天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第244話 少年の正体。


ーーーーーー

「その水族館とやらはここか! この中の何処かにキュアリス達はいるのだな!! 」

  少し興奮気味に辺りを物色するのは、例の小さな王女だ。

  優花が涙した一件からと言うもの、彼女は大人しく電車に乗ってこの場所まで滞りなく辿り着いたのである。


ーーそんな王女に対して、優花はほんの少しだけ違和感を感じていたのだが......。


  だが、優花はそれよりも背後に違和感を感じていた。


ーー誰かにつけられている。


  彼女は直感でそれを理解していた。

  今だって、水族館に通じる並木道の陰に隠れているのである。

  その存在が一体誰なのかは分からない。

  何故、何のために、どのような目的で彼女らを付けているのかも、謎なのである。

  そこで、目の前で目的地に到着してすっかりとご機嫌になった王女と桜、それにミルトを横目に彼女は少しだけ中二的な思想で考えてみた。


ーーもしかしたら、この国のトップシークレットな事案として、『異世界』の存在を知っている組織が我々に対して疑惑の目を向けているのかもしれないと。


  更には、『異能』や『魔法』についても熟知しており、この平和な日本を侵略しようと危険な思想を持っているのでは。

  その為に、優花を始め全員を拉致しようと......。

  優花は、そう考えると小さな恐怖心を抱いた。


ーー敵が組織の人間ならば、私も本気で掛からなければならない。


  そんな風に多くの考えを巡らせていると、彼女は次第に深刻な表情になって行った。

  その顔を見たリュイは、優花の肩をポンっと叩くと、真剣な眼差しでこう言ったのである。

「優花殿も気づいていましたか。どうやら、我々は付けられています。それが誰かは分かりませんが、情報が漏れ行く前に、手を打った方が良いかと......」

  リュイが背後の並木道を凝視しながらそう提案をすると、優花は小さく頷いた。

「ちょうど私も同じ考えを持っていたところだよ。今を逃すと、私達を狙う人間が更に増加して厄介な事になるかもしれない。それに、あの木陰に隠れられる程の人数ならば、どうやら今はまだ一人だけみたいだしね」

  優花のそんな発言を聞くと、リュイは周囲に歩く人々に気づかれない程の小さな火の玉を手元に作り上げた後で、ゆっくりとその違和感満載の木陰へと足を進めた。


ーーそして、勢い良くその場所に隠れていた一人の姿を見たリュイは、絶句した。


「少年......? 」

  リュイのそんな一言に対して、優花は慌てて木陰へと駆け寄った。

  すると、優花も同じ様に呆然とした。

  何故ならば、リュイに捕まってジタバタと腕を振り回すその人間は、まだ中学生程の外見をした坊主頭の少年だったからである。

  しかも......。

  優花はその少年を見ると、ポカンとした表情でこう呟いた。

「ヒロくん......? 」

  そんな問い掛けに対して、少年はリュイの腕を振りほどいた後で優花の存在を思い出して、こう喚き散らした。

「やっと思い出した! 何処かで見た顔だと思ったら、優花ですね! これは違うんです! 別に尾行をしようと思ったわけではなくて! ただ、両親に朝刊を取ってくる様に頼まれた時、たまたま皆さんの姿を見かけたのです! それで、興味本位で後を付けていただけで......。あっ! でも、決して尾行していたわけではないんです! 」


ーー少年は、明らかに動揺しながらそんな発言をする。


「でも、それを尾行と言うのではないか? 」

  リュイは冷静に少年の目を見つめてそう問いかけた。

「ち、違いますよ! な、何で僕が優花を尾行しなければならないんですか! 僕は只、興味本位で......」

  それを聞いた優花は、小さくため息をついた後で、こう問いかけた。

「とりあえず落ち着いて! まず、話を整理しようか。何で、私達をつけようと思ったの? 」

  少年は、そんなゆっくりと落ち着いて問う優花に対して、少し冷静さを取り戻した後で、こう返答したのである。

「だって、僕は見てしまったんですもん......。あなた方が不思議な力を使っているところを......」


ーーそんなヒロくんの発言を聞いた優花は、激しく動揺した。


ーー何故なら、王女が『異能』使う所を、はっきり彼に見られてしまったからである。


ーーしかも、あのヒロくんに......。


  ヒロくんは小学生の時から、ファンタジー世界に強く憧れを抱いていた。

  それが故、この世界での『魔法』に傾倒していて、何処から調べて来たのか分からない不確定な呪文や儀式を人知れず執り行う様な超の付く中二病であるのだ。

  優花が兄の失踪の手掛かりを掴む為に一人動いている間も、何と勘違いしているのか、何度も「あの呪文によって召喚すれば良いだけの話です! 恐怖に臆する事なく信念を持って進めば、必ずこの危険な儀式にも成功する筈ですから! 」などとしつこく付きまとってくる若干面倒な存在でもあった。

  偶然とは言え、今、彼にマークされてしまったことは不幸の他何者でもないのである。

  今だって、優花に対して恍惚の眼差しを向けている。

「あの、さっきやっていたあの魔法を使ってくださいよ! 優花だって出来るんですよね?! 僕にもやり方を教えてください! 」

  そんな風に鼻の穴を膨らませながらこちらに詰め寄ってくる。


ーー優花はヒロくんと幼馴染であったが故、スイッチの入った彼のしつこさはよく知っていた。


  一度興味を示すと、否が応でも離れる事はない。

  だからこそ、彼女は何とかして今すぐにでもこの場を離れたかった。

「ごめんね! 多分、それは何かの勘違いだから、何を聞いても無駄だと思うよ! 私だって、魔法なんて信じていないし、彼女達はお父さんの外国で知り合った子達がうちに泊まりに来ただけだから......」

  何となく言い訳をして優花はその場を逃れようとした。


ーーだが、もうヒロくんを止める事は出来なかった。


「そんな訳がありません! 僕の視力は2.0ですよ! 見間違いする筈がないのです! だから、真相を話すまで僕はあなた方と行動を共にする事にしたので! 絶対に離れませんから! 」

  彼はそう宣言すると、水族館の方へと歩き出して行った。

  優花は、それを聞くと、もう一度大きくため息をした。


ーーまたひとり、厄介な人間が付いてしまった。これでは、お兄ちゃんの尾行どころではないな。それに、ヒロくんにバレないようにも、より一層、ボロを出さないようにしなければ......。


  彼女がそう考えて頭を悩ませていると、水族館の入り口にて王女ら三人が係員と揉めているのを見かけた。

「何でなのだ! この中に、仲間がいるのだ! だから、早く中に入れろ! 」

「お客様、困ります。一度、入場券を購入して頂いてからでないと、中へは入れませんので......」

  優花はそんなやり取りをしている王女を見ると、もう一度大きくため息をついた後で、慌てて全員分の入場券を買い、不審がる係員に謝罪を述べて水族館に足を踏み入れたのである。


ーー鋭い眼で興味津々に全員を見つめるヒロくんを横目に......。

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