天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第246話 記憶の齟齬。


ーーーーーー

「全く......。とんでもない者に付きまとわれたものだ。まあ、今のところ、二人のデートが順調である事が確認出来たのは良かったが......」

「まあ、デートに関しては多少のぎこちなさがあるものの、お兄ちゃんも少し元気取り戻したみたいだしよかったね。でも、ヒロくんの事に関しては、仕方ないじゃない。あなた、王女自身が余計に『異能』を使った結果なんだから」

「確かに、優花殿の言う事は、間違ってはいない。しかし、王女殿下の前だ。あまり馴れ馴れしい口の利き方は......」

「いやいや、リュイ。今はそんな事言っている場合じゃないでしょ! とりあえず、雄二達は移動してしまったみたいだし、早く追い付かないと! 」

「ミルト、いい事言ったね! 次はどんな所に行くんだろうなぁ~。桜、この世界が好きだから、楽しみで仕方がないよ! 」

  雄二とキュアリスの二人を追いかけて電車に乗った五人は、シートに腰掛けてそんな会話をしていた。


ーーだが、ヒロは何が起きているのかもわからずに、眉をひそめていた。


  何故ならば、彼の目から見ると、五人は一切口を開く事なく、目配せだけをしているからだ。


ーー王女は、彼が登場してからすぐに伝達の『魔法』を使って、ヒロに会話が聞かれない様に配慮をしたのであった。


  水族館で購入した土産を手に沢山持ちながら......。

「何でいきなり黙り込んでしまうんですか? 優花、また何か新しい力を使っているのでは......? 」

  ヒロがシートから立ち上がって優花の眼前までやって来てそう問い詰めると、彼女は顔を赤くして反論したのであった。

「な、何を言っているのか?! ただ、少し疲れちゃっただけだよ!! べ、別に『魔法』とかそう言う物を使っている訳じゃ......」

  優花はそう取り繕うと、途中で「ハッ! 」としたのであった。


ーー今、口を滑らせて、『魔法』という言葉を出してしまった......。


  優花がそれに気づいて慌てて撤回しようとしたが、ヒロはその禁句に対して大げさに反応した。

「やっぱり! 今、『魔法』って言いましたね! 今、僕ははっきり聞きましたから! 優花は昔から、妙な儀式を行っていた! これはつまり......」

  そんな風に車内でざわめくヒロの行動を見た後で周囲に視線を移して、彼の口元を、優花は慌てて塞いだ。

「だから違うって。確かに私は混沌の闇に葬られし禁忌の儀式を執り行った邪神ではあるけど......」

「やはり、本性を現しましたね! 僕は最初から分かっていたんですよ! あなたが邪神である事を......」

「た、確かに、邪神である我の秘めたる力は、大地や天空をも超え、この世界に終焉をもたらすであろう......」

  優花がヒロに乗せられて周囲も気にせずに立ち上がって中二病なポーズを取った。

  それに対して、ヒロはニヤリと笑いながら大げさに反応した。

「まさか、そこまでの秘密が隠されていたとは......。僕もまた、秘密を司りし者になってしまったという事ですね......」

  完全に二人が独特な世界感に酔いしれている中、リュイは次の駅を示すアナウンスを耳にした。

「あの、優花殿。勢いに乗ってきて申し訳ないのだが、降車する駅は、ここではないのか......? 」

  それを聞いた優花は、途端に素に戻ると、車内の電光掲示板に目をやった。

  その後で、慌てて皆にこう言った。

「そうだ! この駅だよ! 早く降りるよ! 」


ーー優花は電車から降りると、今まで取っていた自分の行動と、周囲の視線を思い出した後で、顔を真っ赤にし、ヒロを睨みつけた。


「さっきのは、全部嘘だから......」

  彼女が弱々しい口調でそう呟くと、ヒロは真面目な表情を少しだけ緩ませて、こう口にしたのである。

「分かってますよ。優花の言った事が、全て事実だって。あなたが邪神である言質はもう取れました。後は、能力お披露目の時を待つだけですね......」

  彼の完全に信じ込んだ目を見て、優花は再び恥を感じた。

「もうやめて......」

  そんな中、目の前で繰り広げられた茶番劇をジーッと見ていた王女は伝達の『魔法』によって、こんなことを伝えたのである。

「まあ、何にせよ、我々が異世界からきた事は隠せて良かったではないか......」

  それを聞いた優花は、思い切り苦笑いをしたのである。

  すっかり勘違いをしたヒロは相変わらず付き纏っているのだが......。


ーーーーーー

  電車から降りて、二人が向かったとされる海の見える公園まで徒歩で向かって行った。

  王女の『魔法』の作用によると、雄二とキュアリスの二人は、もう既に海を沿う様にして煉瓦造のお洒落な建物の方へ向かってしまったらしい。


ーーそんな中、とりあえず公園の入り口まで向かう途中、周囲は高いビルやホテルといった類が多く点在しており、まさにその街の象徴とも言える風貌をしていた。

 
  桜と王女はそんな風景にも興奮を隠せずにいて、相変わらず賑やかである。

