます。それに、彼の表情は明らかにマズイと言えます。初めて感じる力に酔いしれているみたいですし......」

  そう言うと、リュイがヒロを睨みつけた。

  そんな話を続ける優花を見たヒロは、周囲の人々の輪から外れると、得意げに炎を手元に作り彼女に対してこんな提案を始めた。

「やっぱり、せっかく手に入れた力ですから、もっと沢山試したいですよね! だから、優花! 僕と一度戦ってもらえませんかね? 」


ーー自分の力試しに張り切り出したヒロはそう言うと、サッカーボール程の大きさをしたその炎塊を優花に向けて放った。


  そんな突然の攻撃に対して、優花は動揺と共に避けられないと悟った。

「どうして......? 」

  そして、目と鼻の先に火の玉が現れた時、背後からは暴風が吹き荒れた。

  それと同時に、優花の体は吹き飛ばされて何とか攻撃を回避したのである。

「何をしておるのだ! あと少しで攻撃を直接受けるところであったぞ! 」

  王女はそう怒鳴ると、優花の体を掴んだ。

「あ、ありがとう......」

  まだ気持ちの整理がつかない優花は、そんな風に素っ頓狂な口調で返答をした。

  それを聞いた桜、リュイ、ミルトの三人も、『異能』のオーラを纏うと、構えた。


ーーしかし、そんな中で、ミルトは彼の様子の変化に焦りを感じた。


「てかさ、あの少年、少し様子がおかしくない......? 普通、こんなに早く『異能』を使いこなすなんて、不可能だと思うんだけど......」

  彼女がそう呟くと、ヒロは先程までの表情を変えて悪意に満ち溢れた顔を見せた。

「何だ、もう気づかれちゃったか......。あまり好きじゃないぞ、勘の鋭い奴は......」

  そんな風に呟いたヒロは、完全に他人であった。

  まるで、誰か違う人間が乗り移ったかの様に......。
 
「あなた、ヒロくんじゃないでしょ......。一体、誰なの......? 」

  優花は恐る恐るそう問いかけると、ヒロは逃げ惑う人々を蹴散らして、ニヤッといやらしい表情を浮かべてこう返答した。

「まあ、黙っている必要もないな。俺は、『シュワール国』を束ねる主神ワンドール様に支えし十三の使いの一人、ヴリオーダだ。このガキの体は、実に使い勝手が良いよ。どうやら貴様ら『崩壊の神』が我々の討伐を画策していると聞いたのでな、潰しに参った所存だ。ちょうど良かったよ。この場所に訪れてくれて......」


ーーそんな風に発言したヴリオーダと名乗る男の存在に対して、優花は顔を強張らせた。


「『シュワール国』......」

  彼女はそう呟くと、一度両頬をパンっと叩いた後で、彼を睨みつけた。

  そして、彼女は周囲で騒めく悲鳴をよそに、全身に真っ青な水のオーラを纏ったのである。

「この場所に隠された謎と、王女の見たこの世界の過去。それが一体、何を意味するのかは分からない。でも、あなたにこの世界の人々を悲しませる事だけは絶対に許さない」

  優花がそう言うと、ヴリオーダはケラケラと高笑いをした。

「まあ、どちらにせよ、貴様らは全員死ぬ運命だ! 我々に楯突こうと画策した事を後悔しながら死ぬが良い! 」


ーーそんな宣言をすると、優花とヴリオーダの二人は『異能』のオーラを強めた。


ーー意図せぬ形で戦いは始まってしまったのである。


ーー日本という異なる世界で......。


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