天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第243話 やっと団結。


ーーーーーー

  俺は、少し肌寒い空の下、多くの人で賑わっている水族館に辿り着いた。

  目の前には遊園地と思しきジェットコースターなどもあり、まさにデートには打って付けと言った外観だ。

  潮風の香りが漂うその場所には、家族連れやカップルで賑わっている。

  そんな中、施設の入り口に立つと、俺は少しだけ躊躇した。


ーー何故なら、俺は一度もこの場所に来た事がないからだ。


  この地域の人間であれば、間違いなく幼い頃から一度は訪れた事のある定番中の定番とも言えるこの水族館。

  だがしかし、俺はこの通り家族との時間を殆ど過ごしていなかった。

  よって、初めて足を踏み入れるのである。

  まず、水族館がどの様な場所かすらも分からない。

  テレビから流れる映像程度の知識しかない。

  だからこそ、こんな当たり前の時にすら緊張感を抱くのである。

  俺は、キュアリスを上手く案内出来るのであろうか......。

  まだ始まったばかりのデートにも関わらず、唯一で最大の弱点である考え込みすぎる癖が自分を支配して、俺は立ち竦むのであった。

「ねえ、入らないの......? 」

  キュアリスは少し不安そうな表情を見せながら、俺にそう問いかけた。

  それを聞いた俺は、ゴクリと生唾を飲み込むと、一度「パンッ! 」と両頬を叩いて自分を奮い立たせた。


ーー大丈夫だ。だって、水族館の施設内は予習済みだし、絶対に楽しませられるはずだ。


  俺はそう気合を込めると、キュアリスの方へ顔を向けてこう案内した。

「この中には、キュアリスが今まで見た事のない珍しい魚が沢山いる。きっと楽しめると思う! 」

  そう言うと、彼女は小さく微笑み頷いた。

「そうなんだ。もう既に、私にとって不思議で塗れているのに......。ここにはどんな素晴らしい光景が待っているのか、すごく楽しみだよ」

  嬉々として語った後で、キュアリスは自分の両頬を叩いた。

「雄二が気合入れてたから、私も気合入れてみたよ! 」


ーーそう言ってはにかんだ彼女の姿を見ると、俺は次第に声を上げて笑っていた。


「そんなに危ないところではないよ! 」

「じゃあなんで、あんなに戦場に行くみたいな顔していたの? 」

  その理由に全く気がつく事なく純粋に返って来たその問いかけを聞いた俺は、恥ずかしくなって顔を赤らめて彼女から目をそらしてこう返答した。

「特に、理由なんてないよ。只の癖だ......」

  それを聞いたキュアリスは少し首を傾げていた。

  俺はそんな彼女の背中を押した後で話をそらす様に、

「良いから早く行くぞ!! 絶対に楽しいから!! 」

と言って、買ったばかりのチケット二枚を係員に見せると、水族館の中へと足を踏み込んだのである。


ーーキュアリスはたまに抜けている。


ーーまあ、それがどうであれ、まだ当分俺には言えなそうだ。「お前が好きだ」なんて......。


  そんな事を考えていると、今二人で歩いている奇跡にほんの少しだけ感謝をするのであった。


ーーーーーー

  辿り着いたマンションの軒先で、優花は立ち尽くした。


ーー何故なら、どうやら兄、佐山雄二はもう既に自宅を後にしてしまった様であったからだ。


  幾分、一駅先にある兄の家までも、例の王女が見るもの全てに興味を示して道草を食ってしまっていた。

  その結果、兄はもう既に出かけてしまったのである。

  兄は在宅の際、常にカーテンを開ける癖があった。


ーーだが、外から見える雄二の部屋のカーテンは見事に閉まっていたのである。


  それによって、優花は一足遅れてしまった事に落胆する。

「もう行っちゃったんだ......」

  優花がそれに落ち込んでいると、キャロリール王女は途中ゴネにゴネて立ち寄ったコンビニで購入した骨無しのチキンを頬張りながらこんな事を口にした。

「何故、見失ったのだ!! おかしいぞ!! こんなにも早く出て行くとは想定外だ!! 」

  そんな王女に呼応する様にして、桜も板チョコを口にしながらこう言う。

「王女様の言う通りだ!! なんで、雄二がいないの?! 桜達は、こんなに早く動いていたのに!! 」


ーー二人の素っ頓狂な会話を聞いた優花は、自分がやっている行動を悉く欺かれている事に段々と悲しみを覚えて来た。


  そして、その場でしゃがみ込んで泣き出したのだ。

「二人とも、なんで、言う事聞いてくれないのぉ......? もう、お兄ちゃんも見失っちゃったし、終わりだよ......」


ーーそんな風に鼻水を垂らしながらまるで幼女の様に情けない姿で泣きじゃくる優花を見た王女と桜は、途端に食べる手を止め、あからさまに「ヤバイ」と、罪悪感を全身に感じた。