「丘の上から街の風景は雄二と一回だけ見た事あるけど、昼間に歩くとやっぱり違うね! 」

  桜がそんな発言をしながらはしゃいでいると、王女はニコッと笑いながらこう返答をする。

「確かに、この世のものとは思えない景色だ......。我が国家にも、欲しいぞ! こんな屈強そうな建物が! 」

  王女はすっかりと『魔法』の存在を忘れてそんな事を叫んでいると、すかさずヒロは優花の耳元でこう囁いた。

「天と地を司りし邪神よ。あの幼女は、何処かの国の王女なのでありますか......? 何か、力を求めての発言と心得ましたが......」

  彼女はヒロの勘違いにすっかり安心したのか、彼に向けて適当にこんな発言をした。

「はいはい、きっとそうだね......」

  それを聞いたヒロは、何故か嬉しそうな、悲しそうな顔をしていた。

  優花は、そんなヒロの表情を見た時、何かを察した気がする。


ーー多分、彼はきっと、先程見た王女の『異能』の存在など忘れてしまったのであろう。


  彼はきっと、寂しいのである。

  以前、一人で過ごした優花にとって、それは痛い程理解する事が出来たから。


ーー彼は変わり者扱いされていた。


  いや、今もこの調子では同様であろう。

  きっと、ファンタジーな世界を信じているのは事実であろう。

  しかし、そんな幻想では埋められぬ心の穴を、少しだけ感じ取れた気がした。


ーー優花は、昔から彼を煩わしく思い、軽くあしらっていた。


  今思うと、兄を探す必死さから、何度も酷い言葉を投げかけた事がある。

  幼い頃はよく遊んでいたのに......。

  そんな風に考えると、彼に対して激しい罪悪感を感じたのである。

「ごめんね、ヒロくん......」

  彼女は上機嫌にはしゃぎながら王女と桜の元へと向かって行ったヒロに対してそう呟くと、目的地である海の見える公園の前で立ち止まったのである。

「皆の衆! いよいよ、約束の地に到着したぞ! 」

  優花が中二全開のテンションでそう宣言すると、ヒロは相変わらず嬉しそうな表情で、

「何っ?! ここが邪神が契約を交わされた約束の地......」

と、彼女と同じ様なテンションでそう呟いていた。

  そんな風に、二人が常人には理解できない会話を繰り広げていると、桜はある変化に気がついた。

「あれ、王女様。いきなりどうしたの......? 」

  桜は隣にいる王女にそんな問いかけをした。


ーー何故なら、先程まで上機嫌だった筈の王女は、目の前に飛び込んできた海、船、跨ぐようにして架かる一際大きな橋を見渡すと、呆然と立ち止まってしまったからである。


「ここって......」

  王女はそう呟くと、再び黙り込んだ。

「いきなりどうしたの?! 」

  優花は心配そうに王女に問いかける。

  すると、王女の口から出た言葉は、あまりにも不可解なものであった。

「あたしは多分、幼い頃にこの場所に訪れた事があるのだ」

  そんな発言をした王女に対して、ミルトはニコッと笑いながら明るい口調でこう返答した。

「そうだったんですね! まさか、昔来たところにもう一度来られるなんて! 」


ーーだが、その後に返って来た言葉は、誰も想像できないものだった。


「でも、前に来た時はこんな風景では無かったぞ。もっとこう、殺伐としていたのだ。周囲の木々は焼け、空には鉄の鳥が何らかの武器で街を破壊し、人々は逃げ惑っていた。まさに、地獄を思わせる景色だったのだ......」

  それを聞いた優花は、混乱した。


ーー今から十何年の間、この地は変わらずに風景を保ち続けている筈だったから。


  なのに、何故、王女はその様な惨状を目にしたのか。

「きっと、場所違いじゃないかな? 」

  優花は恐る恐るそう問いかけた。

  しかし、王女はそれに対して首を小さく横に振ると、

「いや、間違いなくこの場所だ。あそこに見える橋も、大きなビル群も、巨大な丸い建物も、全てこの目で見た」

と、はっきりと口にしたのである。

  彼女は、それを聞くと黙り込んだ。


ーー王女が見たこの場所って一体......。


  優花はそう考えると、眉間にシワを寄せたのである。


ーーそんな中、ヒロは何度もしつこく彼女に声をかけて来た。


「聞いてくださいって! 優花! これは一体、何なんですか?! 」

  あまりにも繰り返し声をかけるヒロに煩わしさを感じて、怒ろうと振り返った時、彼女は呆然とした。


ーー何故なら、歓喜の声を上げる彼の指先からは、微量ながら確実に火の『異能』が現れていたからである。


  優花はそれを見た時、より混乱した。
  

ーーもしかしたら、王女の発言から察するに、この公園には、何かの秘密が隠されているのかもしれないと。


ーー本来、こちらの世界の人間であるはずのヒロの『異能』の覚醒、それに、あまりにも不可解な王女の発言。


  そんな同時に現れた二つの謎を抱え込んだ彼女は、雄二とキュアリスのデートの事を次第に忘れていくのであった。

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