「な、泣くでない! 優花よ! あ、あたしも調子に乗り過ぎた! 罪滅ぼしではないが、あたしに一ついい案があるんだ! 」

  必死に取り繕ってそんな事を言い出した王女に対して、リュイは苦笑いを浮かべる。

「王女殿下、でも、その良い案というのは、また優花殿がご法度と言っていた『異能』の類を使ったものではないですよね......? 」

  そんな念を押す様に優花の気持ちを代弁したリュイに対して、王女は首を大きく振った後でこう反論した。

「そんな訳であるまい! 流石にこう、あれだ、泣かせてしまうとは思っていなかったから反省はしている......。だから、あたしのやり方を信じてくれ! 」


ーーそれを聞いた優花は、目を真っ赤に腫らしながらこう問いかけた。


「グス......。本当に信じても良いの......? 」

  優花の弱々しい発言に対して、キャロリール王女は引きつった笑顔を見せると、首を大きく縦に振った。

「任せておけ! これは、王族に代々伝わる奥義の『魔法』だ! 相手の意識の断片に入り込んで、今、彼が見ている景色を見る事が出来るんだ! これならば、奴らがどこにいるかすぐに分かる! 大規模に『異能』を使う訳ではないから、誰にも迷惑は掛けないはずだぞ! 」


ーーそれを聞いた優花は、半信半疑になりながらも、彼女の案に乗って見る事にした。


「分かったよ......。なら、もう一回だけ王女を信じてみるよ......」

  そんな優花の発言をキッカケに、王女はニコッと笑った後で、ボソッと呪文を唱え始めた。


ーー佐山雄二に意識を向けながら......。


ーーそれから暫く、王女は目を瞑っていた。


  まるでさっきまでの騒がしい時間が嘘であるかの様に......。

  そして、王女がパッと目を開いた時、こう発言をしたのである。

「佐山雄二から見えた景色の説明をしよう。どうやら奴らは、海沿いの遊園地と併設する魚が多く展示されている場所にいる様だ。優花、そのヒントで、どこであるか分かるか?! 」

  それを聞いた優花は、少し考えた。


ーー魚が多く展示されているのは、水族館の事だろう。それに加えて海沿いで、遊園地。


ーーと言うことは、つまり......。


  彼女はその場所がどこであるか閃くと、勢い良く立ち上がって、笑顔でこう宣言した。

「うん! 今、雄二とキュアリスのいる場所は分かったよ! 間違いなくあそこしかない! じゃあ、追いかけようか! 」

  すっかり機嫌を取り戻して意気込んだ優花を見ると、王女はホッと胸を撫で下ろした。


ーーその後で、勢い良く歩き出そうとする優花の袖を軽く掴むと、少し弱々しい表情でこう呟いたのである。


「あのぉ......。さっきは調子に乗りすぎてすまなかったな......」

  王女がそう謝罪を口にすると、桜も隣で頭を下げていた。

  それを聞いた優花は、ニコッと笑った後で、

「うん! 私もさっきは見苦しいところ見せちゃってごめんね」

と、謝ったのである。

  それを聞いた王女は安心して、自分が調子に乗り過ぎた事に反省をしつつ、笑顔でこう宣言したのである。

「では、向かおうではないか! 二人のいる場所へと!! 」

  そんな王女の発言に対して、全員は拳を振り上げて歩き出したのだった。


ーーーーーー

  あまりにも異様な発言を繰り返す五人の異質な少女達を物陰で見つめた少年は、心沸き立っていた。

「さっき、あのひと達は間違いなく『魔法』と言っていた! これはいよいよ確信に近づいて来てますね! これは尾行を続けなければ......」


ーー少年はそう呟くと、足早に進んだ五人の後をバレぬ様にして追いかけて行ったのである。

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